衝撃だった実写『デビルマン』公開から20年 「最終決戦」は想像をこえて伝説に?
マグミクス / 2024年10月9日 11時10分
■2004年度の「最低映画」賞を受賞
これまで数多くの人気マンガが実写映画化されてきましたが、原作ファンと映画ファンの双方に衝撃を与えた作品として知られているのが、東映配給、那須博之監督による映画『デビルマン』(2004年)です。
永井豪氏が1972年から73年に「週刊少年マガジン」(講談社)で連載した『デビルマン』は、地球の先住民族である悪魔(デーモン族)と人類が、お互いの存亡を懸けて戦うというスケールの大きなSFマンガです。ヒロインである牧村美樹が、「魔女狩り」を叫ぶ自警団に襲撃されるなどのショッキングなシーンも盛り込まれた、カルト的な人気を誇るコミックです。
予定されていた公開日を半年遅らせ、完成度を高めた実写版『デビルマン』でしたが、制作費10億円に対し、興収は5.2億円。その年の最低映画を決める「文春きいちご賞」では、紀里谷和明監督の『CASSHERN』(2004年)を抑え、第1回作品賞に選ばれるなど、評価面でもさんざんな結果に終わっています。
2024年10月9日(水)は、映画館に足を運んだ観客を騒然とさせた劇場公開から20年の節目になります。実写版『デビルマン』が残した伝説を検証します。
■亀戸のショッピングモールで起きる「世界滅亡」
実写版『デビルマン』の何がすごいかといえば、「人類vs悪魔」という壮大なスケールの物語なのに、東京亀戸のショッピングモールが主要なロケ地となっている点です。「世界滅亡の危機が、亀戸を中心に起きている」というスケール感の小ささに、まず驚かされます。
亀戸だけではさすがに地球規模の危機感は伝わらないと、製作陣も思ったのでしょう。ニュースキャスター役のボブ・サップが、世界各地で異変が起きていることを伝えます。プロ格闘家のボブ・サップにキャスターをやらせるという奇抜なアイデアですが、違和感が強すぎて何をしゃべっているのか頭にまるで入ってきません。
主人公の不動明、その親友の飛鳥了に抜擢されたのは、映画初出演となる伊崎央登さん、伊崎右典さんの兄弟です。なぜ双子の兄弟を主演に起用したのかという謎ですが、那須監督によると「善と悪、陽と陰、一対の関係」を表現したかったそうです。残念ながら、監督の意図は観客にはほとんど伝わらなかったように思います。明が「あー、俺 デーモンになっちゃったよ」と抑揚なく口にするシーンは、見直すたびに肌に粟(あわ)を生じるような戦慄(せんりつ)を覚えます。
那須監督は東京大学経済学部出身で、人気マンガを原作にした実写映画『ビー・バップ・ハイスクール』(1985年)をヒットさせ、シリーズ化に成功しています。大変な情熱家で、本当のヤンキーたちが集まった『ビー・バップ』の現場をうまくまとめあげたと言われています。しかし、ヤンキー映画と違って、特撮やCGの多い『デビルマン』では、那須監督のよさを発揮することはできなかったようです。
■「T-Visual」と銘打ち、画期的な映像になるはずが
実写版『デビルマン』の衝撃シーンは、まだまだ続きます。最大の見せ場となるのは、デビルマンとデーモン族のラスボスである「サタン」が一騎討ちするクライマックスです。「T-Visual」と銘打ち、東映と東映アニメが協力し、実写と特撮とCGを融合させた画期的な映像になることが謳(うた)われていたのですが、デビルマンとサタンとの対決シーンに唖然とさせられました。
それまでの実写シーンが、いきなりアニメーションに変わるのです。韓国で製作された劇場公開作『テコンV90』(1990年)は、ドラマパートは実写で、巨大ロボットの登場シーンはアニメに切り替わっており、初めて観たときは驚きました。それと同じくらいのインパクトが、実写版『デビルマン』にもあったのです。
明の「あー、俺 デーモンになっちゃったよ」というセリフと同じくらい、脱力しきって「あー、俺 実写版『デビルマン』見ちゃったよ」と呟く自分がいることに気づきます。
■自然な演技を見せる、宝石のような存在
では、実写版『デビルマン』は、まったく見るべき要素のない作品なのでしょうか。必ずしもそうだとは言えません。妖鳥シレーヌを演じた冨永愛さんの人間離れした美しさは特筆されます。そして、とても自然な演技を見せている、輝く宝石のようなキャストもいます。両親がデーモンになってしまったススム少年を演じた、染谷将太さんです。当時、染谷さんは12歳でした。
原作マンガでは出番の少ないススム少年ですが、染谷さん演じるススムとミーコ役の渋谷飛鳥さんが「魔女狩り」集団から懸命にサバイバルするシーンは、非常に見応えがあります。このシーンは、脚本の那須真智子さん(那須監督夫人)も、撮影スタッフも熱が入っていることが伝わってきます。
興行的に失敗し、酷評された実写版『デビルマン』の公開からわずか3か月後。2005年2月に、那須監督は肝臓がんで亡くなっています。53歳の若さでした。
リベンジする機会のなかった那須監督ですが、日活時代の後輩にあたる金子修介監督は、藤原竜也さん主演作『デスノート』二部作(2006年)を大ヒットさせ、人気マンガの実写化ブームに火を点けることになります。
金子監督が実写版『デスノート』を成功させた要因に、原作を無理に2時間にまとめずに二部作として公開、CGは死神のデュークなどに限定して使用、原作ファンも納得できるオリジナルの結末、舞台で演技力を磨いた藤原竜也さんや、後に「カメレオン俳優」と呼ばれる松山ケンイチさんら芝居のうまいキャストの起用などが挙げられます。
実写版『デビルマン』での問題点を、那須監督と懇意にしていた金子監督は、見事にクリアしています。また、『デスノート』の直前には、那須監督が病床で準備を進めていた楳図かずお原作のホラー映画『神の左手 悪魔の右手』(2006年)の企画を引き継ぎ、完成させています。金子監督なりの弔い方だったように思います。
過去の実写化映画のなかには、ほとんど話題にもならずに埋もれてしまった作品も少なくありません。その点では、実写版『デビルマン』は、後世に語り継がれる、大いなる失敗作だったと言えるのではないでしょうか。
(長野辰次)
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