バットマン不在でも大ヒット 映画『ジョーカー』はなぜ地上波で放映されないのか?
マグミクス / 2024年10月11日 20時10分
■日本でも興収50億円超のヒット作
アメコミ界を代表するスーパーヒーロー、バットマンの宿敵といえば、ピエロのメイクをしたジョーカーです。ジョーカーの誕生秘話を描いた実写映画『ジョーカー』(2019年)は、世界興収10億ドル突破という大ヒットを記録しました。日本でも、R15指定ながら50.3億円という興収結果を残しています。
2024年10月11日(金)からは、その続編『ジョーカー フォリ・ア・ドゥ』(PG12)が劇場公開されます。ジョーカーに変身するアーサーを引き続きホワキン・フェニックスが演じ、謎の女性・リーをレディー・ガガが演じていることでも話題を呼んでいます。
大ヒット映画は、続編の公開に合わせて地上波テレビで放映されることが多いのですが、『ジョーカー』に関しては、「金曜ロードショー」(日本テレビ系)でも、「土曜プレミアム」(フジテレビ系)でも、現在のところ放送予定はありません。
バットマンが登場しないにもかかわらず、『ジョーカー』が大ヒットした理由と、地上波テレビで放映されない原因を考察したいと思います。
■バットマンとは「親ガチャ」の関係
主人公のアーサーはゴッサムシティで暮らす、心優しい独身男性です。認知症ぎみの母親(フランセス・コンロイ)の介護をしながら、派遣ピエロとして働いています。みんなを笑顔にすることが、アーサーの生きがいです。あまり若いとはいえないアーサーですが、いつか一流のコメディアンになることを夢見て、慎ましい生活を送っていました。
しかし、ピエロメイクで街で仕事をしていたアーサーは、不良少年たちに襲われてボコボコにされてしまいます。また、緊張すると笑いが止まらなくなるという神経症を患っているアーサーは、市の福祉課でカウンセリングを受け、精神安定剤をもらっていましたが、福祉予算の削減で打ち切られることに。悪いことが、次々とアーサーの身に降りかかります。
ついてないときは本当についてないもので、アーサーは派遣ピエロの会社から解雇を告げられてしまいます。地下鉄で酔っ払ったサラリーマンたちに絡まれたことをきっかけに、アーサーの溜め込んでいた怒りが爆発。極悪メイクを施した凶悪犯「ジョーカー」へと変貌を遂げることになるのです。
バットマンは登場しませんが、後にバットマンとなる幼き日のブルース・ウェインはアーサーと出会うことになります。大富豪トーマス・ウェイン(ブレット・カレン)の家に生まれたブルースと貧しい家庭に育ったアーサーは、いわば「親ガチャ」の関係です。生まれ育った環境によって、人生が大きく左右されるというシビアな現実が、『ジョーカー』では描かれています。
本作でアカデミー賞主演男優賞を受賞したホワキン・フェニックスの熱演、コメディ映画『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』(2009年)を大ヒットさせたトッド・フィリップス監督のテンポのよい演出もあって、生放送中のトーク番組で起きる惨劇まで、目が離すことができません。
■地上波NGの理由は、「R15」ではない?
レディー・ガガの出演で注目度が高まっている、新作映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』 (C) & TM DC (C) 2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
仕事を一方的に解雇された。行政からの援助も打ち切られてしまう。介護中の母親はよくなる見込みがない。誰にも相談することができず、アーサーはどんどん追い詰められていきます。しかも、憧れていたコメディアンのマレー(ロバート・デニーロ)からは、自分の芸を笑いものにされてしまいます。
笑わせるのと、笑われるのでは大違いです。残された最後の希望だった「コメディアンになる」という夢さえも、アーサーは踏みにじられてしまうのです。
アメコミをモチーフにした『ジョーカー』ですが、真面目に生きていた人間がつまずき、絶望の世界へと転がり落ちていく様子を、とてもリアルに描いています。まるで本当にあった犯罪映画を観ているような気になってきます。
R15指定された『ジョーカー』ですが、R15指定のコメディ映画『テッド』(2012年)はテレビ用に編集されたバージョンがフジテレビ系で放映されています。ですから、R15指定を受けたことだけが、『ジョーカー』が地上波放映できない理由ではないようです。
■現実とフィクションを混同した悲しい事件
テレビ局側が問題視しているのは、2021年10月31日に東京都内で起きた「京王線刺傷事件」でしょう。ハロウィン期間中に起きたこの事件で、犯人はジョーカーを思わせる服装でした。失恋や職場のトラブルなどが重なり、犯行に及んだことが知られています。
2022年7月8日に起きた安倍元総理射殺事件では、犯人は母親が新興宗教団体に多額の献金をしたことから、経済的につらい思春期を過ごし、高校卒業後は職場を転々としていたことが報じられています。また、SNSなどで『ジョーカー』に関心を寄せていたとも言われています。
影響力の強い地上波テレビでの放映に、テレビ局側が慎重なのは当然かもしれません。しかし、クリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト ライジング』(2012年)の場合、米国コロラド州で催されたプレミア上映中に銃乱射事件が起きたために地上波放映が危ぶまれましたが、2014年には「金ロー」で放送されています。
映画を封印すれば、問題が解決するわけではありません。『ジョーカー2』こと『ジョーカー フォリ・ア・ドゥ』の予告編では、バート・バカラックの名曲「What The World Needs Now Is Love」が流れています。「世界が必要としているもの、それは愛、ささやかな愛」という歌詞内容の美しい曲です。現実とフィクションを混同した悲しい事件が起きないよう、寛容さのある社会になることを願うばかりです。
(長野辰次)
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