『パトレイバー2』で描かれた電子戦ソックリの戦いが6年後に繰り広げられたってマジ?
マグミクス / 2024年10月30日 21時55分
■レーダーに映し出されたのは…?
1993年公開のアニメーション映画『機動警察パトレイバー2 the Movie』は、その緻密な描写と深遠なテーマで、アニメ史に残る傑作として評価されています。特に、本作に登場する実在の防空システム「バッジシステム」を舞台とする戦闘機のスクランブルシーンと、その混乱は、観る者に強烈な印象を与えました。
劇中、中部航空方面隊作戦指揮所(中空SOC)は、反乱の疑いがある三沢基地のF-16支援戦闘機3機をバッジシステム上で探知、百里基地と小松基地からF-15要撃戦闘機をスクランブル発進させ、対領空侵犯措置を実施します。しかしF-15はF-16を探知できません。実はこれはバッジシステムへのハッキングによって生じた幻影であり、反乱など実際は発生しておらず、なにもない空間に向けて戦闘機を差し向けていたに過ぎませんでした。
興味深いことに、このバッジシステムのハッキングという設定は、現実世界で起きたある事件と驚くべき類似性を示しています。それは、1999年のコソボ紛争におけるユーゴスラビア空軍とアメリカ空軍の電子的対決です。
1999年、NATO(北大西洋条約機構)はコソボ紛争に介入し、ユーゴスラビアに対して大規模な航空攻撃を開始しました。この航空攻撃において、アメリカ空軍は高度な電子戦能力を駆使し、ユーゴスラビアの防空網を徹底的に撹乱します。そのなかでも特に注目すべきが、EC-130H「コンパスコール」電子妨害機による作戦です。
EC-130H「コンパスコール」は、あたかも多数の航空機が飛来しているかのような偽のレーダー信号を生成し、ユーゴスラビア空軍のレーダーシステムに送り込むことで、敵の防空網を混乱させたのです。ユーゴスラビア空軍は、この偽の目標に対してMiG-29戦闘機を発進させましたが、パイロットたちは空中に何も発見できませんでした。レーダー上にしか存在しない、いわば「幽霊」のような敵を追いかけていたからです。
■描き出された「6年後の電子戦」
アメリカ空軍のEC-130H「コンパスコール」(画像:アメリカ空軍)
『パトレイバー2』に登場するバッジシステムのハッキングと、コソボ空爆における「コンパスコール」の作戦は、以下のような点で共通しています。
見えない敵への攻撃:いずれの場合も、攻撃対象は直接視認することができず、レーダー信号によってのみ存在が確認できる。システムの誤動作:ハッキングや電子妨害によって、防空システムが誤作動を起こし、誤った目標に対して攻撃が実行される。パイロットの困惑:パイロットは、迎撃管制の指示に従って攻撃目標に向かうものの、実際には何も発見できず、極度の混乱に陥る。これらの共通点を見る限り、『パトレイバー2』の製作者たちは、電子戦の高度化と、それがもたらす戦場の混乱を予見していたかのような印象を受けます。あるいは、制作者たちが意識していなくとも、現代戦における電子戦の重要性と複雑さを、直感的にとらえていたといえるでしょう。
EC-130H「コンパスコール」はアメリカ空軍において最も機密度の高い航空機のひとつであり、その搭載システムについては明らかにされていません。1980年代の実用化以降、これまで多くの作戦に参加し、敵の防空システムや指揮統制の撹乱だけではなく、携帯電話へのハッキングに至るまで、電波を利用したあらゆる戦いにおいて中心的役割を担ってきました。
ミッション機材は40年間アップグレードされ続けてきましたが、機体の老朽化は避けられず数年以内に全機退役の見込みとなっています。「コンパスコール」の名と役割は次のEA-37に引き継がれる予定です。
(関賢太郎)
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