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『仮面ライダー』ショッカーの正体は日本政府←ウソです なぜ誤情報が広まったのか

マグミクス / 2025年1月19日 9時5分

『仮面ライダー』ショッカーの正体は日本政府←ウソです なぜ誤情報が広まったのか

■歴代の秘密結社のなかでも抜群の知名度を誇る「ショッカー」

『仮面ライダー』の敵組織「ショッカー」は、数ある「秘密結社」のなかでも抜群の知名度を誇る組織です。その知名度ゆえに、とある誤情報がネットなどで拡散されていました。

 ショッカーといえば世界征服をたくらむ秘密結社で、動植物の能力を持った「改造人間」を先兵として使う組織です。「仮面ライダー」もまたショッカーによって改造されましたが、脳改造前に脱出に成功しました。そのため、仮面ライダーは人類の自由と平和を守るためにショッカーと戦います。

 こういった説明を語らなくても、「知っている」という人も多いことでしょう。その名前は仮面ライダーと対を成す存在といっても過言ではありません。この知名度の高さゆえ「仮面ライダー」シリーズに詳しくない人のなかには、いまだに仮面ライダーの敵を適当にいう際にショッカーと呼ぶ人もいます。

 制作側である東映もショッカーの知名度を利用していました。平成になってからの作品のなかだけでも、「大ショッカー」(『仮面ライダーディケイド』)、「スーパーショッカー」(『仮面ライダー×仮面ライダー W&ディケイド MOVIE大戦2010』)、「スペースショッカー」(『仮面ライダー×スーパー戦隊×宇宙刑事 スーパーヒーロー大戦Z』)などの組織が登場しています。

 これらは数々の悪の組織の集合体でした。それでもショッカーという名前を踏襲しているのは、やはり悪の組織といえばショッカーと考えたからなのでしょう。時には後続の組織「ゲルショッカー」や「デストロン」の怪人や幹部たちが、そのネームバリューゆえショッカー所属になっていたこともありました。

 こうしたことからも、前述したように、ショッカーという名前は仮面ライダーに匹敵する存在だといえるでしょう。興味のない人でも、その名前は聞いたことがある……そう思えるほどメジャーな名称です。

 しかし、このショッカーに関して誤解している人も少なくありません。特撮に詳しい人のなかでも、「ショッカーの正体は日本政府である」と言い出す人がいるのです。先に答えをいうと、これは間違いです。

 それでは、どうしてこんな話が広まったのでしょうか。実は原作者である石ノ森章太郎先生の描いた『仮面ライダー』の「萬画版」に、その答えがあります。

 萬画版『仮面ライダー』は「週刊ぼくらマガジン」(講談社)で連載を開始し、後に「週刊少年マガジン」(講談社)へ掲載誌を変更しました。その点では、純粋な子供向けだったTV特撮版とはおもむきが少々異なり、社会風刺を交えた一般にも訴求力のあるストーリーを展開しています。

 その最終決戦が「一文字隼人」の変身した仮面ライダーと、「10月計画(オクトーバープロジェクト)」と呼ばれる作戦を遂行していた「ビッグマシン」との戦いでした。この戦いのなかでビッグマシンがいったセリフが誤解を生む元となったのです。

■実は風評被害を受けていたのはショッカーだった

「S.H.Figuarts ショッカー戦闘員(骨)」(BANDAI SPIRITS) (C)石森プロ・東映

 10月計画とは、通常の10分の1の価格で10倍の性能を持つ電化製品を売り、そこから発生させた命令電波で人々をコントロールしようというものです。

 そしてビッグマシンは、「・・・・この計画はもともとおまえたちの政府がはじめたものだよ!」と仮面ライダーに暴露します。日本政府は国民の全てを番号で管理する「コード制」を計画しており、これをショッカーが自分たちの都合のいいように利用しただけなのですが、ビッグマシンの言い回しもあってか、この部分をもって「ショッカーは日本政府」という誤解が生まれたと見られます。

 誤解した人の立場に立って考えれば、萬画版『仮面ライダー』を見た子供時代なら理解できなくて当然だったかもしれません。「日本政府とショッカーはグルだった」と思い違いをしたまま、大人になった時におぼろげな記憶で思い出したのでしょう。誰もがしてしまうだろう過ちです。

 問題は、その過ちのまま情報を拡散することでしょう。SNSが普及した近年では、誤りのまま情報が拡散することは多々あります。こういった現代ならではのデマが拡散しやすい状況が、誤情報を信じ込ませる土壌なのでしょう。

 もちろんそれだけでない要因もありました。1990年代末くらいに出版された書籍で「ショッカーの黒幕は日本政府」と記載されたものがいくつか発行されています。マンガやアニメの豆知識本が乱発された時期でした。当時はインターネットより、こういった書籍で誤情報が拡散した時期でもありました。

 私もこういった書籍を執筆したことがあり、出版社によっては版元の監修を受けず、すべて執筆者の自己判断で情報を精査させます。そういった編集方針が、気付かないまま誤情報を拡散したのでしょう。

 単純に萬画版『仮面ライダー』を読めば理解できる話でも、記憶だけなら誤ったままというわけです。それに加え、近年ならではの誤情報拡散の原因も別にあるかもしれません。これに関して考察してみましょう。

 もともとビッグマシンのセリフにあった日本政府の案は、フィクションではなく現実にありました。それが1970年に研究を開始した「省庁統一個人コード」です。この時、翌年の1971年末までには全国民にこれを付与する予定でした。もっとも議論は途中で立ち消えとなります。

 このことを風刺したのが石ノ森先生でした。萬画版が発表されたのは、ちょうど1971年末です。そして、この制度が名前を変えて実施されたことを後に私たちは知ることとなりました。現在の「マイナンバー」です。

 マイナンバー運用開始以前にもあったのでしょうが、運用開始以降は、ビッグマシンのセリフ切り取りが目立つようになりました。現実にあった出来事だけに、引用されると以前より目立つようになったという方が正しいかもしれません。

 そして、映像と違って目につく機会の少ない萬画版というジャンルが、偽りを本当のように思わせているわけです。何よりもショッカーという組織の知名度を考えると、そのインパクトは絶大といえるでしょう。つまりショッカーにとっては風評被害のようなものかもしれません。

 近年では気軽にネットで情報を入手できますが、うかつに信用すると思わぬ間違いをつかまされることになります。できれば情報は、原典にまでさかのぼって目を通したほうがいいかもしれません。

(加々美利治)

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