『母をたずねて三千里』マルコは母に会えたのか? 実は原作の一部でしかなかったらしい
マグミクス / 2024年8月25日 19時40分
■マルコの旅の結末を覚えていますか?
『フランダースの犬』や『アルプスの少女ハイジ』などで知られる「世界名作劇場」(正式名称は『カルピスこども名作劇場』と『ハウス食品・世界名作劇場』)は日本を代表するアニメシリーズのひとつです。
そのなかでも特に結末が気になる一作といえば、9才の少年マルコがアルゼンチンに出稼ぎに行った母「アンナ」を訪ねて、たったひとりでイタリアのジェノバから旅をする『母をたずねて三千里』でしょう。
果たしてマルコは母に会えたのでしょうか?
●原作は1800年代の児童文学
1976年1月から12月まで全52話が放送された『母をたずねて三千里』は、イタリアの作家「エドモンド・デ・アミーチス」の小説『クオーレ』の一部を原作としてアニメ化されたものです。「クオーレ」は1886年のイタリア王国で書かれた本で、10才の少年エンリーコの10か月が描かれています。
『母をたずねて三千里』は『クオーレ』作中で先生が語った「母をたずねて三千里 アペニン山脈からアンデス山脈まで」のお話がもとになっており、実は独立した作品ではなく、作中エピソードのひとつがアニメ化されたものです。
●アニメ化では改変多数
原作の『クオーレ』を読み返すとアニメが大きく改変され、描写が分厚くなっていることに驚かされます。『クオーレ』で語られたマルコは13歳ですが、アニメでは9歳に変更されており、旅芸人のベッピーノ一座も本来は登場しません。アニメは低年齢になって旅がハードモードになった代わりに助けてくれる人を増やした、といったところでしょうか。ペットの猿の「アメディオ」はもちろんアニメのオリジナル要素です。
また、原作ではマルコが母に会いに行く理由がいっさい語られていない点にも注目です。岩波文庫版の『クオーレ』によると、原作エピソードの冒頭が「何年も前のこと、ジェノヴァ(原作表記)の少年で、十三になる労働者の息子が、ジェノヴァからアメリカ大陸まで、たったひとりで母親をたずねていった」となっており、アンナが出稼ぎにいった理由やマルコが苦労して会いに行く動機が不明です。
そのためアニメでは父親が診療所建設のために借金を作り、その返済のため母が愛する息子たちを残してアルゼンチンに出稼ぎに行った、その連絡が途絶えたからマルコが旅立ったという背景が作られたようです。
■最終回はハッピーエンドで
画像は劇場版『母をたずねて三千里』DVD(バンダイビジュアル)
マルコが母と再会を果たすのは最終話まで残すところあと1話となった、51話「とうとうかあさんに」のエピソードです。ここに至るまでマルコは三千里(約12000km)もの距離を旅してきました。移民船に密航したり、何日にもわたって歩き続けたりしてきたのです。
一方、母はというと、家族と連絡が取れなくなってから意気消沈してしまい、奉公先の農場で病気にかかって(原作では腸がつまってヘルニアになった、との記述)雇用主であるメキーネスの屋敷のベッドで生死の境をさまよっています。医師の診断によると、母の脈は弱っており、手術に耐えられる体ではないとのこと。絶体絶命です。
しかしそこへ長旅でボロボロになったマルコが現れ、意識がもうろうとしていた母に語りかけたことで、どうにか気力を取り戻します。その後、脈が安定した母は手術を受け、無事に生還しました。
続く最終話「かあさんとジェノバへ」ではアンナの病気が全快するまで屋敷に逗留した後、ふたりでジェノバに帰ります。帰り道で、これまでマルコを助けてくれた人たちと再会するシーンは感動ものです。そしてついにふたりはジェノバの港に辿り着き、家族が再会するシーンで『母をたずねて三千里』は完結となります。
ちなみに原作ではアンナが手術から生還するシーンでエピソードが終了してしまい、やや唐突感があります。しかしアニメでは母と一緒の幸せな帰り道が1話まるごとかけて丁寧に描かれる良改変でした。これまでの旅の苦労へのささやかなご褒美といったところでしょうか。
●共通語としての児童文学
日本の民話や伝承をアニメで伝える『まんが日本昔ばなし』と海外の名作児童文学をアニメ化した「世界名作劇場」シリーズは、当時の子供たちに大きな影響を与え、一定の世代に文化的な共通基盤を築きました。
しかしインターネットの普及により趣味嗜好が多様化した現在、「世界名作劇場」のようなアニメシリーズの制作は難しいかもしれません。本シリーズはまさに昭和から平成初期にしか成立しなかった「時代の産物」だったといえるでしょう。
(レトロ@長谷部 耕平)
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