最終回が「むごすぎる」 見届けるにも覚悟の要るロボアニメ『勇者ライディーン』とは
マグミクス / 2024年8月27日 6時45分
■『機動戦士ガンダム』の源流と呼べる作品
1975年から76年にかけてTV放送されたアニメ『勇者ライディーン』は、ロボットアニメの歴史を語るとき、絶体にはずせないタイトルのひとつです。ロボットの世界に「神秘」や「伝奇」といったオカルト要素を持ち込んだ最初の作品であり、のちに『機動戦士ガンダム』を生み出した富野喜幸(現:富野由悠季)氏が初めて監督を務めたロボットアニメという点も見逃せないものがあります(第27話以降は長浜忠夫氏に交代)。
もし富野監督に『ライディーン』で得た経験がなければ、『ガンダム』も誕生しなかった可能性すらありえます。現在、世界中で人気を博している『ガンダム』の源流ともいえる存在が『勇者ライディーン』といえるのではないでしょうか。
また富野氏と同様に、『ガンダム』で作画監督およびキャラクターデザインを務めた安彦良和氏にとっても初めてキャラクターデザインを手掛けたのが『ライディーン』なのです。はかなげな危うさを持つ主人公「ひびき洸(あきら)」と美形悪役の「プリンス・シャーキン」は、特に女性からの人気が極めて高いものでした。第27話でシャーキンが戦死した際には、長浜監督あてにカミソリ入りレターが届けられる事件も発生しています。繊細な手仕事であるアニメ制作者へのカミソリレターは、時として致命傷となる危険性もあるため、決してやってはならないことです。シャーキンの人気がどれほどのものだったのかを物語るエピソードといえるでしょう。
しかしながら富野監督の述懐によれば、制作現場はかなり混迷状態にあったことがうかがえます。企画段階では当時、流行していた超能力などの超常現象やオカルト要素を盛り込む予定でした。ところが制作局であるNETの親会社である朝日新聞はオカルトに対し批判的な立場であり、1クール(第13話目)のストーリーが固まったところで、業務命令としてオカルト色の排除が言い渡されたそうです。
制作現場のスタッフや関係者からバラバラの要望、要求を突き付けられた富野監督は板挟みとなり、結果、降板へとつながります。しかし富野氏は降板後も現場に踏みとどまり、長浜監督から大きな影響を受けながら経験を積み重ね、後に数々の傑作アニメを生み出すこととなりました。
■「いけない! 母さん! いけない!」
「ゴッドゴーガン」を放つライディーン。「スーパーロボット超合金 勇者ライディーン」(BANDAI SPIRITS) (C) 東北新社
さて、『勇者ライディーン』第50話(最終話)「輝け! 不死身のライディーン」は、最終決戦だけあってかなり凄惨な戦いが繰り広げられます。
ひびき洸の母「レムリア」の祖国である「ムー帝国」、かつてこれを滅ぼした「妖魔大帝バラオ」は、地上侵略のために多くの「巨烈獣」を送りこみましたが、ライディーンと人類の決死の抵抗によりほぼすべての戦力を失いました。それでも神秘の超エネルギー「ムートロン」を諦めきれなかったバラオは、ついに自らが立ち、地上への侵攻を開始したのです。
ライディーン単独の力では到底、バラオにはかないません。バラオを倒すためにはレムリアが所持するムートロンの増幅装置「ラ・ムーの星」を使用する必要があるものの、それはレムリアの死を意味していました。
母の命を守るため遥かに巨大なバラオに立ち向かおうと、ライディーンとともに出撃した洸でしたが、全く歯が立ちません。一方的に蹂躙されるライディーンを見たレムリアは、ついに覚悟を決めて「ラ・ムーの星」の発動に踏み切ります。
ムートロンの光に包まれたライディーンは、バラオとほぼ対等の大きさにまで巨大化し、そして最後の戦いが始まりました。必殺の「ゴッド・バード」もバラオには簡単には通じません。炎で撃墜され、触手に捕らえられながらもかろうじて状況を打開し続けた洸は、自身も傷つきながら、少しずつバラオにダメージを与え続けます。
しかしバラオも強者です。ゴッド・バードでまっすぐ突っ込んできたライディーンに対し、2本の剣を突き立て大きな損傷を与えました。苦痛に悶える洸は、それでもライディーンの動きを止めることはありません。ゴッド・バード形態のままバラオに突っ込むと、なんと突き立てられた剣を利用してそのままバラオを引き裂き、長きにわたる戦いに終止符を打ったのです。
死闘の末にバラオを倒した洸、しかしその顔に喜びはありませんでした。母であるレムリアが力を使い果たし、洸の腕のなかで息絶えてしまったのです。レムリアの遺体は突然、現れた空飛ぶ船に回収され、洸の「母さーん!」という絶叫が響くなか、夕陽の彼方へと姿を消しました。
生き延びた人間たちは、復興のために働かなければいけません。戦い続けたライディーンは、これからは復興のために使われると示唆され、『勇者ライディーン』の物語は幕を閉じたのでした。
(早川清一朗)
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