『ファントム無頼』主人公の問題児たちはその後ちゃんと出世できたのか 連載終了40年
マグミクス / 2024年12月5日 21時25分
■あんな調子のまま空自でやっていけるの?
小学館から、史村翔(武論尊)先生が原作、新谷かおる先生が作画を担当したマンガ『ファントム無頼』の完全版が2024年8月より刊行中です。偶数月の第1木曜日に1巻ずつ、全5巻刊行予定で、12月5日には第3巻が発売されました。
同作は1978年から1984年まで「週刊少年サンデー増刊号」に連載された作品です。航空自衛隊の、当時の主力機だったF-4EJ「ファントムII」戦闘機のパイロットである「神田鉄雄」二等空尉と、オペレーターの「栗原宏美」二等空尉のコンビを主人公とし、連載終了から40年が経過した現在も根強い人気を誇っています。
神田鉄雄は、凄腕パイロットであると同時に掟破りの問題児です。物語の開幕たる第1話の冒頭では、搭乗するF-4EJで管制塔に急接近するという荒技で初登場し、見る者の度肝を抜きました。
栗原宏美はF-4EJの後部席から目的地へ正確に誘導する、別名「百里のコンピューター」です。物語の冒頭では協調性に欠ける問題児として登場しますが、神田と出会ったことで変化していきました。
そのような百里基地の問題児コンビが、仮にその後も航空自衛隊に在籍したとして、ちゃんとエラくなれたのでしょうか。
航空自衛隊の戦闘機要員は、防衛大学校の卒業生と、一般の高校や大学を卒業した後に試験を受けて自衛隊に入隊する航空学生の志望者から選抜されます。
栗原は一般大学に通学している描写があるので、航空学生出身の可能性は高いでしょう。神田には学生時代の描写こそありませんが、破天荒すぎるキャラからして規律を重んじる防衛大学校の卒業生とは考えにくく、彼も航空学生出身ではないかと思います。
その航空学生出身者は、公式には防衛大学校出身者と差は無いことになっていますし、もちろん例外もあるのですが、一般的には防衛大学校出身者に比べて昇進面では不利になる傾向があり、ふたりは昇進できたとしても1等空佐止まりでしょう。
なお、神田と栗原はとある理由から一度、懲戒免職の危機におちいりますが、その時、思いもよらぬことが起きて解決します。
筆者の知る限り、いったん懲戒免職となった自衛官がふたりのような形で復職した事例はありませんし、元々ふたりとも技量は高いものの、神田は破天荒なふるまい、栗原は協調性の乏しさから問題児扱いされていたため、たとえ復職がかなったとしても、昇進には大きく響いたことでしょう。
ただ、栗原はコンピューターやソフトウェアへの造詣が深く、ご存じのように作品完結後の現実世界では、それらの能力が一層、重視されるようになっていきました。そうした時勢において栗原は、航空自衛隊にとっては得難い人材のはずですから、1等空佐以上に昇進した可能性もあったのではないかと思います。
一方の神田は、ファントムの操縦テクニックこそピカイチながら、民間企業に転職した場合、同じような能力を発揮できたかは定かではありません。ジェット戦闘機のパイロットとしての生活が骨の髄まで染みつき、コクピットに座っていないと落ち着かないと騒ぐ描写が何度も出てきました。地上での生活に、生きる実感を見いだせず苦労をともなうことが想像できます。
作品完結後、民間で飛び続けるとなると、たとえば小型機パイロットの道などはあるかもしれず、そうなると、『ファントム無頼 完全版』第3巻収録の「ONLY ONE SHOT」というエピソードで、油田火災の消火技術を持つ海外の航空会社にスカウトされた神田のことですから、国外に飛び出すかもしれません。
ただ、神田はアメリカ合衆国大統領や、旧ソ連空軍の女性爆撃機パイロットなど、国籍男女を問わずに好かれてしまう作中一のモテ男でした。また、無許可で民間人をF-4EJの後部席に乗せるなど、問題行為が多い神田ではあるものの、百里基地の司令である太田は、彼を叱りながらもかわいがっています。そういう「愛されキャラ」として描かれていましたので、これらの能力と元戦闘機パイロットというキャリアを活かしてコメンテーターなどに転身すれば大成功……していたかもしれません。
(竹内修)
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