シャアが乗らない「百式」が金ピカのままな謎 『ZZ』の素人パイロットには目立って危険なのでは?
マグミクス / 2024年10月30日 6時35分
■ビーチャはエースでもなんでもないのに…
「百式」は『機動戦士Zガンダム』の作中で、「クワトロ・バジーナ(シャア・アズナブル)」が搭乗した金色のモビルスーツ(MS)として有名です。
設定上はけっこうややこしい機体です。当初は非変形MSとして開発され、途中から変形MS「デルタガンダム」としての完成を目指したものの、ムーバブルフレームの強度不足で可変機能が破損することが発覚し、可変機としての開発が頓挫。その後で奪取した「ガンダムMK-II」から得られたデータを元に再設計して、運動性と機動性に優れた「百式」として完成したようです。
ちなみにアナハイム・エレクトロニクスは百式開発の直後に、「Zガンダム」や「Zプラス」を実用化しており、『機動戦士ガンダムUC』では、後継となる可変機「デルタプラス」として本来の構想が実現しています。
機体の特徴は、運動性能と耐ビーム・コーティングであるエマルジョン塗装がなされた金色の装甲で、これにより「ビームは運動性で回避し、直撃しても対ビーム装甲が防ぐ」ことから、シールドは不要という「尖った」機体として完成します。
余談ですが、「金色で、シールドを持たない完全攻撃型の機体」として、『Zガンダム』の終了直後から連載が始まった人気マンガ『ファイブスター物語』に、主役機「ナイトオブゴールド」が登場しました。当時は「金色で盾がない=強い機体」というイメージがあったためか、筆者はその後の『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』で、シャアの機体が赤い「サザビー」に戻ったことを意外に感じたほどでした。
百式はスラスターを搭載したメガ粒子砲「メガ・バズーカ・ランチャー」を使用でき、アクシズのMS隊を一撃で壊滅に追い込むなど、搭載兵器の印象も強い機体でした。
『Zガンダム』後半に登場する「ジ・O」や「キュベレイ」に対しては、性能上劣勢であり、耐ビーム・コーティングも役に立たずに、大破に追い込まれます。
ここで「変形できるデルタガンダムとして完成していたなら、一方的にやられなかった」という意見を見たことがありますが、バイオセンサーを搭載し、変形可能なZガンダムでも優位に立てていたとは言えない相手でもあり、クワトロとしては「変形しないが、運動性が高い機体」である百式の方が扱いやすったのではないかと、筆者は思います。
百式は、続編『機動戦士ガンダムZZ』の22話より、「アーガマ」に再配備されます。この時の百式はクワトロ機を修理したものという説と、2号機であるという説があります。
主なパイロットは「ビーチャ・オーレグ」となり、クワトロ搭乗時のようなピーキーなセッティングはされていないようです。これはビーチャが「ZZガンダム」に搭乗した時には「扱いきれない」という描写がなされていることからもうかがえます。
逆に、強力なニュータイプである「ジュドー・アーシタ」が搭乗した時は、百式でドライセン部隊を撃退していますから、素性のいい機体なのでしょう。「アムロ・レイ」も小説版『逆襲のシャア』で「百式も悪いモビルスーツではなかった」と発言していますから、機体の運動性能を活かせるエース級にとっては「いい機体」なのだろうと考えられます。
さて、ここで筆者は疑問に感じるのですが、なぜ『ガンダムZZ』に再登場した百式は「金色」なのでしょうか。百式に搭乗するのは、アクシズで少し訓練を受けただけのビーチャや「モンド・アガケ」となる可能性が高く、本来の機体性能を引き出せるとは考えられません。シールドを持たない、明らかに素人には扱いにくい機体なのに「とにかく目立つ」わけです。
金色の特殊装甲もそれほどの防御効果がないことは『Zガンダム』で証明され、実際『ガンダムZZ』第38話では、「ジャムル・フィン」の砲撃で足を一撃で破壊されています。
このような機体を送り付けてくるなら、デルタガンダムとして完成させたり、Zガンダムをもう一機送ってきたりした方が役に立ちそうです(ジュドーとルー・ルカ以外では変形機は扱いきれないという判断もあったのでしょうが)。百式しか送れなかったとしても、もっと目立たない色にした方が安全だったとも考えられます。
■百式はなぜ金ピカのまま送られてきた?
素人の少年少女たちを中心に構成された、『ZZ』のガンダム・チーム。画像は『機動戦士ガンダムZZ』ビジュアル (C)創通・サンライズ
こうなった理由は「エゥーゴの都合」だと思われます。エゥーゴの指導者であったクワトロは、表立った連絡をせずに行方不明となったようです。この辺りも含めて、元々、エゥーゴは連邦とジオンの寄せ集めですから、組織はガタガタになっていたのでしょう。実際『ガンダムZZ』において、エゥーゴの戦力の印象は薄く、アーガマ/ネェル・アーガマ単体が、実質的な実働戦力と言えるほどでした。正規パイロットもルーだけです。
そんななか、エゥーゴとしては味方を増やすための宣伝材料として「ガンダム・チーム」を必要としたのでしょうし、「グリプス戦役でクワトロ(シャア)が操縦した金色のMS」の存在は宣伝戦略上必要とされたのでしょう。「シャアがまだエゥーゴにいるような雰囲気の宣伝映像が欲しい」ということです。
実際、「ブライト・ノア」は百式が届いた時に「グラナダ(エゥーゴ)の命令です。やむを得ません」と発言していますし、「これだけガンダムがいれば、絶対に勝てる」と言い張る、エゥーゴ幹部の「メッチャー・ムチャ」からの実質的な命令にも困っている雰囲気でした。
また、ルーは同じ話で「クワトロ・バジーナ大尉が搭乗していた百式よ」とも言っていますから、エゥーゴに宣伝戦の認識があったとも考えられるわけです。こうした状況では、百式の塗り替えなど論外だったのでしょう。
そして、『ガンダムZZ』第37話で、メッチャーは「ニュータイプと言っても所詮子供だ。勝手気ままで我々の命令など聞きはしない」と言って、ジュドーたちを新造戦艦ネェル・アーガマに配属させないようにしようとしています。
メッチャーはジュドーたちを必要としない理由として「(ネオ・ジオンがサイド3を入手したことで)組織を整備する時間ができた。パイロットの訓練もできている」と説明しました。つまり「ジュドーたちは命令を聞かないから、特に政治的な意図が強い作戦には従事させられない」ということでもあるのでしょう。
このエゥーゴの思惑が崩れるのは、戦闘中の事故でブライトが艦を離れたことで、結果的にネェル・アーガマがジュドーたちの指揮下に置かれてしまったことにあります。もしネェル・アーガマがここで正規パイロットに入れ替えられていたなら、露骨な宣伝戦が行われていたのかもしれません(「訓練されたパイロット」がジュドーの代わりに、ハマーンを倒せるのかとも思いますが)。
(安藤昌季)
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