幻となった特撮『魔神バンダー』は二重の衝撃! 原作は手塚治虫じゃなかったの?
マグミクス / 2024年9月28日 8時40分
■ソフト化されていない「幻の番組」
みなさんは、特撮ドラマ『魔神バンダー』をご存知ですか? 1969年1月~3月にフジテレビ系で全13話が放映された、巨大ロボットものです。制作は「NMCプロ」。東映が制作した『ジャイアントロボ』(1967年~68年)、円谷プロ制作の『ジャンボーグA』(1973年)などの巨大ロボットものに比べると、知名度はぐんと下がりますが、妙に印象に残る作品でした。
オープニング曲「魔神バンダーの歌」のパワフルな歌唱、バンダーの造形のユニークさは、子供たちが親しみを覚えるものでした。再放送などで視聴した人もいるのではないでしょうか。
しかし、残念ながら『魔神バンダー』は、これまで一度もソフト化されていません。一部のエピソードがネット上にアップされているものの、「幻の番組」となっている状態です。歴史のなかに埋もれがちな、そんな特撮ヒーローを、掘り起こしてみたいと思います。
■究極の選択を迫られるパロン彗星の王子
主人公は、地球にやってきたパロン彗星の王子(角本秀夫)です。銀色のフードを被り、いかにも1960年代ふうの宇宙人らしいファッションです。王子には同じくパロン彗星から来た、護衛役のX1号(平松慎吾)がついています。金髪のおじさんです。高い文明を持つ一方、手先がカニのハサミのようになっているのが、パロン彗星人の特徴です。
そんなパロン王子の命令に忠実に従うのが守護神「バンダー」です。普段は丸い目をしたかわいい顔ですが、怒ると顔がいったん胴体に引っ込み、鬼のような形相の赤い顔がニョッキリと現れます。怒った顔のバンダーは、王子以外には誰にも止めることができません。
王子、X1号、バンダーは、パロン彗星から持ち出された宇宙エネルギー物質「オラン」を探しに、地球を訪れたのでした。オランを探しながら、王子たちはゴーダー一味ら地球の悪党たちと戦います。
いかにも低予算な雰囲気を漂わせていた『魔神バンダー』ですが、印象に強く残っているのが最終回です。王子たちが探していたオランは、とある雑木林であっさりと見つかります。なんじゃそりゃ、と言いたくなるようなご都合主義な最終回ですが、そのおかげで王子たち一行は、無事にパロン彗星に帰ることができるのでした。
いざ、王子たちがバンダーとともに地球を去る間際に、大事件が勃発します。某国で実験中だった核ミサイルが誘導装置の故障で、極東へ向かって飛んでいるという臨時ニュースが報じられたのです。地球では「怪物」呼ばわりもされた王子は、悩みます。知らん顔してパロン彗星に戻るか、バンダーの力を使って核ミサイルを止めるか。究極の選択です。
バンダーの出撃を要請した立花博士(湊俊一)とのやりとりから、バンダーはただのロボットではなく、生命体であることも分かります。
■子供向け番組らしからぬ、二重につらい結末
雑誌「冒険王」に連載された、井上智氏によるマンガ『魔神バンダー』を収録した、「魔神バンダー 完全版」2巻(マンガショップ)
核ミサイルは日本で爆発しそうだと、ニュースは伝えます。結局、心優しい王子は、地球に来て知り合った日本人たちのことを見捨てることができません。バンダーに核ミサイルの処理を命じます。最終回、バンダーは最初から怒った顔モードです。空を飛ぶバンダーは、そのまま核ミサイルと正面衝突し、空中で大爆発します。バンダーのおかげで、日本は核被害から逃れることができたのでした。
忠実なバンダーに対し、残酷な指令を出してしまった王子は、泣きたくても泣けません。そして、バンダーを失った王子とX1号は、永遠にパロン彗星に帰ることができなくなってしまったのです。立花博士は「若者たちは飛行機もろとも敵艦に体当たりして、祖国を守ろうとした」と戦時中の日本の話を持ち出しますが、別の星で生まれ育った王子の慰めにはならなかったように思います。
子供向け番組らしからぬ、二重につらいバッドエンドでした。それゆえに、忘れられない特撮ドラマになっていたのです。
■『魔神ガロン』から生まれたふたつの特撮ドラマ
もうひとつ、『魔神バンダー』で気になっていたのは、エンディングに使われていたバンダーや王子たちの原画マンガでした。このマンガのタッチが、手塚治虫先生の絵柄とそっくりだったのです。手塚治虫原作ではない『魔神バンダー』に、手塚治虫ふうのキャラクターたちが使われていたことに、子供心に妙に違和感があったのです。
国会図書館に行き、マンガ版『魔神バンダー』全4巻を借りて読んだところ、マンガ版の作者は「井上智」とありました。井上智氏は「虫プロ」漫画部に所属し、その後独立。手塚治虫先生のアシスタントだった平田昭吾氏らと「智プロ」を設立し、「冒険王」(秋田書店)にてマンガ版『魔神バンダー』をTV放映に先駆けて連載したことが分かりました。
もともと、『魔神バンダー』は手塚先生のマンガ『魔神ガロン』を実写ドラマ化しようとしたものの、頓挫し、その代案として誕生したものだったのです。
『魔神ガロン』は高い文明を持つ宇宙人が、地球人の良心を試すために悪魔にも神にもなりうるガロンを送り込んだという、ハードな設定のSFストーリーです。もし、しっかり完結していれば、横山光輝マンガ『マーズ』ばりの問題作になっていたはずです。ポリゴン的なガロンのビジュアルとシリアスなテーマ性は、子供向け番組には難しいとテレビ局側は判断したのかもしれません。
そこで別の手塚作品『ピロンの秘密』と『魔神ガロン』を組み合わせ、勧善懲悪スタイルの『魔神バンダー』が生み出されたわけです。いわば『魔神バンダー』は、手塚治虫公認の非手塚治虫作品だったと言えそうです。
手塚先生はその後も『魔神ガロン』の実写化を諦めず、1970年代に再挑戦していますが、やはり実現せず、代わりに「東洋エージェンシー(現・創通)」と「ひとみプロ」の共同制作による特撮ドラマ『サンダーマスク』(1972年~73年)が日本テレビ系で放映されています。著作権利が分散し、『サンダーマスク』もソフト化されずに至っています。
手塚先生は1978年に放映された「24時間テレビ」(日本テレビ系)のアニメスペシャル第1弾『100万年地球の旅 バンダーブック』を制作し、主人公に「バンダー」という名前を付けています。バンダーという名前に、それなりに愛着があったのではないでしょうか。今もソフト化されずに「幻のヒーロー」でいる『魔神バンダー』、ならびに『サンダーマスク』が愛おしく思えてきます。
(長野辰次)
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