『閃光のハサウェイ』そもそもなぜハサウェイはテロリストになっちゃったの?
マグミクス / 2024年9月26日 6時35分
■ハサウェイの理想はシャアへの共鳴
『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』で主役を務める「ハサウェイ・ノア」は、軍人ではなくテロリストとして活動し、地球連邦に制裁を加えています。なぜハサウェイはテロリストとして戦うのでしょうか。
そもそも「テロリスト」とはいったい何なのでしょうか。語源となる「テロリズム」とは、「政治的な目的を達成するために暴力および暴力による脅迫を行なうもの」とされており、テロリズムを実行する人間が、テロリストという位置づけとなります。
「マフティー・ナビーユ・エリン」を名乗り、地球連邦政府の要人を暗殺したあと、地球をクリーンにするために人類のすべてが地球から出ていく政策を実施させるのを最終目標とするハサウェイの存在は、間違いなくテロリストです。
しかしハサウェイは地球連邦軍の英雄である「ブライト・ノア」の息子であり、母親もかつての名家、ヤシマ家出身のため、むしろさまざまな特権を行使できる側の人間でもあります。現実社会でもテロリストのリーダーを務めるのは理想を抱いた高学歴の事例が多いため、ハサウェイの行動がおかしいとは言い切れませんが、少々、唐突な感は否めません。そもそも、なぜ彼はかような「理想」を抱いてしまったのでしょうか。
まず大きな原因としては、映画『逆襲のシャア』にも描かれた「シャアの反乱」を多感な時期に体験したのが大きいでしょう。特に同作中の、「シャア・アズナブル」と「アムロ・レイ」が宇宙コロニー内で遭遇し殴り合いをしていた場面では、ハサウェイも同行しています。ハサウェイからすれば雲の上の存在のようなふたりが、理想と現実を叫び合いながら生身で戦う光景は、忘れられないものとなったでしょう。
なお小説『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン』では、ハサウェイはシャアの反乱時点でニュータイプとして覚醒しており、眼前で戦死した「クェス・パラヤ」をはじめとして、戦場で死んでいく多くの魂の声を聞いています。このことは反乱終結後、ハサウェイにシャア・アズナブルについて学ぶ動機を与えており、結果として、「人類を産んだ地球を滅亡させてはならない。保全すべきだ」というシャアの理想に共鳴するに至りました。
■テロリスト以外、道がない
『逆襲のシャア』でのハサウェイ(左)とクェス。『閃光のハサウェイ』場面写真配布キャンペーン「ノア家のアルバム」より (C)創通・サンライズ
しかし残念ながらハサウェイが成人した時期には、すでにジオン残党軍は大半が消滅しており、ある程度の規模となると火星に落ちのびた勢力が残っているくらいです。戦う敵がいないからこそ、地球連邦軍も政府も腐敗したのであり、無謀であってもハサウェイが理想を追うなら「テロで腐敗した連邦を討つ」以外に道がありません。あまりにも険しい道のりです。
もちろん、アムロについてもハサウェイは学ぼうとしていたはずです。しかし『閃光のハサウェイ』の時代、ニュータイプは地球連邦の情報操作により「存在が疑われる」程度の扱いとなっており、新規情報の入手は困難となっています。アムロが残した言葉などもおそらく封印されているか、加工された内容となっている可能性が高く、生のアムロを知っているハサウェイからすれば不満を感じるのではないでしょうか。
しかもハサウェイの父親であるブライトは、アムロをはじめ「カミーユ・ビダン」「ジュドー・アーシタ」たち伝説のニュータイプを指揮していた人物です。もちろんブライトであればニュータイプについての資料を用意するのはある程度、可能でしょうが、ブライトとハサウェイの親子がニュータイプについて調べていることがバレれば、地球連邦の上層部は警戒するでしょう。最悪、暗殺される危険性すら出てきます。
加えてハサウェイは「シャアの反乱」において、「訓練を受けずに出撃し、1機撃墜」という極めて特殊な経歴を持っています(映画『閃光のハサウェイ』における表現。チェーン機のことではない)。アムロたちの先例もあるため、「ハサウェイは強力なニュータイプではないのか?」と考える人間が出てきてもおかしくはないでしょう。こう材料を列挙していくと、仮に地球連邦軍に入っても冷遇される可能性が高く、内部からの改革などもできようはずがありません。
結局のところハサウェイは、理想を追うと決めた時点でテロリストになるしかなかった男なのです。まっすぐで礼儀正しく、世界のことを考える余裕がある知性と理性の持ち主が、最後は暴力に走るしかない。地球連邦が支配する「ガンダム」の世界はそれだけ追い詰められているのでしょう。
(早川清一朗)
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