『ゼロの使い魔』ヤマグチノボル氏の命日 二次創作投稿者からプロ作家を生んだ
マグミクス / 2020年4月4日 8時10分
■魅力的なキャラクターを数多く生み出したヤマグチノボルさん
4月4日は、2013年に41歳の若さで亡くなった作家・シナリオライターのヤマグチノボル氏の命日にあたります。代表作『ゼロの使い魔』以外にも、『ストライクウィッチーズ スオムスいらん子中隊』シリーズや多数のゲームシナリオを手掛けており、今なおその死を惜しむ声が絶えません。『ゼロの使い魔』のキャラクターたちをこよなく愛するライターの早川清一朗さんが追悼します。
* * *
ヤマグチノボル先生が亡くなってから、早くも7年が経ちました。まだ30代のうちにがんを発症し、2011年には末期がんで延命治療中であることを明かした時、どれほどつらい心境だったのでしょうか。がんの宣告を受けた際、強いショックを受けてひたすらガンプラを作り続けていたとも聞きます。繊細な作業を行っている時だけ死の恐怖から逃れられたのでしょうか。
ヤマグチ先生の個人サイト「hexagon」は、2009年10月17日で更新が止まったままですが、最後に掲載されているのは、「ザク」「ゲルググマリーネ」そして「RX78-2ガンダム」の完成した姿です。もしお元気だったら、今ごろは何を作っていたのでしょうか。2020年6月発売予定の「HG 1/144 RX-78-2 ガンダム [BEYOND GLOBAL]」を手に笑顔を浮かべていたのかもしれないと思うと、優れた才能と情熱を持つ作家に訪れた理不尽な病を、いまだに許せない自分がいます。
さて、1972年に生を受けたヤマグチ先生は、明治大学卒業後に不動産営業やバイク便ライダー等の職を経験したのち、2000年に発売されたPCゲーム『カナリア~この想いを歌に乗せて~』でシナリオライターとしてデビューします。同タイトルではノベライズも手掛けており、これがライトノベル作家としてのデビュー作となります。
翌2001年発売の『グリーングリーン』でもやはりシナリオとノベライズを手掛けており、徐々に作家としての足場を固めていきました。
■2004年『ゼロの使い魔』で時の人に
『ストライクウィッチーズ : スオムスいらん子中隊がんばる』(KADOKAWA)
そうして2004年、ついに先生の代表作となる『ゼロの使い魔』が発表されます。美少女に召喚された少年が戦いや日常のなかで愛を育んでいくストーリーに多くの若者が熱狂し、異世界転生作品として巨大なブームを巻き起こしました。
また、序盤のストーリー構成がしっかりしているため、主人公であるサイトの代わりに別のキャラクターを放り込むだけで簡単に二次創作が可能となっており、さまざまな作品の主人公やオリジナルキャラクターを使った作品が小説投稿サイトに無数に書き連ねられ、多くの人に創作の楽しさを味合わせてくれました。二次創作投稿者のなかにはのちにプロの作家やライターになった方もいます。ヤマグチ先生が現在のライトノベル界やシナリオライター業界にもたらした影響は、計り知れないものがあると言えるでしょう。
筆者も『ゼロの使い魔』を読み魅力的なキャラクターのとりこになったひとりです。ルイズ、タバサ、キュルケ、アンリエッタ、ティファニア、シエスタ、ジェシカなどお気に入りのキャラクターは大勢います。一番のお気に入りはキュルケですが、コルベールとくっついてしまったのが残念なところです。
『ゼロの使い魔』がエポックメーキングとなった要素はたくさんあります。そのなかでも大きかったと感じているのが、B100オーバーのハーフエルフ、ティファニアの存在です。彼女の登場以前、エルフと言えば『ロードス島戦記』のディードリットのような貧乳キャラがメインでした。やはり『ロードス島戦記』のピロテースで多少大きくはなりましたが、そこを超え「エルフでも巨乳でいいんだ」という新たなイメージを作り上げたことは、後に続いた創作者たちにとってのかせを取り払う大きな役割を果たしてくださったと筆者は考えています。
ヤマグチ先生の逝去により一度は絶筆を覚悟した『ゼロの使い魔』でしたが、生前に残してくださったプロットを元に、志瑞祐先生(代表作:『精霊使いの剣舞』)の手により完結に至ったのは、それだけヤマグチ先生が『ゼロの使い魔』がファンや関係者に愛されていた証左に他なりません。『ストライクウィッチーズ スオムスいらん子中隊』も築地俊彦先生の手により『サイレントウィッチーズ スオムスいらん子中隊ReBOOT!』としてリメイクされています。闘病中に放送されたアニメの4期も「ヤマグチ先生の医療費を稼ごう!」と製作現場の方が話していたと聞いています。
素晴らしい人が先に逝ってしまう理不尽は何度経験しても慣れません。本当に、惜しい人を亡くしました。謹んで、ご冥福をお祈り申し上げます。
(ライター 早川清一朗)
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