『ガンダム』超高速で迫ってくるドム怖っ! 「ホバー移動」の機体が普及しなかった謎
マグミクス / 2024年9月6日 6時35分
■新幹線よりも速い速度で迫る、ホバー移動の「黒い三連星」
『機動戦士ガンダム』に登場するジオン軍の重モビルスーツ(MS)「ドム」は、劇中で初めて「重MS」と言及されただけあり、「ザク」や「グフ」よりもシルエットが大きく、にもかかわらず、地上をホバー移動で高速走行する機動性の高さが印象的でした。
このホバー移動自体は「MSを歩行させるよりも作画負担が減るから」という身もふたもない動機で構想されたようですが、ジオン軍エースパイロット部隊「黒い三連星」が、3機一体で目標を高速で襲撃する「ジェットストリームアタック」とも合致した演出となっており、ドムの強敵感が伝わってくる好演出でした。
さて、設定を紐解けば、ドムのホバー移動は「ザクIIやグフの戦略的展開速度が遅い」ことから、新型MSに「熱核ジェットエンジンにホバークラフトの技術を応用した」移動システムを導入することが求められ、導入されたものです。
実際、ザクIIの歩行速度は88~160km/h(資料により異なる)、グフは99km/hなのに対して、ドムは巡航速度で90km/h、最高速度だと110~380km/h(資料により異なる)と、高速移動が可能です。
ドムと対戦した地球連邦軍の「ガンダム」は、歩行速度130~205km/h(資料により異なる)とされています。移動性能でガンダムを圧倒した劇中描写から見て、ドムが最高速度380km/hでも不思議はないと思われます。新幹線よりも速い速度で、あんな物体が迫ってくると考えるなら、恐ろしいことです。
ドムはこの歩行システムにより、機体を浮き上がらせた状態でスラスターと併用することで、5時間程度のホバー走行が可能なようです。本体重量62.6t、全備重量90tという設定で「100t以上の液体水素を燃料として搭載」していたとのことなので、燃料は全備重量に含まれず、出撃時は190tということになります。まさに「重MS」と言えるでしょう。
これほどの高速移動性能を持ちつつ、ホバー移動しながらヒートサーベルでの白兵戦や、高威力の「ジャイアント・バズ」を放てるわけですから、まさに「ジオン脅威のメカニズム」と言えます。しかし、不思議なことに「ホバー移動する機体」は、ドム以降、「ドワッジ」などのドム系の機体以外ではあまり見られません。
特に地上戦で有効そうな装備ですが、なぜ普及しなかったのでしょうか。
■答えはジオンが量産した「航空機」にある?
「機動戦士ガンダム ドダイYS 1/144スケール プラモデル」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ
ホバー移動する機体が普及しなかった理由として、筆者はその答えが「ド・ダイYS」にあるものと思います。
「ド・ダイYS」はMSを直立させたまま搭載して、飛行させられる航空機で、空気抵抗を考えるなら、より「ジオン脅威のメカニズム」度が高い機体です。ジオン軍はこの航空機を量産しており、グフやザクを飛行して運搬したほか、対地攻撃機としても使用しました。
アニメ『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』では、早くも後継機となる「ド・ダイII」が登場しており、『機動戦士Zガンダム』などの続編で大量に登場する「サブ・フライト・システム」が、当初から有効だったことがうかがえます。
『機動戦士ガンダム」第23話では、グフを搭載した状態でド・ダイが対地攻撃を行った描写もあります。そう考えるなら、ドムが地上を90km/hで巡航し、最高速度380km/hで目標を襲撃できるとしても、「ド・ダイでMSを運ぶ方が、より高速で運搬でき、戦術も広がり、地形の制約も受けにくい」と考えるのは無理もないと思います。
また、一年戦争中でもMSの性能は長足の進歩を遂げています。ガンダムはホバー移動こそできませんが、スラスターによる短時間の飛行性能を持っていますし、戦争後期に登場した「ケンプファー」は、コロニー内をスラスターで滑空移動していましたから、同様、あるいはそれ以上の短時間飛行能力を有していたと考えられます。
MSが自ら飛行できるのであれば、障害物は飛行して飛び越えればよく、重量が増えて、整備性も悪そうなホバー移動装置は好ましいものではなかったのでしょう。実際、劇中で問題がある描写はされていないものの、両足が接地していない状態での射撃や白兵戦は、安定性を悪化させると考えられ、命中率への悪影響もあったと考えられます。
結論として、戦略的な移動力は、サブ・フライト・システムに、戦術的な運動性能はスラスター出力の増大や、変形により代替され、後の時代で必要性がなくなった技術が「MSのホバー移動」なのだろうと推測します。
公式ではありませんが、ゲームブック『機動戦士Zガンダム ジェリド出撃命令』には「ガンタンクホバー」という敵MSが登場し、高出力ビーム砲と高い移動力で、「ジェリド・メサ」の「ハイザック」に立ちはだかりました。このような機体が存在していたとしても、それは時代のあだ花ということなのかもしれません。
(安藤昌季)
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