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「原作者激怒」は嘘だったアニメ 原作とかけ離れてても怒らなかった理由

マグミクス / 2024年8月21日 8時10分

「原作者激怒」は嘘だったアニメ 原作とかけ離れてても怒らなかった理由

■押井守監督に激怒? 高橋留美子先生に真相を尋ねる人たち

 近年、マンガや小説が映像化されると、原作者と制作陣の関係性が注目されがちです。作品の解釈やイメージの違いなどの「改変」のせいで、原作者が「激怒」してしまうケースが多いからです。

 アニメの歴史に残るような有名な作品でも、「原作者が激怒した」と伝えられているものがあります。しかし、一般の視聴者が、勝手なイメージで原作者が激怒していると思いこんでしまったり、誤ったうわさや伝聞を信じ込んでしまったりしたケースも少なくありません。

 なかでも有名なのが、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984年)です。高橋留美子先生の原作はスラップスティックなラブコメディーでしたが、「すべての喧騒は夢の中の出来事」として描いた押井守監督による本作は、実写映画から多大な影響を受けた幻想的な映像演出やアニメの登場人物が虚構から脱出しようとするメタフィクショナルな仕掛けなどが合わさり、後世に語り継がれる傑作となりました。

 押井監督の独創的な作劇と演出のインパクトが強かったせいか、「映画を観て高橋留美子先生が激怒した」と伝えられ、多くの人たちが信じていました。果たして、本当のはどうだったのでしょうか。

 公開直後に刊行された平井和正先生との対談本『語り尽せ熱愛時代』(1984年)で、高橋先生は「あれはあれで押井守さんの『うる星やつら』、私のじゃないということね」「押井さんというかたの才能は十分に認めているんだけれども、これは私のじゃないという気持ちが付きまとうんです」と、複雑な胸中を吐露しています。

 しかし、その1年後に刊行された『少年サンデーグラフィック うる星やつら14』(1985年)では、読者からの質問に「ビューティフル・ドリーマーは監督(押井守さん)の傑作で、お客さんとして大いに楽しめました」と答えていました。

 時を隔てて、2013年の「コミックナタリー」のインタビューでは、高橋先生は「あれは押井守監督の作品と割り切って、楽しく観ましたよ」と回答しています。また、「週刊少年サンデー」2020年44号での畑健二郎先生、熊之股鍵次先生との鼎談記事では「不仲説、ずっとありますよね(笑)」と一笑に付し、「否定してるんですけどねぇ。でもね、世間的にはやっぱりその方が面白いみたいでいっこうに訂正されませんね」と、世間の反応を嘆いていました。

 さらに、2024年5月21日配信のニッポン放送Podcast『ランジャタイの伝説のひとりぼっち集団』によると、お笑いコンビ「ランジャタイ」の伊藤幸司さんが高橋先生との食事会で「怒っているって本当ですか?」と尋ねて、「全然、怒ってない」という答えを引き出しています。作品については、「あれは押井守さんの傑作です。私のじゃないけど」と答えたそうです。

 当初は複雑な気持ちを抱えてはいたものの、高橋先生が『ビューティフル・ドリーマー』を押井監督の作品として楽しんだのは間違いないようです。高橋先生が「激怒」していなかったことは、本人の言葉から明らかでしょう。

■『よつばと!』がアニメ化されない本当の理由

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 角野栄子先生の原作をもとにした宮崎駿監督のアニメ映画『魔女の宅急便』(1989年)は、魔法を使う少女「キキ」という主人公こそ同じですが、世界観もストーリーもほとんど宮崎監督のオリジナルというべき作品になっていました。

 しかし、角野先生は「激怒」したわけでもなければ、宮崎監督と揉めたわけでもありません。

 2024年のORICON NEWSでのインタビューによると、制作時に鈴木敏夫プロデューサーから「宮崎さんは原作を変える人だ」と聞いた角野先生は、「タイトルやキャラクターを変えないように」とお願いしたそうです。

 完成した作品を観たときは「あれ?」「私だったらこうしないな」と思ったものの、「あれは宮崎監督の作品だから」とすぐに切り替えています。作品に対しては「映画としてはよくできている」「宮崎さんの作品の中で一番良いと思います」と感想を述べていました。

 また、2014年の「宣伝会議」のインタビューでは、「原作者としてアニメの人気ぶりにはすごく驚いたけど、やっぱりうれしかったわね」と語っています。また、2019年の「週刊朝日」誌上での林真理子さんとの対談でも、角野先生は「映画を見てから原作を読む方がすごく多くて、それはそれでよかったと思います」と、反響の大きさを振り返っていました。

『ビューティフル・ドリーマー』と『魔女の宅急便』の例を見ると、出来上がった作品の質が高く、新しい読者の獲得につながるのなら、たとえ原作と作品がかけ離れていても、原作者が「激怒」することはないのかもしれません。

 そのほか、人気マンガがアニメ化されないのは、原作者が「激怒」しているからだといううわさもあります。

 5歳の女の子「よつば」の生活を描いた、あずまきよひこ先生の『よつばと!』は、累計発行部数が1730万部を超えるベストセラーであり、第10回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞など数多くの賞も受賞している名作です。

 しかし、『よつばと!』は、これまでにアニメ化されていません。その理由として、あずま先生が前作『あずまんが大王』がアニメ化された際、スタッフと揉めて激怒したから『よつばと!』のアニメ化を許さない、といううわさがまことしやかに流れていました。

 これもデマです。原作者のあずま先生が、2008年12月に自身のブログで「デマです」とはっきり否定しています。「アニメの打ち上げでは最後まで一緒に呑んで『こんなに遅くまでいる原作者も珍しいですよ』って言われたのに」と記しているように、アニメスタッフと円満な関係だったようです。

 アニメ化を許諾していない理由については、「一番大きいのは『よつばと!』をアニメにするのは、とても難しいってことです」と明かしています。

 日常の細かな動作を描くのは、日本のアニメがもっとも苦手としていることだが、『よつばと!』ではそれをやらないと意味がない。だから『よつばと!』はアニメにならないのだと、あずま先生は記していました。『よつばと!』がアニメ化されないのは、「激怒」が理由ではないのは明らかです。

 アニメ化された作品が原作からかけ離れていたからといって(あるいは自分がアニメ化された作品が気に食わないからといって)、原作者が「激怒」しているとは限りません。うわさや伝聞を、うかつに信じ込まないようにしましょう。

(大山くまお)

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