ハリウッド実写版『DB』で一番の問題点？ 亀仙人（チョウ・ユンファ）はなぜ「フサフサ」だったのか

■185cmの亀仙人は無理だった？

　2009年に公開された大人気マンガ『ドラゴンボール』（作：鳥山明）のハリウッド実写版映画『DRAGONBALL EVOLUTION』が、お世辞にも褒められた出来ではなかったのは、もはや周知の事実です。大手レビューサイトでは軒並み5点満点で平均1～2点台前半の点数を叩き出しており、脚本のベン・ラムジーさんは2016年に海外サイトでライターのデレック・パデューラさんのインタビューに答え、作品のファンとしてではなく大金に目がくらんで仕事に取り組んでしまったことを告白し、公式に謝罪しました。

　もちろんラムジーさんひとりの責任ではなく、いろんな要素が絡んでこうなってしまったものと思われますが、とにかく公式にメインスタッフのひとりが謝罪しているのはなかなかの事態です。本作が世界中の『ドラゴンボール』ファンの不評を買ってしまったのは、やはり「原作と違いすぎる」ことが大きいでしょう。

「孫悟空（演：ジャスティン・チャットウィン）」がアメリカの高校に通っている18歳、「ヤムチャ（演：ジューン・パーク）」が金髪、「ピッコロ大魔王（演：ジェームズ・マースターズ）」の触覚が短すぎる、「かめはめ波」が心臓マッサージのために使われるなどの違いのほか、インド系のキャストはいないのに挨拶がなぜか「ナマステ」、悟空が上空に向けてかめはめ波を放つと彼の身体も一緒に飛んでいく、など原作を知らない人もおかしいと思ってしまいそうな部分もありました。

　なかでもキャストが並んだパッケージを見ただけで多くの人が戸惑うのは、「『亀仙人』がスキンヘッドじゃない」という点でしょう。背中の甲羅がなくサングラスをかけていないという違いもあり、そもそも演じたチョウ・ユンファさんは公開当時まだ53歳で亀仙人役には若すぎるという意見もありました。

　なぜ実写版の亀仙人は、「髪の毛がフサフサ」だったのでしょうか。チョウさんがスキンヘッド姿NG、ということはないはずで、代表作『グリーン・デスティニー』（2000年）では後ろ髪だけ残して坊主頭になっていましたし、2007年に『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』で中国海賊の長「サオ・フェン」を演じたときは完全に髪を剃っていました。

　チョウさんが亀仙人役に決まった2007年当時のニュースなどを観てみると、このサオ・フェンを引き合いに出している記事も多く、このときはそのままスキンヘッドで亀仙人を演じてくれると思っていた方も多いのではないでしょうか。

　詳細は不明ながら、公開時の劇場パンフレットを見てみると、監督のジェームズ・ウォンさんは「キャラクターの多面性とすばらしい能力を見せられるような、アイコン的存在の役者が必要」と思っていたそうで、世界的スターのチョウさんへオファーを出したのはかなりの「トライ」だったことを語っています。

　彼の実績や人気知名度を考えれば、たしかに亀仙人という大役には合っていると思えますが、パンフレットでは「（いくらメーキャップをしようと）ピープル誌で『世界で最も美しい50人の一人』と評され、ロサンゼルス・タイムズ紙では『世界で最高にクールな俳優』と絶賛さえたスタイル抜群のチョウを、マンガの小柄で年老いた姿に変身させることは不可能だった」「そのため、彼はキャラクターの精神を捉えることに重きを置いた」とも記されていました。

　たしかに、身長185cmのチョウさんが無理に亀仙人のビジュアルに寄せにいくと、逆に違いが際立つ、ということにもなっていたかもしれません。亀仙人ひとりにフォーカスしてもいろいろと厳しい事情があったものと思われますが、原作との違いはさておき「チョウ・ユンファの亀仙人はとってもチャーミング」「本人のやれる範囲で亀仙人テイストを踏襲してて圧倒的に演技が上手い」などの意見もあり、チョウさんの演技を本作の美点としてとらえている意見もありました。

　もうすぐ公開から16年となり、チョウさんは2025年5月に70歳になります。少し亀仙人の年齢（初登場時319歳）に近付いた今、原作に寄せたビジュアルで演じるとどうなるのか、気になるところです。
　
コピーライト：(C)2008 Fox,Based on DRAGONBALL series by Akira.Toriyama. DRAGONBALL TM & (C)Bird Studio / Shueisha, Inc.

（マグミクス編集部）