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アニメ『北斗の拳』シンとの決着までやたらアニオリ展開だった切実なワケ 放送40周年

マグミクス / 2024年10月11日 6時25分

アニメ『北斗の拳』シンとの決着までやたらアニオリ展開だった切実なワケ 放送40周年

■アニメ化の際にファンが感じた不安要素とは

 本日10月11日は、1984年にTVアニメ『北斗の拳』が放送開始した日です。今年2024年で40周年となりました。原作マンガと共に『北斗の拳』人気をけん引したTVアニメの魅力について振り返ってみましょう。

『北斗の拳』は「週刊少年ジャンプ」連載の人気マンガで、初期の「ジャンプ黄金期」を支えたヒット作品でした。武論尊先生の原作、原哲夫先生による作画という布陣のアクション格闘技系作品で、「ジャンプ」の発行部数が400万部に達した時代の看板作品です。

 このように『北斗の拳』の人気はアニメ化以前から大きなもので、TVアニメ化はファンにとって念願のことでした。アニメ制作は「東映動画(現在の東映アニメーション)」で、『Dr.スランプ アラレちゃん』や『キン肉マン』など、それまで数々のジャンプ作品のTVアニメを手がけていたことから、当時のファンにはなじみの布陣だったかもしれません。

 しかし、TVアニメ化されることにファンが感じる不安要素もいくつかありました。原先生のち密に描き込まれた線をアニメで再現できるのか、主人公である「ケンシロウ」の「あたたた……」といった独特の「声」を誰がどのように演じるのか、そして人体がバラバラになるという残酷な描写をTVで放送できるのか……という点です。

 作画に関しては数々の作品に携わった須田正己さんがキャラクターデザインを手がけ、原先生の絵に限りなく近づけました。またシリーズディレクターが芦田豊雄さんだったことも大きかったと思います。なぜなら芦田さんも優秀なアニメーターでした。この布陣が当時としては最高峰の作画を支えたのでしょう。

 ケンシロウの声についてはひとつの逸話があります。ケンシロウ役を決めるオーディションでは、後にその声を担当する神谷明さんと、放送では「シン」役となる古川登志夫さんが競いました。

 この時、戦闘シーンにおいて、練習では普通に演じていた神谷さんが本番になった途端、実際のTVアニメでおなじみの「怪鳥音」で演技を始めたそうです。これを聞いた時、古川さんは「やられた」と思ったと漏らしていました。

 これはTVを見たファンも同じで、筆者も初めてケンシロウのセリフを聞いた時は、それまでのヒーロー調の神谷さんの演技とは異なる演技方法に、度肝を抜かれたことを覚えています。神谷さんが新境地に達した瞬間だったのでしょう。

 そしてファンからもっとも懸念されていたのが、原作では最大のカタルシスとなる悪党の人体破壊シーンでした。これにはアニメスタッフも細心の注意を払ったようです。シルエット処理や透過光、画面の反転などの演出で、アニメ作品として見られるよう工夫されました。

 このほかにも、敵をあり得ないくらい巨体に描くアニメ的表現でリアル感を消し、原作では暴力的ととらえられそうなセリフもソフトなものに差し替えています。こうした演出方法でアニメ『北斗の拳』は、ゴールデンタイムのTVアニメにふさわしいものとなりました。

 その甲斐もあって、放送当時には大きなクレームはなかったといわれています。ただし、日本PTA全国協議会が1986年にまとめた第1回「好ましくない番組ワースト10」では、第7位に選ばれていました。アニメ作品では唯一のランクインです。

 こうしてTVアニメとしても人気作品となった『北斗の拳』ですが、実はほかにも問題点がありました。

■アニメ版で初期からオリジナル要素が多い理由とは

「原作に忠実」を謳う、2023年9月に発表された新作アニメ『北斗の拳 -FIST OF THE NORTH STAR-』ティザーキービジュアル (C)武論尊・原哲夫/コアミックス,「北斗の拳」製作委員会

 TVアニメ化された『北斗の拳』が抱えた最後の問題点とは、原作マンガのストックでした。

「ジャンプ」では週刊連載で、TV放送とほぼ同じくらいのペースで進むので大丈夫ではないか、と思う人もいるかもしれません。しかし通常、30分もののTVアニメ1本で使用する原作は、週刊連載マンガで3話から5話といわれています。

『北斗の拳』は人気爆発後、すぐにTVアニメ化されました。そのため、TVアニメ化された際は連載から1年と1か月程度だったのです。アニメ放送開始時の原作は、ケンシロウが囚われの身の兄の「トキ」に会いに行くあたりでした。

 人気作品のTVアニメなら1年以上の放送は間違いありません。そこでアニメスタッフは最初からアニメオリジナル(アニオリ)の展開を用意することになりました。それが最初の敵役であるシンとの戦いを膨らませることです。

 原作ではわずか10話で退場したシンとの戦いを、アニメ『北斗の拳』は半年ほどかけて第22話「第一部完結 ユリア永遠に…そしてシンよ!」まで引き伸ばしました。その間を埋めるため、いくつかのアニオリ展開が用意されます。

 大きな原作からの改変点として、シンとの戦いの後に登場する「大佐(カーネル)」「ジャッカル」といった悪役をシンの配下としました。また、シンの部下としてケンシロウを監視する「ジョーカー」というキャラクターを設定しています。

 このほかにもシンの配下には「南斗聖拳」の諸流派がいるというアニオリ設定で、原作には登場しない南斗の使い手が何人も登場しました。それらが毎週倒されていくという展開が、アニメ初期の『北斗の拳』での見どころとなります。

 このアニオリ南斗聖拳には、拳法らしい技もいくつかあるものの、なかには超能力としか思えないものもあり、「南斗暗鐘拳」の「ザリア(第15話)」は鐘の音で民衆を洗脳し、死体をよみがえらせるなどの能力を持っていました。拳法というよりも妖術でしょうか。

 拳法ではなく、近代兵器を利用したものもありました。人間大砲を使った「南斗人間砲弾」の「ガレッキー(第19話)」や、ヘリコプターまで使った「トウダ(第20話)」の「南斗列車砲」などです。原作キャラクターであるジャッカルも、ダイナマイトを使った「南斗爆殺拳(第12話)」という技を使いました。これを見たケンシロウも「火薬に頼って何が拳法だ」というツッコミを入れます。

 こういったアニメならではの展開も魅力でしたが、ファンの話題になることが多いのはやはり「予告編」の名調子でしょうか。ナレーションも務める千葉繁さんの怪演が脳裏に焼き付いている人も多いことでしょう。

 この予告編は徐々に読み上げるテンションが高くなっていくことで知られています。しかし、千葉さんは「このままでは体が持たない」「頭の血管が切れるのではないか」と考え、アニメ続編となる『北斗の拳2』からは活動弁士口調へと切り替えました。ところが、ファンから「やめないで」という投書が多数、寄せられたことで、もとのような調子に戻したそうです。

 このようなアニメスタッフの努力が、TVアニメ作品としての『北斗の拳』も名作としたのでしょう。40周年のこの機会に気になった部分をもう一度、視聴するのもいいかもしれません。

(加々美利治)

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