10円が宝物だった懐かしき「駄菓子屋」 ガンダムシールを買う?フィリックスガム?
マグミクス / 2020年5月9日 8時10分
■10円の使い道を真剣に考えた
30年以上前には町のあちらこちらに存在した駄菓子屋は、いまやあまり目にすることはありません。ほんの数坪の小さな店内にはお菓子やおもちゃがずらりと並び、わずかな小遣いで何を買おうか、子供たちを真剣に悩ませたものです。社会での生き方の第一歩を学ぶ場であった子供たちの社交場、駄菓子屋を、ライターの早川清一朗さんが回想します。
* * *
今、財布の中に入っている10円玉を数えることはありません。しかし40年近く前には、ちょっとしたお手伝いでもらえた数枚の10円玉は、まさに宝物でした。10円でフィリックスガムを買おうか、20円で『ガンダム』のシールを買おうか、それとも30円でベビースターラーメンを食べようか、真剣に悩んだ日のことを、ふとしたときに思い出します。
思えば駄菓子屋での日々が、買い物の仕方や我慢といった、社会に出ていくための基礎の基礎を、教えてくれた気がします。目の前にどれだけ欲しいものがあったとしても、お金がなければ手に入れられないのです。
お金がない。でもあれが欲しい、これが欲しい。どうしよう、お母さんに小遣いをねだろうか。お手伝いをしてお駄賃をもらおうか。空き瓶を拾ってきて公園の水道で洗って、酒屋さんに持っていこうか。知恵を絞って頑張って、どうにか手に入れた数十円のお金を握りしめて駆け込んだ駄菓子屋で、ベビースターラーメンとガンダムのシール2枚を買ったときの高揚した気分は今も忘れられません。もう、その駄菓子屋はずいぶん前に駐車場になってしまいましたが、今でもその前を通ると、あのころの思い出が鮮明によみがえってきます。
スーパーボールのくじ、アイドルのプロマイド、爆竹、銀玉鉄砲、シール、ベーゴマ、めんこ、くじ付きガム、モロッコヨーグル、すもも漬け、さくら大根。店の隅や、前に置かれていたインベーダーやパックマンの筐体にしがみつくようにして夢中でレバーを操り、友達と無邪気にはしゃいでいたあの空間の記憶は、普段思い返すことはなくとも、ふとしたきっかけであふれ出る、宝石のような思い出となっているのではないでしょうか。
■昭和時代に黄金時代を迎えた駄菓子屋
明治時代から販売されていたという森永のミルクキャラメル
そんな駄菓子屋ですが、発祥は江戸時代だと言われています。
1800年ごろに日本で本格的な砂糖の生産が始まり、砂糖菓子が一般的な存在となりました。このとき白砂糖で作られた菓子が「上菓子」とされ、黒砂糖で作られた安価な菓子が「駄菓子」とされていました。代表的な駄菓子としては、ひえ・あわ、麦、クズ米などを飴や黒砂糖で固めて作った「おこし」や、カルメ焼きが楽しまれていたようです。
明治時代になると、子供用のおもちゃも扱う駄菓子屋が登場するようになります。その他にもうちわ等のちょっとした日用品も売られており、雑貨店としての性格も持っていたようです。今も代表的なお菓子として親しまれている森永のミルクキャラメルは1899年(明治32年)ごろから販売されており、当初は1粒5厘でバラ売りされていました。
その後、駄菓子の種類はどんどん増えてきますが、1941年(昭和16年)の太平洋戦争勃発による物資不足で駄菓子の生産は中断。1949年(昭和24年)になり、ようやく物資の統制が解除され、第一次ベビーブームの流れに乗り、駄菓子屋は一気にその数を増やしていくことになります。
ナマイ商店の棒きなこ飴や明光製菓のこざくら餅、カクダイ製菓のクッピーラムネ、松尾製菓のチロルチョコ、やおきんのうまい棒などのヒット商品が次々に登場し、ゲーム筐体なども置いて時代に対応して子供たちの居場所でありつづけた駄菓子屋ですが、昭和末期以降はさまざまな逆風にさらされます。特に大きなダメージとなったのは、1989年(昭和63)年に導入された消費税です。一つ一つの品物が安く、薄利多売の商売を行なっていた駄菓子屋にとってこの負担は致命的で、多くが閉店を余儀なくされます。
その後も少子化や大店舗での駄菓子取り扱いの開始、さらなる消費税率アップなどの要因により、もはや駄菓子屋は希少な存在と成り果ててしまいました。
日暮里にあった問屋街も再開発により消滅し、すでに残る問屋は1軒のみ。
それでも、細々と頑張ってくれている駄菓子屋はまだ存在しています。筆者の家の近所にも、縄張りこそ違いますがずっと続いている駄菓子屋が1軒だけ残っているので、たまに散歩がてら見に行くと、大抵は子供たちが店の前に自転車を止めて、和気あいあいと楽しそうにしています。そういう光景を見ていると、自分も店に入りたくなりますが、駄菓子屋は子供たちの社交場。大人が立ち入る場所ではないと、自分に言い聞かせています。残念ながらこのコロナ禍で一時閉店してしまっているようですが、いつかまた店を開いてくれる日を心より望んでいます。何か助けられる方法があるといいのですが。
(ライター 早川清一朗)
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