筒井康隆作品『富豪刑事』アニメ化 映像化された人気作は他にも【3選】
マグミクス / 2020年4月8日 17時50分
■牛乳とアンパンが最も似合わない刑事
人気作家・筒井康隆氏の推理小説『富豪刑事』が、『富豪刑事 Balance:UNLIMTED』としてTVアニメーション化されます。2020年4月9日(木)24時55分より、フジテレビ系「ノイタミナ」でのスタートです。同じく「ノイタミナ」でオンエアされた『僕だけがいない街』が話題を呼んだ伊藤智彦監督が起用されています。
大富豪の家に生まれた刑事が、お金を湯水のように使って難事件の数々を解明していくというコミカルなミステリーものです。2005年には女優の深田恭子さん主演ドラマ『富豪刑事』として、テレビ朝日系で実写化もされました。容疑者を誘き出すために、わざわざ新しい会社を設立するなど、世間ばなれした主人公像に深キョンはなかなかハマっていました。筒井氏も深キョンと同じホリプロ所属ということで、レギュラー出演していました。2006年には続編『富豪刑事デラックス』も放映されています。
今回のアニメ版『富豪刑事』は、富豪刑事・神戸大助(CV:大貫勇輔)と原作には登場しなかった熱血刑事・加藤春(CV:宮野真守)とのバディものになるようです。深田恭子版『富豪刑事』も、原作は男性刑事だったのが女性刑事に脚色されています。自身の小説の映像化に関しては、筒井氏はかなり寛容なことが知られています。そんな筒井作品のなかから、映像化された人気作を紹介したいと思います。
■歴代アイドル女優が主演した青春ストーリー
映像化された筒井作品で誰もが真っ先に思い浮かぶのは、ほろ苦いSF青春ストーリー『時をかける少女』でしょう。1967年にジュブナイル小説として発表された作品で、近年もブームが続く「タイムリープもの」の先駆作です。1972年にNHK総合の人気番組「少年ドラマシリーズ」の第1作『タイムトラベラー』として実写ドラマ化されて以降、原田知世主演映画『時をかける少女』(1983年)のほか、南野陽子版(1985年)、内田有紀版(1994年)、安倍なつみ版(2002年)、黒島結菜版(2016年)といったアイドル系女優たちが主演したTVドラマが制作されています。
映像化された数ある『時をかける少女』のなかでも、ひときわ印象に残ったのは細田守監督による劇場アニメーション『時をかける少女』(2006年)ではないでしょうか。原作の主人公である芳山和子の姪・真琴(CV:仲里依紗)が活躍するオリジナルストーリーとなっていました。ごく平凡な高校生・真琴はタイムリープ能力を手に入れることで、逆に何も起きない平凡な日常を過ごすことの喜びを噛み締めることになります。
アニメ版『時をかける少女』は興行的には大成功とは言えませんでしたが、筒井氏から大絶賛され、細田監督は次作『サマーウォーズ』(2009年)へと大跳躍してみせることになります。また、はつらつとした声優ぶりを披露した仲里依紗さんは、実写映画版『時をかける少女』(2010年)にも主演。この時に共演した中尾明慶さんと、2013年に結婚することになります。
■筒井作品ならではのメタフィクション的展開
『パプリカ』画像はDVD(ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)
原作小説を巧みにアレンジしてみせたという点では、今敏監督の劇場アニメーション『パプリカ』(2006年)も高く評価されている作品です。サイコセラピストである敦子(CV:林原めぐみ)が夢探偵パプリカとなって、他人の夢(潜在意識)の中へと入っていくSFミステリーです。ヴェネチア国際映画祭に出品され、米国では劇場公開されるなど、海外でも人気を呼びました。
今敏監督が極彩色で描いた夢の世界に圧倒されます。『地上最大のショウ』『ローマの休日』『コレクター』などの名作映画をモチーフにしたシーンのほか、官能シーン、恐怖シーンも混在し、パプリカと一緒に夢の世界を冒険しているような気分になります。
クライマックスでは膨れ上がった欲望によって夢があふれ出し、現実世界を侵食するようになります。リアルとフィクションとの境界が消滅し、筒井作品ならではのメタフィクション的展開となっていきます。本作が今敏監督の遺作となったことが本当に惜しまれます。
■クリエイターの創作欲を刺激するスーパーヒロイン
最後に紹介するのは、筒井ファンなら誰もが心をときめかしただろう火田七瀬を主人公にした『七瀬ふたたび』です。他人の心を読む超能力者である七瀬が、異なる超能力を持つ仲間たちと出会い、そして超能力者の存在を否定する武装集団から迫害されていくという悲壮感漂うSFサスペンスです。
NHK「少年ドラマシリーズ」で多岐川裕美主演作として1979年に放映されたのをはじめ、水野真紀版(1995年)、渡辺由紀版(1998年)、蓮佛美沙子版(2008年)がTVドラマ化されています。「筒井康隆作家生活50周年記念」として、芦名星主演映画『七瀬ふたたび』(2010年)も劇場公開されました。
『時をかける少女』に次いで、『七瀬ふたたび』もたびたび映像化されています。おそらく筒井作品に魅了されたクリエイターは、自分が理想とする七瀬像を自分の手で映像化してみたいという想いに駆られるのではないでしょうか。そのくらい、火田七瀬は魅力的なキャラクターです。
石原さとみ映画初出演作『わたしのグランパ』(2003年)、河崎実監督のブラックコメディ映画『日本以外全部沈没』(2006年)、岡本喜八監督による音楽コメディ映画『ジャズ大名』(1986年)なども忘れられない作品です。いつか『エディプスの恋人』『旅のラゴス』『驚愕の曠野』あたりも、天才クリエイターによって映像化されれば面白いだろうなぁと思います。
(長野辰次)
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