『4』否定派は多いけど 『トイ・ストーリー』は本当に「3で終わればよかった」のか
マグミクス / 2024年9月20日 20時10分
■『トイ・ストーリー4』で描くべきことはまだ残っていた
※この記事では『トイ・ストーリー3』のラストに触れています。
2024年9月20日の金曜ロードショーで、『トイ・ストーリー3』が放送されます。本作は2010年の劇場公開当時から大絶賛の嵐となり、練りに練りこまれた脚本、魅力たっぷりのキャラクターの大活躍、そして感涙必至のラストの展開と演出に至るまで、名作中の名作であることにまったく異論はありません。
ただ、『トイ・ストーリー3』の出来、そして「ラスト」があまりに完璧であることを理由に、2019年に公開された『トイ・ストーリー4』に否定的な意見が多々あります。制作の発表時点から「蛇足になるのでは」「作る意味はあるのか?」との声も相次いでおり、実際の本編を観た人からも「『3』のラストが台無しになった」「トイ・ストーリーには『4』なんてない」といった否定的な声もあがりました。
しかし、個人的には『トイ・ストーリー4』を作る確かな意義は、主に2つの点であったと思います。
●『1』にもつながる、あまりに完璧なラスト
その前に、『トイ・ストーリー3』のラストについて振り返りましょう。これから大学生となりおもちゃと別れる「アンディ」が、おもちゃたちの名前と特徴を言いながら、ひとつずつ小さな女の子の「ボニー」に教えます。アンディは「みんなのこと、大事にしてくれるって、約束してくれるかな? 僕の宝物なんだ」と言い、そして小さな女の子のボニーが「私のカウボーイだ!」と言っておもちゃの「ウッディ」を抱きしめます。
その時のひとりひとりの「表情はおもちゃのままで変わっていない」はずなのに、アンディのそれぞれからの愛情を知ったおもちゃたちの「感情」が伝わってくるというのが、あまりに秀逸です。それは現実でおもちゃと遊ぶときに、それぞれの感情があると想像する現実の子供たちの認識にもシンクロしています。
さらには、ラストシーンで映し出された青空と雲は、『1』冒頭で映されたアンディの部屋の壁紙の模様と同じ形で、シリーズ3作品が「円環構造」でつながっている演出にもなっているのです。
このように完璧に完結したと思える「トイ・ストーリー」シリーズでしたが、それでも『4』を作る意義は、まだ「描ききれていなかった」2つの点にあったと思います。
●ボー・ピープがフェードアウトしたままだった
そのひとつは、電気スタンドの陶器製人形のキャラクター「ボー・ピープ」を活躍させたことです。
『3』でのボー・ピープは「新しい持ち主の元へ行った」という事実がウッディから悲しげに語られたのみで、姿を表すことはありませんでした。実は「陶器で作られているので、焼却炉での激しいアクションで生き残ることに説得力がなくなってしまう」という理由のため、『3』でボー・ピープは登場しなくなったのです。
そして、『4』のボー・ピープのキャラクターは掘り下げられ、ウッディに「広い世界を見せる」ことになります。『3』でフェードアウトしたままにはさせず、さらには制作発表時に「ウッディとボー・ピープのラブストーリー」だった内容を方向転換させ、彼女に大きな役割を与えたことに、作り手の愛情を大いに感じました。
●これまで描かれていた「おもちゃを大事にしなかったことへの罪悪感」
また、『4』は「おもちゃを大事にしなかったことへの罪悪感」を軽くしてくれる内容でもあります。
これまでのシリーズでは捨てられてしまったおもちゃの哀しさや、その反対に大事にしてもらうおもちゃの幸せを描いており、もちろんそれこそが優れたポイントなのですが、シリーズ通じておもちゃを大切にしない人間は、たいてい「悪」として描かれてもいたのも事実でした。そのため、「おもちゃを捨てられなくなっちゃう」「おもちゃを必要としなくなった自分が最低に思えてくる」などとも思うところもありました。
まだ『4』を未見の人のためにここでは伏せておきますが、そのラストでの選択は、これまでのシリーズでは描かれなかった価値観であり、それはおもちゃのことを大事にしていなかった、忘れてしまったという人へ向けての、大胆ではありながらも、優しいメッセージであるとも思うのです。
●『3』のラストは完全に否定されたのか
また、『3』のラストは、『4』が作られたことで完全に否定されたわけではないとも思います。たとえどんな未来が待ち受けていたとしても、おもちゃのウッディと、その持ち主のアンディにとって、最高の幸福の瞬間が確かにあったという見方もできるでしょう。
それでも、『4』でのアンディからの「大事にしてくれるかな」というお願いが叶わなかったのも事実ですし、どんな理由であれおもちゃを大事にしないボニーの姿を見たくなかったと、という意見もまた正当なものです。
個人的には「子供ってそんなもんだよな(約束をそんなに守ったりはしないよな)」と、ある種の冷徹な視点に納得できたのですが、『3』のラストが好きだった人が怒ることも分かりますし、その気持ちを否定する必要はないと思います。
そして、2026年夏公開予定の『トイ・ストーリー5』では、「スマホやタブレットなどの電子機器がおもちゃたちのライバルになる」ことが示唆されています。こちらもまた、「おもちゃが必要ではなくなった」「大切にしなかった」という残酷な事実を突きつける内容になりそうですし、だからこその否定的な声もあがる可能性もあります。それでも、筆者は『4』がそうだったように、『5』も「だからこそ」の物語になっていることに期待しています。
(ヒナタカ)
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