「ガンダムが怖い…」と話題『復讐のレクイエム』 “オデッサの戦い”でジオン軍はなぜ負けた?
マグミクス / 2024年10月24日 21時25分
■死神じみた強さのガンダムEXにゾッ!
Netflixにて、『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』の配信が開始されました。一年戦争における地球上最大の戦いとなった「オデッサの戦い」を背景に、ジオン公国軍の「イリヤ・ソラリ」大尉率いるモビルスーツ(MS)部隊「レッド・ウルフ隊」と、彼らの前に立ちはだかる「ガンダムEX」との死闘を描いた本作は、配信開始直後からガンダムファンの間で話題になっています。
特に「Unreal Engine 5」を用いたリアルで緻密なCGによる戦闘描写は、ガンダムシリーズ随一の迫力と悲壮感に満ち、死神じみた強さのガンダムEXに無双されるジオン軍の面々には同情を禁じえません。
オデッサの戦いでは四方八方から大量の地球連邦軍が進軍してきて、ジオン公国軍は壮絶な撤退戦を余儀なくされたわけですが、いったいなぜこのような地獄の戦況が生まれてしまったのでしょうか。
『復讐のレクイエム』をさらに楽しみたい方のために、オデッサの戦いにおいてなぜジオン公国軍は敗北したのか、を考察します。なお「オデッサの戦い」は、地球連邦側の観点では「オデッサ作戦」とも称されていますので、本文中では、ふたつの名称が混在します。ご了承下さい。
『復讐のレクイエム』の最初の舞台となるのはU.C.0079、11月6日15時のルーマニアです。ご存じの方も多いと思いますが、これは『機動戦士ガンダム』本編で地球連邦軍が「オデッサ作戦」を発令する11月7日の前日にあたります。その後のオデッサの戦いの主な流れは、以下の通りです。
・11月7日6時 地球連邦軍が「オデッサ作戦」発令。侵攻開始。
・11月8日 ジオン公国軍が防衛線を縮小。戦況はこう着状態へ。
・11月9日3時35分 地球連邦軍第4軍、北方より防衛線を突破。
・同日17時 マ・クベ大佐、オデッサ放棄。宇宙へ脱出。
これ以降は、地球連邦軍による残敵掃討が続き、11月10日14時をもって臨戦態勢から警戒態勢に移行したことでオデッサ作戦は終了しました。一年戦争のターニングポイントとなったオデッサの戦いですが、実質期間はわずか3日。しかし、その勝敗を喫するための動きは、1か月前から始まっていたのです。
10月4日、ジオン公国地球方面軍司令官「ガルマ・ザビ」大佐戦死の報を受けた地球連邦軍の「ヨハン・イブラヒム・レビル」大将は、こう着していた戦況を打破する一大反攻作戦を発案します。それはジオン公国突撃機動軍「キシリア・ザビ」少将麾下の「マ・クベ」少佐が治める、オデッサ近郊の鉱物資源採掘基地の奪取でした。
同基地は資源の乏しいジオン公国軍にとって重要な拠点ではありますが、その奪取に地球連邦軍の地上勢力の3割を導入する、ある意味大きな賭けともいえる作戦でした。
レビル大将の動きは迅速で、驚くべきことにガルマ大佐の死から1週間足らずの10月10日には、自身が搭乗する移動司令本部ビッグ・トレー級陸戦艦<バターン>号を擁する第3軍をサウスサンプトンから、トリポリ、ジェノバ、ストックホルムほか地球連邦軍の拠点から8つの部隊を出発させて、オデッサを半月状に包囲するように展開させていきます。
ちなみに同日、「ホワイトベース隊」が、レビル大将から「5日後」に始まる作戦への参加を要請されたことからも、レビル大将が一刻も早くオデッサを落としたかったかが分かります。
このオデッサの戦いに投入された兵力は、一説によれば地球連邦軍がおよそ770万人、ジオン公国軍はおよそ98万人(諸説あります)。その差は7~8倍です。しかし、10月中旬の時点でジオン公国軍の敗北が決定していたかというと、そうとも言えません。
■兵力差ではない…ジオン敗北の決定的な理由とは?
ガンダムに圧倒されるジオンのソラリ大尉『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』より (C)創通・サンライズ
地球連邦軍がいくら7倍の兵力を持っていたとはいえ、上記の通り8つの複数の各拠点から分散しての進軍です。また『機動戦士ガンダム MSイグルー2 重力戦線』第3話冒頭の地図を見る限り、地球連邦軍の各部隊は、ジオン公国軍占領下の地域を進軍しています。
戦闘において攻めは守りの3倍の兵力が必要という説もあるように、集結前の地球連邦軍各部隊を確固撃破、それが無理でも撤退しながら戦力を削っていくことは充分可能だったでしょう。
ましてやマ・クベは、スパイである地球連邦軍の「エルラン」中将を通じてオデッサ作戦の内情を把握していたはずなのです。しかしマ・クベが、欧州方面でそうした情報を活かした痕跡はありません。
ここで重要なのはオデッサの戦いの要となる鉱物資源採掘基地の指揮官はマ・クベですが、実際の欧州の防衛線は「ユーリ・ケラーネ」少将率いるジオン公国軍欧州方面軍が担っていました。そして前述の通りマ・クベはキシリア麾下の突撃機動軍所属ですが、ユーリは故ガルマ麾下の地球方面軍所属です。つまりオデッサの戦いにおいて、ジオン公国軍にはマ・クベとユーリのふたつの命令系統が存在していたのです。
マ・クベがどれだけユーリと情報を共有していたかは分かりませんが、11月初めには、地球連邦軍によるオデッサ包囲網がほぼ完成していたところを見ると、そこまで有機的な連携があったとは、とても思えません。むしろマ・クベは前半戦のオデッサ包囲の失態はユーリに被せて、自身でそこから逆転劇を演じてみせようとしていたのではないかという邪推が浮かぶほどです。ともあれ11月7日には、地球連邦軍によるオデッサ包囲網がほぼ完成してしまいました。
オデッサ作戦発令後、地球連邦軍は西から主力の第3軍が、北から61式戦車を主体とした第4軍が、北西から第2、第7軍がオデッサへ向けて侵攻し、南のアンカラからミサイルとロケット砲による支援攻撃を行い、その包囲網を急速に狭めていきます(ちなみにホワイトベース隊はマ・クベの鉱山基地後方を目指して、東方から進軍しています。『復讐のレクイエム』の最初の舞台はオデッサ西方のルーマニアですから、ちょうど正反対の位置です)。
これだけ切羽詰まった状況に陥っても、マ・クベが欧州方面軍や北米のジオン公国軍と連携を取ろうとした跡は見られません。よほど自身と腹心の部下だけで、戦況を覆せるという自信があったのでしょう。内通者エルランが予定していた行動が効果的なものだったのか、あるいは最初から連邦軍軍勢が集結したところで核攻撃を行うつもりだったのか。しかしホワイトベース隊や「アムロ・レイ」の想定外の活躍により、それらは潰えてしまいました。
もしマ・クベがオデッサの司令官としての責務を自覚し、自身の策に慢心することなく、派閥の垣根を越えて自軍の将兵と連携できる器の持ち主であったら、オデッサの戦いは、引いては一年戦争の雌雄は変わっていたかもしれません。
(倉田雅弘)
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