腕足なぞ飾りな水陸両用MS「ゾック」の見せ場のなさは異常…お前は何がしたかったん?
マグミクス / 2024年10月28日 6時35分
■圧倒的な火力を誇る新鋭機のはずが…!?
TVアニメ『機動戦士ガンダム』に登場した「ゾック」というモビルスーツ(MS)を覚えているでしょうか。ジャブロー攻略戦に参加し、ずんぐりとしたフォルムに前後対称という特殊なデザインが目を引く機体でした。
それまでのMSとは一線を画す、異形にも思えるビジュアルをした機体は、どうして生まれたのでしょうか。
●MSでケタ外れの高火力を実現した移動砲台?
型式番号MSM-10「ゾック」は、アニメの第29話「ジャブローに散る!」に登場します。連邦軍のジャブロー基地攻略に向けて、ゾックが配備されたことを知った「シャア・アズナブル」が「使えるのか?」と問いかけると、部下は「水陸両用、ジャンプ力もザクの数倍だと……」と返答しています。
そのゾックは、実際どのような性能だったのでしょうか。
頭頂高23.9m、全備重量は229tもあります。MS「ゴッグ」が18.3m、159.4tだったのと比べると、かなり大型で重さがあります。
それもそのはず、ゾックはジオンの量産MSとしてメガ粒子砲を装備した最初期の機体なのです。それも頭頂部に1門(フォノンメーザー砲という説もある)と、肩部に前後4門ずつの、合計9門のメガ粒子砲を備えています。
モビルアーマーのような高火力を実現するために、当時のMSとしては考えられないほどの大出力ジェネレーターが必要でした。その重量と引き換えに失ったのは機動力です。ゾックの重量を支える脚部は頼りなく、全体のシルエットを見るとアンバランスさがうかがえます。
また移動は熱核ジェットエンジンによるホバー移動と、スラスターによるジャンプになり、アニメ上では鈍重な動きに見えました。水陸両用とはいえ、陸上での運動性能は低く、水中以外の機動力は期待できなかったと見るのが自然でしょう。
皆川ゆか著「総解説ガンダム事典」(講談社)のゾックの項には、「移動砲台的な機体で、後のMA開発に影響を与えたともいわれる」と書かれています。
つまりゾックは、「9門のメガ粒子砲による高火力を戦場に運ぶための機体」なのです。脚部は胴体を支えるための役割くらいしか果たせず、しかもホバー移動することから、おなじみ「ジオング」以上に「足なんて飾り」なMSといえそうです。
さらに言うと、ゾックの両腕には「アイアン・ネイル」と呼ばれる鋭いツメがあるものの、これを用いた格闘シーンは皆無でした。ゾックの機動力を考えると、せいぜい砲撃時のアンカー的な役割しか果たせそうにないことから、実は「腕も足も要らなかった」機体なのかもしれません。
■残念すぎた最新MS「ゾック」の末路
「HG 1/144 MSM-10 ゾック」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ
●どこか愛嬌のある前後・左右対称デザイン
ゾックは、前から見ても後ろから見ても同じという対称デザインが印象的です。どことなくマスコットキャラ的な愛嬌のあるフォルムにかわいさを感じる人も少なくないのではないでしょうか。
ゾックの前後対称デザインは、『ガンダム』の機体のなかでも異色です。実はこういう造形になった理由としては、「機体を180度転回する速度があまりにも遅く、実用的ではないため」とも「敵の包囲攻撃に対応するため」ともいわれています。
実際、ゾックに求められる役割が「移動砲台」なのであれば、これが最適解だったのかもしれませんね。
●見せ場皆無なのは誰の責任?
劇中でゾックは、2機のゴッグとともにジャブロー攻略の先発隊として出撃します。基地発見後は、シャアの乗るMS「ズゴック」と行動しました。
基地内を先行したシャアは「アムロ」の「ガンダム」と交戦するなかで、連邦軍の「ウッディ大尉」による命がけの攻撃によりズゴックのメインカメラを破壊されます。するとシャアは、ゾックに乗る「ボラスキニフ」に撤退の援護をするよう命じました。
ゾックのメガ粒子砲でガンダムを攻撃しますが、アムロの立体的な回避運動によって鮮やかにかわされます。そしてガンダムのビーム・ライフルで、胴体のおそらくコクピット部を正確に撃ち抜かれ、たった一撃で沈黙しました。
ゾックの装甲は戦車の砲撃が直撃してもビクともしなかっただけに、いかにガンダムのビーム・ライフルが強力か分かるシーンでもあります。
やはりゾックは、ガンダムと接近戦を行えるような機体ではなかったのが最大の敗因でしょう。潜んで「移動砲台」に徹していたら、ジャブローでも十分な戦果が見込めたはずです。
シャアも、事前情報として「ザクの数倍のジャンプ力」などと聞いていなければ、狭い基地内でMS戦を挑ませるような無謀な命令は出さなかったかもしれません。
いずれにせよ、ゾックは満足な戦果を挙げることはできませんでした。いちばん最初にゾックを見たシャアは「見かけ倒しでなけりゃいいがな」とつぶやいており、図らずもその言葉は的中しました。
結果、ゾックは試作機が3機生産されたのみに終わります。残念ながら量産はされなかったものの、ゾックで培った技術と経験が、のちのMAの開発に活かされたのだとすれば、意味のある機体だったはずです。
劇中でゾックの無双シーンは見られませんでしたが、思わず立体物を手元に置いておきたくなる、愛らしさすら感じるフォルムをした機体でした。皆さんはゾックのこと、どう思いますか?
※記事内容の一部を修正しました(10月28日11時10分)
(大那イブキ)
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