『ファイブスター物語』のマンガ史に刻まれる大事件 それでも離れぬファンの心理とは
マグミクス / 2024年12月22日 20時25分
■単行本よりも設定資料集のほうが多いってマジ? ←本当です
「休載をものともしないファン」という点で、『ファイブスター物語』は特異といえるでしょう。
1986年から2024年現在に至るまで、緻密な設定と壮大な物語を紡いできた『ファイブスター物語』は、数千年、数万年にも及ぶ「ジョーカー太陽星団」の歴史年表をもとに、究極の人型戦闘兵器「モーターヘッド」とそのパイロットである超人「ヘッドライナー」、モーターヘッドの操縦をサポートする人工生命体「ファティマ」たちの戦いの歴史が描かれた「何でもあり」の超大作です。
特に注目されるのはメカデザインです。1冊4000円や5000円もする設定資料集が数多く刊行され、ガレージキットやプラモデルは多くのモデラーを魅了しました。連載ではほんの数ページ、数コマしか出番のないモーターヘッドが複数の造形師の手で立体化され、デザインの解釈を比較できるほどです。
●9年間の休載と設定改変
そのような『ファイブスター物語』38年にも及ぶ歴史のなかには、ファンが大ショックを受けた事件がありました。それが長期休載明けに起きた設定変更です。
もともと『ファイブスター物語』は休載の多い作品でしたが、休載期間中も掲載誌「月刊二ュータイプ」上で特集が組まれるなどして、読者と一定の距離感が保たれていました。休載期間も数か月程度から1年程度だったと記憶しています。
しかし2004年12月号から始まった長期休載は特別でした。なんと連載が再開したのは2013年5月号です。さすがに作品から離れてしまったファンもいましたが、多くの読者が期待に胸を膨らませてページをめくったところ……。
●なんだこれは!?
そこにあったメカは、これまでに慣れ親しんだモーターヘッドではありませんでした。デザインが一新され、しかもまったく異なる名称に変わっていたのです。さらには作中の巨大ロボットの総称である「モーターヘッド」という名称すら「ゴティックメード」と変更され、基本的なメカニックの構造が変化していました。シルエット自体が完全に別物です。9年間の休載が明けたと思ったら、作品世界の根幹が変わっていたのです。
これを「ガンダム」で例えるなら、突然「アムロ」の愛機がガンダムとしての立ち位置はそのままに「ダンバイン」や「キングゲイナー」に変わってしまったようなものです。モビルスーツは最初から存在しなかったことになり、それはもはや『機動戦士ガンダム』とはいえないでしょう。
作者の永野護先生は人気がまったく衰えていないのにもかかわらず、それまでに作った大量のメカデザインをすべて捨て去りました。ここまで作品が変わってしまったらさすがについていけない、というのが普通の感覚だと思われます。
しかし依然として『ファイブスター物語』を支持するファンは多く、その熱は衰えません。2024年に埼玉や名古屋で行われた「DESINGS 永野護デザイン展」は、2025年に大阪と福岡でも開催が予定されており、新刊も準備中です。
作者がここまで自由に活動しても支持されるというのは異例で、アーティストに対するファン心理に近いものがあるように思えます。筆者の知る限り読者とこのような関係性を築くに至った作家は、永野護先生を除いて皆無です。
読者にとって「ずっと活動の楽しみな作家がいる」というのは幸せなことなのでしょう。あなたにもそのような作家がひとりくらいはいませんか?
(レトロ@長谷部 耕平)
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