『推しの子』終盤展開の問題 実写やアニメで「改変」を望む声が出ているのは何故なのか
マグミクス / 2024年11月28日 20時55分
■原作者にとって「想定通りに進んだ」ラストでもある
2024年11月14日に完結した人気マンガ『【推しの子】』の最終回には批判、不満の声が続出しました。さまざまな意見があったのですが、なかでもSNSで多かったのは、「ノベルゲームのエンディング分岐のうちのひとつみたい」ということです。その理由と「今後」のメディアミックス展開に期待できることを、ネタバレありで解説しましょう。
※以下からはマンガ『【推しの子】』の最終回を含むネタバレに触れています。
●「ノベルゲームで選択肢を間違えた結果」にも思えるラスト
『【推しの子】』のクライマックスでは、主人公のひとりである「星野アクア」が、自身の父親であり全ての元凶といえる「カミキヒカル」と対峙しました。そして、持っていたナイフで自身の腹部を刺して、「カミキが自身の罪を暴いたような映画の内容に逆上し、その脚本を書いたアクアを刺した」という筋書きで、カミキを社会的に抹殺することを企てます。その結果として、アクアはカミキとともに海へと落ち、カミキを、そして自身をも殺しました。
生きたい理由がたくさんあると答えたアクアにとっても、彼を慕う周りの人々も、この物語を追ってきた読者も、決して望んではいなかったであろう、主人公が死亡する、バッドエンドともいえる終わり方……それ自体に賛否が出るのは当然です。
しかも、恋愛的な関係を匂わせた(そうなっていた)、「有馬かな」「黒川あかね」「星野ルビー」……ヒロインそれぞれが、誰もアクアと添い遂げることなく、それどころかはっきり悲しみに打ちひしがれる姿も見せました。
このように「他の選択肢があったように思える」「ヒロインの誰とも結ばれずに主人公死亡で終わった」印象こそが、「ノベルゲームで選択肢を間違えた結果としてのバッドエンド」のように感じられる理由です。
●真に復讐を遂げるトゥルーエンドもあり得たかもしれない
もちろん、現状のラストもアクアが妹の星野ルビーを守るための苦渋の選択の結果ではあるのですが、だからこそ「そもそも劇中で、カミキヒカルの罪を告発する映画を作る理由はなんだったのか」とも思ってしまいます。
やはり、ナイフで物理的に母親「星野アイ」を刺し殺されたことへの復讐として、アクアのこれまでの芸能界での経験と人間関係を活かし、「映画という媒体で社会的に葬る」「カミキ含め誰も死なずに自身も周りに幸せになる」ことこそが、「真に復讐を遂げるトゥルーエンド」な着地になるのではないか、と考えてしまうのです。
●単行本の書き下ろしで明かされるかもしれない要素も
ほかにも、「神」的な存在のように描かれていた謎の少女「ツクヨミ」は(アクアの最期の夢に出てきたものの)正体がはっきりとは分からないままだったり、最終回でアイドルユニット「B小町」に誰なのかわからない3人目のメンバーが加入していたりすることに関して、描写が足りていない、もしくは「打ち切り」のような印象さえを抱く人もいます。
それらの謎や未回収にも思える伏線は、12月18日発売予定の単行本最終16巻にある、「【とある真相】が明らかになる」という24ページの描き下ろし追加エピソードでフォローがあるかもしれません。
それでも、少なくともマンガでは、アクアが死ぬ、星野ルビーが(他のキャラクターも)その死の悲しみを乗り越えていく……という終わり方がくつがえることはないでしょう。
なお、原作者の赤坂アカ先生は集英社オンラインのインタビュー記事で、「エンディングに関しては想定通りに進みました」と語っており、何かの外圧が働いて現状の最終回になったわけではないことははっきりとしています。
■『【推しの子】』という作品は「原作改変」自体は否定していない
完結となる実写映画で改変はある?『【推しの子】-The Final Act-』ポスタービジュアル (C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・東映 (C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・2024 映画【推しの子】製作委員会
●あり得る別エンディング、そして現状のラストを肯定する意見も
そのような批判や不満の声が続出したからこそ、実写ドラマ版および映画、はたまたTVアニメの3期(それ以降の4期)で、「別エンディング」を期待する声も出ています。
たとえば「アクアは海へと落ちたが海岸へ辿り着き生還する」「映画が社会に与えた影響と自身たちが幸せになることでカミキに復讐する」「アクアがヒロインの誰かと結ばれて終わる」「アクアがカミキを殺した(ように思えた)のも実は映画の1シーンだった」といった、まったく異なるトゥルーエンドもしくはハッピーエンドも想像できます。
なお、現状のラストも、アクアにとっては妹のルビーを守ることができた「メリーバッドエンド」として肯定する人もいるようです。この終わり方だからこそ、その少し前の157話「なんにもない日、すてきな日」の尊さが際立つという意見もありました。
芸能界の「闇」「裏側」を描き続けても、なおもその場所で生きる人びとを描いている作品だからこそ、「どんなに苦しく辛いことがあっても、登場人物たちが芸能界で生きる」という着地は必然と思う人もいるでしょう。
●原作改変を否定していないからこその期待
『【推しの子】』の劇中では、漫画家の「鮫島アビ子」が、自身の作品の舞台版の脚本について「別に展開を変えるのは良いんです。でもキャラを変えるのは無礼だと思いませんか?うちの子たちはこんな馬鹿じゃないんですけど」などと訴える場面があり、その後も表現が異なる媒体での「原作改変の問題」および「改変がされる正当な理由」をも描いています。
つまり、それは作品内で「原作改変そのものを十把一絡げに否定していない」ということです。だからこそ、「『【推しの子】』の実写やアニメでは、マンガとは違う最終回を用意することはあり得る」と思えますし、それはメディアミックスの様々な事情を描いてきた『【推しの子】』という作品自体を、メタフィクション的に捉えることにもつながるのかもしれません。
いずれにせよ、Amazon Prime Videoで11月28日21時より1~6話(12月5日21時より7~8話)が独占配信される実写ドラマ版、12月20日より劇場公開される実写映画『【推しの子】 The Final Act』、放送時期未定ながら制作決定したテレビアニメの3期(それ以降の4期)で、『【推しの子】』の物語がどのように展開するかは見ものです。「原作に忠実」を貫くのか、それともラストも含めて改変をするのか……多くのファンにとって、納得できる内容になることを期待しています。
(ヒナタカ)
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