『ガンダム00』真面目な顔して「俺がガンダムだ!」←笑わせに来てるの? TV版を総括
マグミクス / 2024年10月31日 21時55分
■「世界の敵」になることで世界をひとつにしようとした「ガンダム」
これまで数々の「ガンダム」シリーズ作品が作られてきたなか、TVアニメ『機動戦士ガンダム00』は、TV放送終了から15年が経過した今なお大きな存在感を放っています。
その始まりは『機動戦士ガンダム00 ファーストシーズン』(2007年放送)であり、『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』以来2年ぶりのTVシリーズでした。タイトルどおり、分割2シーズン制となった初の「ガンダム」作品です。
舞台は宇宙世紀ではなく「西暦2307年」であり、現実の歴史の延長上にある「戦争のなくならない、地球がひとつになれない」世界です。三大勢力「ユニオン」「人類革新連盟」「AEU」が軍拡競争を繰り広げ、宗教・民族紛争もなくなっていない、絶望的な状況となっています。
そこに現れたのが、謎の私設武装組織「ソレスタルビーイング」(以下、CB)です。戦争根絶を掲げ、超兵器「ガンダム」を用いてすべての戦争行為に介入し、武力で抑止すると宣言しました。そう、初の「武器使用の制限なしにPKO(平和維持活動)を行った」「全世界を敵に回した」ガンダム作品です。『新機動戦記ガンダムW』のガンダムたちは宇宙コロニーを代表していましたが、こちらは利益抜きです。
当初の主役モビルスーツは「ガンダムエクシア」などたったの4機で、味方は母艦の「プトレマイオス」とそのクルーたちだけでした。主人公の「刹那・F・セイエイ」をはじめ4人の「ガンダムマイスター」(パイロット)らが国家規模の大軍に立ち向かう孤独な闘いです。
が、序盤は「無敵のガンダムが有象無象を蹴散らす」無双ゲームのような有様でした。ガンダムはビームサーベルなど超兵器を持ち、何より「太陽炉」を搭載しています。この太陽炉、ガンダムお約束のふしぎ物質(宇宙世紀におけるミノフスキー粒子など)のひとつである「GN粒子」を半永久的に生成できます。
GN粒子は、圧縮すればビームとなり、質量を軽くしたり、大気圏突入時にはバリアになったり、濃度が高ければ電波を妨害できるというもので、つまり「ビーム兵器も撃てるし空も飛べる、敵のレーダーにも捉えられない」など良いことづくめの物質です。もっとも、ストーリー的には「副作用」も大事な要素でした。
ガンダムの圧倒的なスゴさは、刹那らの未熟さを覆い隠している面もあります。そのため太陽炉の秘密を横流しされ、3大勢力もガンダム並みのモビルスーツが製造できるようになれば、あっという間に形勢は逆転します。ファーストシーズンでは4機のガンダムがすべて撃破され、CBも壊滅する幕切れでした。
ところがぎっちょん(劇中で二度も使われたフレーズ)、その結末も「計画通り」でした。CBの方針は量子コンピュータ「ヴェーダ」が定めており、刹那らはその方針に従って動く末端にすぎません。現場での指揮はかなり自由ですが、大きな枠組みでは単なるコマ扱いです。
ガンダムを倒すため、3大国家が「地球連邦政府」にまとまる。それこそがCBを設立した「イオリア・シュヘンベルグ」にとって真の狙い……要するに「泣いた赤鬼」みたいな話だったのです。
■「俺がガンダムだ!」「抱きしめたいな! ガンダム!」…強烈なセリフの数々
グラハム・エーカーの愛機のひとつ「スサノオ」。ガンダムとの出会いから、どんどん間違った武士道に突き進んでいった。「HG 1/144 スサノオ」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ
続くセカンドシーズンはそれから5年後、地球連邦が悪の先兵「アロウズ」を結成し、逆らう勢力を弾圧する悪夢のような世界からの始まりです。その背後にはヴェーダを乗っ取り、イオリアの計画を歪めた「イノベイド(人造人間)」である「リボンズ・アルマーク」の野心があったのでした。
リボンズは以前から、ファーストシーズンのラスボスとなった「アレハンドロ・コーナー」のかたわらで意味深に微笑んでいました。演じるのは新人の蒼月昇さんで、なぜか「アムロ・レイ」の中の人こと古谷徹さんとソックリな声であり、絶対、何かを企んでいると思われていました。
アロウズは「擬似太陽炉」を備えた強力なモビルスーツを大量に持ち、修理したガンダムエクシアでは歯が立ちません。が、新生CBが「ダブルオーガンダム」とともに駆け付け、次世代のガンダム4機が今度はアロウズの圧政へと立ち向かいます。
セカンドシーズンは、「対話」に重きが置かれています。前シーズンでガンダムが奮戦したものの、一般人だった「沙慈(さじ)・クロスロード」と「ルイス・ハレヴィ」のカップルは不幸に見舞われた上に引き裂かれ、刹那の「武力による平和」とヒロインである「マリナ・イスマイール」の「対話による平和」がすれ違いを繰り返したのですから、当然の展開でしょう。
そこでダブルオーガンダムの持つ「ツインドライヴ」に大きな見せ場が与えられます。大量のGN粒子を発生させ、それにより(テレパシーを媒介する)「脳量子波」も伝えやすくなる空間、つまり「人が分かりあえる」空間を作り出してしまえるのです。そこには、ガンダムマイスターの刹那を真の新人類「イノベイター」へと進化させるという役割もありました。
とても真面目なテーマを追及している一方で、いきなり強烈なセリフが飛び出すのも本作の特徴です。刹那が「俺がガンダムだ!」と叫んだときも、同じガンダムマイスターである「ロックオン・ストラトス」は「何言ってんだ?」と突っ込みを入れていました。
刹那にとってガンダムは、戦争を終わらせる存在です。「俺は、ガンダムになれない」というセリフも重い意味が込められていましたが、吹き出すことは不可避でした。
より困惑を呼ぶキャラクターが、ライバルである「グラハム・エーカー」です。「抱きしめたいな! ガンダム!」「この気持ち、まさしく愛だ!(ガンダムを前にして)」は正気とは思えませんし、大けがを負った後は仮面をかぶって「ミスターブシドー」と名乗り、滝に打たれて修業をしたあげく、刹那に敗れたときは切腹しようとしていました。
またファーストシーズン、セカンドシーズンとも、ラスボスがネタに走っている印象があります。かたや「金色のジム」、かたや「ガンダム」や「ガンキャノン」的に変形できるMSであり、長年のガンダムファンであれば腹を抱えて大笑いしたでしょう。
大真面目なのかふざけているのか分からない、その境界線こそが『ガンダム00』の魅力です。この面白さは、TVシリーズの先を描く『劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-』でもさく裂するのでした。
(多根清史)
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