『鉄血のオルフェンズ』鬱エンドにいまだ割れる評価…じゃあどうすりゃよかったのさ!
マグミクス / 2024年10月8日 21時15分
■少年兵たちの戦いは無駄なあがきだったのか?
『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』(以下、鉄オル)は、ガンプラの好調な売上に反して「ガンダム」シリーズでも屈指のビターエンドを迎えたことで知られ、ファンのあいだで大変な議論を巻き起こしました。肯定派と否定派の両方を満足させる終わり方はなかったのでしょうか。
※本記事には物語の核心に関するネタバレが含まれます。ご留意ください。
●あの結末は最初から決まっていた!?
『鉄オル』でもっとも激しい議論が起きたのは、主に2期の後半です。「ヒューマンデブリ」と呼ばれる使い捨ての少年兵から、民間軍事会社を運営するまで身を立てた「鉄華団」が、世界の治安を維持する巨大組織「ギャラルホルン」によって崩壊させられる展開が大きな話題になりました。
最終的に団長の「オルガ・イツカ」はヒットマンの凶弾に倒れ、無敵の強さを誇る「ガンダム・バルバトス」とパイロットの「三日月・オーガス」は、敵との一騎打ちではなく、衛星軌道上から非人道兵器「ダインスレイブ」を乱れ撃ちされて大破寸前まで追い込まれ撃破されます。鉄華団は崩壊し、その名を歴史に残すのみとなったのです。
最終回放送後、この展開に結局は悪の体制側が勝つのか、と一種のむなしさや怒りを感じたファン、無学な少年兵たちが調子にのったのだから当然の結果だと煽るファン、都合のよい展開が多すぎるのでは? というファンなどが熱い議論を交わしていました。
もっとも2022年に掲載されたアニメ系ウェブサイト「Febri」(一迅社)のインタビューのなかで、長井監督は「最初から方向性が決まっていた」と回答しており、若者たちが滅びに向かって突き進んでいくというコンセプトがあったことは間違いありません。つまり全滅エンドは不可避だったといえます。
しかしオルガや三日月たち鉄華団が壊滅するクライマックスでも、より多くのファンを納得させられるアイデアはあったかもしれません。悲劇的な最終回でも高い評価を得ている名作はあるのです。
■ヒントは「デロイア独立戦争」
物語冒頭から朽ちてました。プラモデル復刻キット10種セット「太陽の牙 ダグラム 40周年記念コレクターズボックス」(童友社) (C)サンライズ
『太陽の牙ダグラム』は「惑星デロイア」を舞台に、ゲリラ組織「太陽の牙」が独立を目指して戦うSFロボットアニメです。1981年から1983年まで全75話が放送され、高い評価を獲得しました。「ダグラム」とは主人公「クリン・カシム」の愛機で「太陽の牙」の主戦力の「コンバットアーマー」(ロボ)の名称です。
本作では第一話の冒頭で「朽ち果てたダグラム」が登場する衝撃的な演出があります。そのときの流れるモノローグはアニメ史に残るほど印象的で、作品の方向性を示す重要な役割を果たしました。
「鉄の腕は萎え、鉄の脚は力を失い、埋もれた砲は2度と火を噴く事はない、鉄の戦士は死んだのだ。狼も死んだ。獅子も死んだ。心に牙を持つ者は全て逝ってしまった」
つまり『太陽の牙ダグラム』では、あらかじめ主人公たちの敗北、あるいはダグラムの破壊が確定しているのです。このクライマックスに向けて物語は動き出します。そこには、若さと理想だけでは政治を動かすことはできないという、ほろ苦い現実が描かれており、政治を知らないまま突き進んだ結果、悪い大人にたぶらかされるなど、巨大組織に潰された鉄華団と重なる点が多いのです。また、どちらもプラモデルが好評だった点も似ています。
●鉄華団の敗北自体は問題ではないのかも?
オルガや三日月といった主要キャラが軒並み死んでしまうラストには賛否両論があり、当時の議論を振り返ると、もっとも問題になっているのはプロセスだったようです。全滅エンド否定派であっても、展開に説得力さえあれば、怖いもの知らずで無謀な鉄華団が現実とぶつかって敗北するのは仕方がないと考えるファンは一定数、見られます。
インタビューで語られた通りビターエンドにすると最初から方針が定まっていたのなら、冒頭で結論を見せてしまうという『ダグラム』方式が良かったかもしれません。『鉄オル』もまた『ダグラム』のようにTVアニメ1期1話、あるいは2期の冒頭で朽ち果てたバルバトスや鉄華団の墓標を描き、そこを訪れる「アトラ」や「クーデリア」ら主要キャラを描いていたら、鉄華団が破滅に向けて突き進んでいく展開にも納得感が出たでしょう。視聴者はどこで彼らが間違えたのか、未来から逆算して見守る視聴体験ができたはずです。
何とかハッピーエンドに辿り着けるのではないか、とハラハラしながら視聴していたファンや、オルガの苦悩や半身不随になった三日月の頑張りが無駄になったと感じたファンも、「ここで判断を誤ったのか」「こうやって彼らは最後まで突き進んでいったのか」と納得できたのではないでしょうか。
(レトロ@長谷部 耕平)
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