映画『ガンダムF91』実は未完の物語 予定されていた「その後」は…えっ、宇宙海賊?
マグミクス / 2024年11月4日 7時5分
■「家族」と「コスモ貴族主義」による新たなガンダムの基準をめざした「F91」
映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(以下『逆シャア』)公開から2年後の1991年、新たな映画『機動戦士ガンダム F91』が公開されました。
劇中の時間軸では『逆シャア』の決着から約30年後、舞台も登場人物たちもリニューアルし、新たな宇宙世紀の基準「Formula(フォーミュラ)」を目指して企画された作品です。富野由悠季監督によるオリジナルストーリー、キャラクターデザインは安彦良和氏、モビルスーツ(以下、MS)デザインは大河原邦夫氏であり、初代『ガンダム』を産み出す軸となった3人が再集結しています。
さらにいえば、『機動戦士ガンダム』の映画化10周年(第1、2作は1981年公開)を記念して制作された文脈もあり、1991年内の公開はマストという意味が、「F91」には込められていたのでしょう。
宇宙世紀0123年、主人公の「シーブック」らが暮らす新興のスペースコロニー「フロンティアIV」に武装集団「クロスボーン・バンガード」が襲来し、平和だった街は戦場と化します。そして仲間のひとりである少女「セシリー」が連れ去られるも、実はセシリーが、クロスボーンを率いる「鉄仮面」こと「カロッゾ・ロナ」の実の娘だったことが判明するのでした。
やがて、鉄仮面が地球連邦に反旗を翻して新国家「コスモ・バビロニア」の建国を宣言し、戦乱が吹き荒れるなか、シーブックは新型MS「F91」のパイロットとなり、セシリーと敵味方に分かれて再会することになります。
この作品は2時間という限られた尺において、まるで10倍速再生のように「小型化しつつ、ビームシールドを備える」「モノアイではなくゴーグル風のカメラアイ」など新たなMSやキャラクターが現れては消えていくため、1回どころか2回見ても理解が追い付かないでしょう。新たな基準にふさわしく大量のアイディアが詰め込まれており、テレビシリーズで50話かけて描くことを3、4話分でやろうとして力尽きた印象です。
ただ、テーマが「家族」と「宇宙世紀の貴族主義」だったことは、分かりやすく打ち出されています。シーブックの愛機「F91」は母が開発に深く関わり、ラスボス的な存在の鉄仮面はヒロインの父です。またクロスボーンの掲げるコスモ貴族主義は、もともとの「高貴な精神を持つものが人類を率いるべき」という理念から、鉄仮面の「人だけを殺す機械(バグ)等により地球と月の人類を抹殺すること」に歪められるという構図です。
これらからは、『逆シャア』以前のガンダム作品とは一線を引こうとする姿勢が見られます。シーブックは「ガンダム」シリーズ史上初の「母親と和解した主人公」でした。また本来のコスモ貴族主義は、生まれ育ちではなく高い志により指導者になるべしという点で、選民思想に成りはてていた「ジオニズム」の限界を超えようとするものでした。その点において、鉄仮面は先祖返りといえるかもしれません。
そして鉄仮面の操るモビルアーマー「ラフレシア」が撃破され、シーブックは「想いの力」で宇宙空間を漂うセシリーを見つける感動のラストを迎え、物語はめでたしめでた……いやいや、「クロスボーン」という組織は健在だし、地球連邦は腐敗したままだし、何も終わっていないじゃないですか!
■富野監督が原作を手がけた「クロスボーン・ガンダム」は正真正銘の続編
実は何も終わってなかった『F91』。「U.C.ガンダムBlu-rayライブラリーズ 機動戦士ガンダムF91」(バンダイナムコフィルムワークス)
それから3年後、「月刊少年エース」(KADOKAWA)でマンガ『機動戦士クロスボーン・ガンダム』の連載が始まりました。
舞台は『F91』から10年後の宇宙世紀0133年であり、留学生の「トビア・アロナクス」が乗っていた惑星間航行船が中継ステーションに停泊中、宇宙海賊の襲撃を受けます。が、実は船内には地球に運ぶ予定だった大量の毒ガスが積まれており、教官の「カラス」は「木星帝国」の手先でした。
宇宙海賊は「ベラ・ロナ(セシリー)」のもと「クロスボーン」を再編し、地球侵攻を企む木星帝国に対抗する組織でした。そしてトビアをカラスから助けた「キンケドゥ・ナウ」は、シーブックの偽名だったのです。
「原作:富野由悠季」というクレジットは正真正銘であり、富野監督が自ら手掛けたプロットをマンガ家の長谷川裕一氏に渡している上に、巻末のインタビューでも監督と長谷川氏がやり取りをしていることが書かれています。100%純粋に、『クロスボーン・ガンダム』は『F91』の正当な続編なのです。
トビアがステーションで巡り合った少女「ベルナデット」の正体が、木星帝国の総統「クラックス・ドゥガチ」の娘という関係性も、『F91』のセシリーと鉄仮面をなぞるかのようです。こちらも、父がこじらせた上に凝り固まった大人とあり、和解も歩み寄りようもありませんでした。
本作と『F91』を繋ぐもうひとりのキーマンが、前作でもクロスボーンのエース・パイロットだった「ザビーネ・シャル」その人です。前作では民間人を載せる航宙練習艦「スペース・アーク」を見のがすなど高貴な精神を持っていましたが、コスモ貴族主義への未練を捨てきれず、結局は木星帝国に投降します。が、拷問により精神に変調をきたし……アニメ『機動戦士Vガンダム』(本作連載開始の直前にTV放送)でも似た道のりをたどった人がいましたね。
そうしてシーブックとセシリー、コスモ貴族主義は最後まで余すところなく描き切られ、『クロスボーン・ガンダム』は大団円を迎えました。映画では不完全燃焼で終った『F91』のテーマは、約2年強もの連載期間、6冊もの余裕ある長さのおかげで、きっちりと完結したのです。
その後『クロスボーン・ガンダム』は『SDガンダム GGENERATION-F』などゲーム作品に登場したことで人気が再燃し、マンガ『機動戦士クロスボーン・ガンダム スカルハート』(2002年連載開始)などの外伝作品が次々と登場することになります。これらは富野監督の手から離れ、長谷川先生が単独でクレジットされる作品となりました。
ともあれ、短命のように思われた『F91』の系譜は、「ガンダムエース」2024年8月号(KADOKAWA)に掲載された読み切り作品である最新作『機動戦士クロスボーン・ガンダム 神の雷計画の真実』に至るまで、足かけ23年もの最長寿シリーズとなったのでした。
(多根清史)
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