『Zガンダム』勝者のエゥーゴが瞬時に消滅したのはなぜ? 連邦視点で見ると面白い「宇宙世紀」
マグミクス / 2025年1月9日 7時10分
■勝利者にも関わらず、勝利後すぐに消滅した「エゥーゴ」
「宇宙世紀」を描いた「ガンダム」シリーズには、さまざまな勢力が登場します。そのなかでも、「エゥーゴ」は『機動戦士Zガンダム』『機動戦士ガンダムZZ』の主人公側陣営であり、かつ勝利者にも関わらず、宇宙世紀0089年1月17日の第一次ネオ・ジオン抗争への勝利後すぐに消滅します。
エゥーゴの中心人物であった「ブライト・ノア」や、「アムロ・レイ」は、宇宙世紀0090年3月21日に反地球連邦政府活動の取り締まりを目的とした、地球連邦軍の外郭新興部隊「ロンド・ベル」に参加しています。
エゥーゴとは「反地球連邦組織」の略称であり「地球の保全とアースノイドとスペースノイドの共存」を理想として結成され、連邦軍、ジオン軍の穏健派が参加した軍事組織です。そして勝利したにも関わらず、主要メンバーは連邦軍となり、皮肉にも「反地球連邦政府活動の取り締まり」を行うことになったわけです。
エゥーゴはジオン残党狩りを目的に誕生した「ティターンズ」や、ジオン残党である「ネオ・ジオン」を打倒し、狂信的なアースノイドとスペースノイド、双方の力を削いだわけですから、理想である「地球の保全とアースノイドとスペースノイドの共存」を実現する好機とも考えられますが、政治的主導権を握ることなく消滅したことになります。
なぜ、エゥーゴは消滅したのでしょうか。エゥーゴなどのメンバーが参加して結成されたロンド・ベル隊により理想を継承できたのかと言えば、むしろ政府に冷遇されています。ガンダムタイプの高性能モビルスーツはなかなか配備されず、結成直後の宇宙世紀0090年にはジオン残党に敗北して、司令のブライトが責任を問われる程度にしか戦力を持たされていませんでした。
それは『機動戦士Zガンダム』以前の「ニュータイプを敵視して監視し、反地球連邦勢力を取り締まる」連邦と大差ない姿勢で、スペースノイドの取り締まり組織が「ティターンズ」から「ロンド・ベル」に変わっただけと見ることもできます。
このような政治的状況になるには、理由があると考えられます。『機動戦士ガンダム』一年戦争からの政治的状況を、地球連邦政府側の視点で見ていくと答えが出ると感じますので、考察と解説をしていきましょう。
■ティターンズは消滅したが、エゥーゴも大打撃を受ける
Zガンダムを盗もうとしたことがきっかけでエゥーゴに参加することになる、『ZZ』の主人公・ジャンク屋の少年「ジュドー」。画像は『機動戦士ガンダムZZ』DVD第3巻(バンダイナムコフィルムワークス)
一年戦争は「総人口の半数を死に至らしめた」最悪の戦争です。そしてそのような戦争を仕掛けたジオン軍事力の多くが「ジオン残党」として残っている状況でした。一年戦争のコロニー落としや地球上での戦闘で、地球上の生活環境が破壊され、多くの難民が発生し、大規模環境破壊が発生したことは確実です。
一年戦争の大義名分として「一部の地球居住者が特権階級となるために、連邦政府は宇宙移民を停止した」ことも掲げられましたから、連邦政府としては「スペースコロニーを再建し、地球居住者の大半をサイドに移住させ、批判を抑えるとともに難民対策とする」が対策と考え、コロニーを再建したと考えられます。もちろん連邦軍と結びついた政治家は「そんな対策は手ぬるい。ジオン残党を徹底的に撃滅すれば、戦乱は収まる」として、コロニー再建と相反する軍事力増強を主張したでしょう。
結果として、多額の費用がかかるコロニー再建と軍事力増強の双方が進められた結果、少数の軍事力でも成果を上げられる「核兵器搭載ガンダム」の開発も行われたのだと考えられます。これは「戦時条約である南極条約はジオン降伏で消滅したから、ジオン残党は核兵器使用やコロニー落としをしてくる」と考えてのことでしょうし、実際『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』では、ガンダム試作2号機が奪取されたからとはいえ、実際にそのような結果となったわけです。
事故とされた北米へのコロニー落としですが、連邦政府や連邦軍人で有力議員である「ジャミトフ・ハイマン」らは真実を知っているわけですから「軍事力増強によるジオン弾圧」の方向に進むしかありません。それがジオン狩り特殊部隊「ティターンズ」の結成でしょう。
先述したように、甚大な戦争被害からの回復とコロニー再建の最中に、大規模な軍事力増強は無理と考えられます。ティターンズもかなり制限された予算で成果を上げるしかなく、それを可能とするために兵力ではなく、強力な権限と特権を与えられたのでしょう。その結果、ティターンズは示威行動を重視し、民間人虐殺を行います。
それが「弾圧では解決しない。アースノイドとスペースノイドは共存できる。地球環境を保全しつつ、宇宙移民を進めるべきだ」と考える、従来路線の巻き返しを可能とし、「ブレックス・フォーラ」准将がエゥーゴを結成。そこに穏健派のジオン残党も加わったのでしょう。エゥーゴはティターンズと内戦し、さらにネオ・ジオンとの戦いにも勝利しますが、これはつまり「地球連邦の政策の前提が破壊された」とも見ることができます。
乏しい予算をやりくりしながら進めた「軍事力を増強してのジオン弾圧路線」は、その中核となるティターンズが消滅し、エゥーゴも大打撃を受け、実行困難となりました。地球連邦政府としては「勝利したエゥーゴもネオ・ジオンによる連邦議会制圧やダブリンへのコロニー落としを防げなかった。もはや軍事力でのジオン残党打倒は困難であり、融和政策しかない」として、ネオ・ジオンへのサイド3譲渡を図ったのでしょう。ところがネオ・ジオンが分裂、内戦して自壊してしまい、「ジオン・ズム・ダイクン」の遺児を宣言した「シャア・アズナブル」は行方不明。エゥーゴが消滅したのはこうした情勢下です。
一年戦争から9年しか経っていないのに、北米とダブリンにコロニーが落ち、再建した軍事力も壊滅。軍の秩序は民間人である「ジュドー・アーシタ」が、エゥーゴの最高機密兵器「ZZガンダム」を持って木星に向かえるほど、乱れていました。ジュドーは『ZZ』冒頭で「Zガンダム」を盗んで売ろうとしていますが、これはつまり「少年でも兵器を売る当てがある」という描写ですから、連邦軍の軍紀は乱れ切っていたと言えます。
強硬派の連邦軍人はティターンズの壊滅と、ネオ・ジオンの連邦議会制圧&コロニー落とし成功で発言力を失い、地球と宇宙の融和を説いたブレックスの融和的な路線も、ネオ・ジオンの自壊により「交渉すべき政府がなくなった」ことで頓挫したのでしょう。つまりシャアはこの時点で「ネオ・ジオンを再建すれば、ハマーン・カーンが連邦に認めさせたサイド3譲渡などの条約が継続できる」と考えて、ネオ・ジオン総統になろうとしたとも考えられます(そして、ハマーンの結んだ条約が継承されないなどの問題が起こり、シャアは連邦政府への不信感をより強めていくのでしょう)。
この時、ジャミトフ、ブレックスといった「政治力のある軍人」はすでに死亡しており、政治に興味がないブライトたちが連邦軍を立て直すしかない。それが「ロンド・ベル隊」ですから「エゥーゴは解散。世間にはティターンズとは違う穏健路線をアピールし、軍事力も最小限しか持たない」という劇中描写になることは自然だと思えます。軍事力でできるだけ解決しないという政府の政治的意志表示が「軍事力の象徴であるガンダムタイプを配備しません。既存のガンダムも封印します」なのでしょう。
そして世論は「戦争などもうやめてくれ。連邦軍にはジオン残党の打倒など無理だし、スペースノイドの権利を認めて、軍備縮小を」だったに違いありません。
『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』で、連邦政府はシャアの降伏に騙されて、地球にアクシズを落とされそうになりますが「軍事力での解決は経済的にも、世論としても無理で、何とか融和路線で解決したい」が交渉の前提にあるのであれば、政府が無能とは言い切れません。
地球連邦政府からの視点で見ると、また作品が違って見えるのが、宇宙世紀の面白いところです。「グレミーの反乱」がきっかけの「ハマーン」戦死は、エゥーゴ消滅など、後の歴史に大きな影響を与えていたのかもしれません。
(安藤昌季)
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