実写映画『推しの子』ラストは納得できた?改変は? ネタバレなしレビュー
マグミクス / 2024年12月21日 8時35分
■できればドラマを観てから映画を観てほしい
2024年12月20日より、実写映画『【推しの子】 The Final Act』が公開中です。Amazon Prime Videoで配信された全8話のドラマに続く、事実上の実写版『【推しの子】』の「完結編」です。
まず、個人的な結論から言えば、本作は間違いなく劇場で鑑賞する価値のある内容であり、心から見てよかったと、その内容に満足できました。
実写ドラマ版は、「星野アイ」役の齋藤飛鳥さんを筆頭とした俳優陣の再現度、大胆ながら重要なポイントを外さないドラマ独自の構成などが好評を得ています。ドラマが気に入ったのであれば、その魅力が継続しつつも、かなりシリアス寄りのトーンで進み、そして結末を迎える今回の映画も好きになる可能性は高いでしょう。
アイドルのコンサートは特に劇場のスクリーンで映えるものですし、「雨宮吾郎」役の成田凌さんや、「カミキヒカル 」役の二宮和也さんの存在感や演技力は、出番が少なめだったドラマ版よりも、今回の映画ではっきりと分かりました。
そして、後述する理由で、原作マンガの最終回、さらにはマンガの最終16巻の描き下ろしのおまけに不満を持った方にも(それでも賛否両論を呼ぶことは想定できますが)おすすめする理由があります。
●ドラマを全話観てからの映画の鑑賞を推奨
また、なるべくドラマ版の全8話を鑑賞した上で、劇場に足を運ぶことを推奨します。アニメや原作さえも知らなくても楽しめる構造はあるものの、原菜乃華さん演じる「有馬かな」や茅島みずきさん演じる「黒川あかね」などのキャラクターの関係性と心理は、今回の映画だけでは伝わりづらいです。
それ以外でも、ドラマ全8話の「積み重ね」を見ていることを前提とした演出もありましたし、それでこその感動もあるでしょう。
ここからは、映画『【推しの子】 The Final Act』の結末を含む印象を、決定的なネタバレに触れないようにしつつ記します。また、原作マンガの最終回と、最終16巻の書き下ろしのおまけの内容も同様に、それぞれの印象を記しているので、そちらを未読の方もご注意ください。
●映画でもう一度プロローグを語り直している
WEBサイト「ドラマ&映画【推しの子】Behind The Scene」掲載の井元隆佑プロデューサーへのインタビューでは、(原作では第1巻に当たる)冒頭部を「配信ドラマ1話」と「映画版前半」に構成する、大胆な座組を試みている、と記されおり、実際にプロローグ部分を映画で「もう一度違う形で語り直す」構造となっています。
この構成を冗長だと感じる方もいるでしょうし、完全にドラマと重なっているシーンもありましたが、ドラマでは単に大胆な省略にも思えたプロローグ部分を、今回の映画の後半部分と「通し」で見ることによって、キャラクターの「意志」の強さが強烈なまでに伝わるようになっていたので、個人的には支持したいところです。『【推しの子】』をまったく知らずに見た人も、今回だけで大筋の物語は問題なくつかめるでしょう。
そして、今回の映画のメインとなるのは、ラスボス的な存在である「カミキヒカル」との対峙と、劇中の映画『15年の嘘』へ取り組む過程です。そこには『【推しの子】』という作品内に置いて、特に星野アイによって繰り返し語られていた「ウソを本当にする」という、アイドルという存在のみならず、創作物に対するメタフィクション的な「讃歌」も絡んでいます。
■マンガの最終回および最終16巻に不満を持った人にも見てほしい理由がある
映画『【推しの子】 The Final Act』さまざまな場面が集合したポスタービジュアル (C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・東映 (C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・2024 映画【推しの子】製作委員会
●最終16巻の描き下ろしに不満があったからこそ
『【推しの子】』の原作マンガの最終回は、その結末そのもののみならず、「駆け足な印象」や「あるキャラクターのモノローグで語りかける演出」も含めて、批判的な意見が多く出ていました。それぞれに不満があった方が、今回の映画ですべてが納得できる……とは正直思えないものの、個人的には「そうきたか」「そっちか」「なるほど」「これはこれで」と、良い終わり方だった、と納得できるものです。
その理由は、マンガの最終16巻の描き下ろしのおまけ(24ページの描き下ろし追加エピソード)に、個人的に大きく失望したことにもあります。明確には書かないでおきますが、内容は連載時の最終回の触れ込みにあった「【とある真相】が明らかになる」という情報がほぼ詐欺とさえいえる内容で、作画も「ラフ画」のようなものでした。
何よりの問題点は原作マンガの最終回で感じてしまった「無理やりにでも納得させようとしている」ような居心地の悪さを、さらに強化してしまっていると感じたところです。
送り手側が受け手の気持ちを代弁しているようで、実際は自己完結して聞こえの良い言葉でごまかしているような、不誠実ささえ感じてしまった最終16巻のおまけに比べれば、今回の映画での改変は、なるほど主人公「星野アクア」が「こういう改変で」「こういう言動をする」ことに必然性を感じました。
それでも、今回の映画での結末でも不満に思う人が一定数いることは想像できます。とあるキャラクターの決着はちゃんとついていないのではないか、この描写は最低限はいるだろう、その展開は物理的にちょっと無理がないか、といった詰めが甘いと思ってしまった部分もありましたし、結末そのものが気に入らない人もいるでしょう。
それでも、ドラマおよび映画は、スタッフおよびキャストが『【推しの子】』という作品に、さらには実写化というアプローチにも、アイドルという題材にも、真摯に向き合ったことが分かる作品でした。制作が決定しているアニメの第3期以降も、どう完結するか含め楽しみに待ちたいと思います。
(ヒナタカ)
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