MS「ドム」の「左胸にあるアレ」ってなに? 謎の装備について
マグミクス / 2024年8月14日 6時35分
■なかったことにされた内蔵ビーム砲
『機動戦士ガンダム』に登場する重モビルスーツ(MS)「ドム」は、エースパイロット「黒い三連星(ガイア、マッシュ、オルテガ)」による「ジェットストリームアタック」のインパクトが強烈でした。その機体について、ひとつ腑に落ちない点があります。ドムの「左胸のアレ」は何だったのでしょうか。
●ただの目くらまし、それともビーム砲?
ジオン軍のMS、ドムが初めて登場したのは、TVアニメ『機動戦士ガンダム』第24話です。特徴的な十字のモノアイレールの頭部に、袴をつけた武士のような重厚なフォルムは今でも全く古びておらず、その後、何度もプラモデルがリリースされ、多くの派生型MSが生まれました。
そのドムのメイン武器といえば宇宙戦艦をも撃沈する威力を誇る「ジャイアント・バズ」と、細くて長い竹刀のような「ヒートサーベル」です。しかしひとつ忘れてはならない武器があります。それが左胸にマウントされた謎の兵器です。プラモデルに付属する説明書などによると、正式名称を「拡散ビーム砲」といいます。
この装備がはじめて使用されたのは、TVアニメ24話「迫撃!トリプル・ドム」のエピソードで、黒い三連星が2度目のジェットストリームアタックを「ガンダム」に仕掛けるシーンです。この時、ガイアのドムの左胸から放たれた光は「ガンダム」を傷つけることはなく、一連の攻撃につなげるための目くらましとして使われていました。あれがビームかといわれると少し違和感があります。
しかし続く第25話「オデッサの激戦」では、ドムの拡散ビーム砲の描写が大きく変化しました。ビーム砲の名の通り、ビームライフルのように指向性のあるビーム兵器として描かれていたからです。
そして、TVアニメ放送後の映画『機動戦士ガンダムII 哀・戦士編』におけるドムの拡散ビーム砲は、第24話に準拠した目くらまし的な兵器として描かれました。これはいったいどういうことなのでしょうか。
■本当は拡散ビームではなかった?
ジオンMSの装備が実弾兵器主体からビーム兵器主体へ移行する過渡期にあったドム。「MG 1/100 ドム」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ
描写が一定しないドムの拡散ビーム砲について、TVアニメ『機動戦士ガンダム』放送後の展開を見る限り、『機動戦士ガンダムII 哀・戦士編』で描かれたカメラのフラッシュのような装備として定着しています。管見の限りにおいては、アニメ第25話の描写だけが例外扱いとなり、その後の「ガンダムワールド」では破壊力のあるビーム兵器として描かれていないようです。
カプコンが開発した名作アーケードゲーム『機動戦士ガンダム 連邦vs.ジオン』においても、ドムのサブ射撃として拡散ビーム砲が実装されていますが、射程距離はほぼゼロで威力もほとんどありません。ただし上手くヒットさせると相手をひるませるので、連続攻撃に繋げられます。こちらも目くらましとして機能しているのです。
また「ガンダムワールド」の拡大によって深堀りされた設定によると、ドムのビーム兵器用のエネルギーサプライ(供給口)として作られたものの、ビーム兵器開発の遅れと出力不足のため、ビーム兵器としては十分な出力が出なかったとのことです。そのため幻惑装置として機能することになったのでしょう。
●リアリティある設定のために
ドムの拡散ビーム砲が閃光弾のような兵器になったのは、設定を考慮してのことだと思われます。もともとドムはホバー移動しながらバズーカ砲を発射する重モビルスーツです。そこにビーム兵器まで内蔵しているということになると、性能面でほかのMSとの整合性がとれなかったのかもしれません。
また黒い三連星が活躍したエピソードには劇場版以降、ほとんど存在がなかったことにされたメカ「Gアーマー」が登場しています。Gアーマーはガンダムのパワーアップパーツ、あるいはサポートメカで、ガンダムと合体して飛行機になったり、戦車に変形したりします。
劇場版三部作以降、ミリタリーとSFの要素が充実した設定の定着したガンダムワールドにおいてほとんど触れられることがないGアーマーは、一部ファンからは最初から「いなかった」ことにされていたり「黒歴史」扱いされたりしています。
Gアーマーが登場した頃のガンダムは現在ほど世界観が確立されておらず、セールスの要素を含めて自由なメカの登場する余地がありました。その自由さが兵器らしさよりも「おもちゃっぽさ」を醸し出してしまい、その後の世界観に合わなくなってしまったせいでしょう。
TVアニメでGアーマーを操縦していたセイラさんは、劇場版「ガンダム」ではコアブースターを操縦しています。ビームライフルのようなドムの拡散ビーム砲と分離合体するGアーマーは「ガンダムワールド」が洗練されていく過程で、設定的に整合性のあるメカニックへと淘汰されていったもの同士なのです。
(レトロ@長谷部 耕平)
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