『銀河鉄道999』の機械伯爵はなぜ顔の真ん中にメーターがあったのか 誰かに見せるの?
マグミクス / 2024年8月12日 6時25分
■自分では見られないはずの「顔メーター」の謎
不朽の名作として記憶に残る劇場アニメ『銀河鉄道999』、なかでも親の顔よりも見たのが「機械化人達の顔にあるメーター」でしょう。正確にその回数を数えてはいませんが、主人公「星野鉄郎」にとって母の仇である「機械伯爵」が代表格であり、鮮烈に印象に焼き付いています。
なお最初に断っておくと、『銀河鉄道999』はマンガ、TVアニメなどいくつかバリエーションがあり、設定やビジュアルが異なるなどします。本記事は、あくまで最初の劇場版、および一部続編の『さよなら銀河鉄道999』におけるお話です。
さて、「顔のメーター」です。これらのメーターは、丸い表示面に十字やら文字が刻まれたアナログ式であり、原作者、松本零士先生の『宇宙海賊キャプテンハーロック』や深く関わられた『宇宙戦艦ヤマト』などにも共通して見られるものです。俗称「松本メーター」や「零士メーター」と呼ばれ、懐かしさと未来をつなぐレトロフューチャーなカッコ良さが愛されています。
ただしこのメーターは、『999』以外のほかの松本作品では、コックピットや機関部といったメカニック的にややこしそうな部位に集中しています。もともとこうしたメーターは、ひとつの計器につきひとつの情報しか表示できない、技術的な制約から多数、配されているものであり、それを数枚のディスプレイに集約したのが現代の「グラスコックピット」です。
銀河をかける超特急や、各部に様々なエンジンやノズル、銃火器などを満載した宇宙戦艦ならば、多くのパラメーターを1か所で知る必要があり、そのぶんだけメーターが増えまくっても不思議ではありません。「誰がどうやって1個ずつのメーターを見ているのか」は不明ですが、銀河の海を制覇した未来人なら、それぐらいこなせても当然なのでしょう。
とはいえ、まだ謎は残っています。機械化人のメーターのほとんどは顔にあり、鏡がなければ自分で見ることはできません。そもそも「計器」というのは、人が、機械を管理、操縦するためにあるものです。さらにいえば、顔のど真ん中にメーターがあれば、視界を遮ることにもなりかねません。
まぁ、メーター越しに目立たない穴を開けて内部カメラで外をのぞき見るといった、きょうびのスマートフォンのようなことはできそうですが、一見すれば合理性はないようにも思えます。なぜ、機械伯爵はじめ機械化人は、わざわざ顔にメーターを付けているのでしょうか。
仮説その1は、本当に「他人に見てもらうため」です。機械人の英雄である(惑星「メーテル」の機械化人 談)機械伯爵ともなれば、身の回りの世話も配下にやらせるはずであり、健康を管理するお抱えの医師もいることでしょう。いや、全身機械なのでメカをメンテナンスする専属エンジニアかもしれません。
ところが、大きな矛盾がひとつあります。それは、メーターひとつではひとつの数値しか分からないということです。機械化人といえども身体の部位は生身とほぼ同じであり、手足もあれば筋肉に変わるモーターも無数にあるでしょう。それらをアナログの計器ひとつですべて把握するのは、手練れのエンジニアでも至難のワザです。
もっとも機械の体の人間は頭が弱点のため(生身でもそうですが)、頭だけの状態が分かればいいとも考えられます。しかしそうなると、顔に「今日はメカの調子が悪いです」と表示し部下に見せびらかすようなことにもなるでしょうから、リスク管理が心配です。
もうひとつの可能性が、「機械化人であり、機械帝国に属している」ことを示す「アイコン」です。あの世界では機械化人が支配階級にあり、生身の人間を虐げる立場にあります。もしも機械化しているのに生身と勘違いされれば、機械化人同士のトラブルに発展しかねません。
あのメーターには特に機能はなく、「機械帝国の認証マーク」と考えれば辻褄が合いそうです。時間城の壁面も時計……というより松本メーターに覆われており、あれだけ目立つ形でふんだんに使えていることが、ステータスの高さを表している、という可能性もあります。
その逆のケースと思われるのが、「タイターン」にいたチンピラ機械化人です。お腹に、でべそのようにメーターを着けていて気の毒になりますが、社会的地位が低いため顔に着けることが許されていないのかもしれません。
■機械伯爵は機械帝国に管理される被支配階級だった?
2022年開催「銀河鉄道999シネマ・コンサート」プレスリリースより (C)松本零士・東映アニメーション
最後の可能性が、「他人にメーターを見てもらう」すなわち「管理される立場にある」、という見方です。管理するのは全宇宙の支配をめざす機械帝国であり、一国一城の主を気取る機械伯爵も、権力ピラミッドのいち部品に過ぎないという皮肉です。
そうなると、宇宙に散らばる星々を、機械帝国のエージェントがいちいち巡回して管理しているのか、等、疑問は尽きませんが、実は「そのエージェントの足としての銀河鉄道」という構図もあり得るでしょう。
また、惑星メーテルの機械人が鉄郎について「勇猛果敢さ、責任感の強さは、全てコンピューターでコントロールセンターに送られてきておりました」と言及していたので、5Gを超える速度の無線通信ネットワークがあってもおかしくはなく、機械伯爵もクラウド経由でリモート管理されていた、とも考えられます。
しかし、基本的に機械化人は強制的に改造されるわけではなく、体を「買う」ものだと鉄郎の母もいっていました。そもそも鉄郎が999号に乗ったのも、機械の体をタダでくれる星に行くためです。少なくとも、上流階級や大金持ちが、「支配されるためにカネを払う」というのもおかしな話でしょう。
これらをすり合わせる案としては、「料金別プラン」もアリかもしれません。つまり十分にお金を払える人たちは縛りのないボディを手に入れられ、機械帝国にメンテをしてもらうため定期的に課金をしているのです。かたや、無料でもらいたい人たちは惑星を支える壁やネジなど、がんじがらめのオプションが付いてきます。「タダほど高いものはない」のは、現実の21世紀にもよくあることです。
その場合、機械伯爵の顔メーターは機械帝国への高額課金マークであり、リモート管理のデータを送信するパーツでもあり、直接に検診できる計器も兼ねている……という仮説が浮かんできます。メーター付きとはいえ、無料ユーザーがネジにされるのとは対照的であり、格差社会の象徴にもなります。
ともあれTVアニメ版では「冒頭に10歳の子供に乱射されてあっさり退場」のモブに過ぎなかった機械伯爵が、劇場アニメではこれほど思索を深められる重要キャラにのし上がったことが感慨深いですね。
(多根清史)
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