『ガンダム』サイド6って中立国じゃないの？ 騒動の裏側にとんでもない「政治劇」が

■表向きは「中立」、でも登場人物の会話からは…？

『機動戦士ガンダム』で「地球連邦軍」と「ジオン公国軍」は、戦時条約「南極条約」を結んでいます。主な内容は「核兵器、生物化学兵器、コロニー・隕石落としなどの禁止」、「サイド6などを中立地帯として保護」「捕虜取り扱い」です。

　劇中で「南極条約違反」はたびたび行われます。例えば『機動戦士ガンダム』第25話では、ジオン軍指揮官のマ・クベが水爆ミサイルで、戦局を逆転しようとします。

　南極条約違反が疑われるなかでも、経緯がわかりにくいものがあります。それが、『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』（以下『0080』）の戦闘です。南極条約は「中立地帯としてサイド6を保護」していますが、同作品ではたびたびサイド6内で連邦軍とジオン軍との戦闘が発生します。

　一方『機動戦士ガンダム』では、サイド6側の検察官であるカムランが、宇宙世紀0079年12月4日に寄港したホワイトベース（以下WB）の武器に封印をし、「封印を破ったら多額の賠償金が発生する。船の修理も戦争協力になるのでできない」と念押ししています。

　サイド6での修理が認められず、領空外で修理するために出港したWBに、ジオン艦隊が戦闘を挑みます。シャアはカムランのパトロール艇を見て「砲撃するな、サイド６のパトロール艇だ。コンスコン隊にも砲撃をやめさせろ。パトロール機を傷付けたら国際問題になるぞ」と命じており、この時点で南極条約が守られていたことは明らかです。

　修理できず、サイド6に戻ったWBですが、サイド６側から「追い出したがっている」とブライト艦長が感じる交渉をされます。

　この戦闘が0079年12月５日なのですが、同年12月13日、ジオン軍部隊はコロニー内への威力偵察を行い、コロニー内地球連邦軍部隊と交戦、バーニィの搭乗するザク改は損傷して、コロニー内に不時着します。

　サイド６内部で戦闘を行ったジオン軍が条約違反なのは明白ですし、迎撃した連邦軍の存在も条約違反ですが、両軍ともに「中立のサイド6に軍隊が」「条約違反」と、驚くような描写はありません。アルが「今日は連邦軍来ていないんだ」と言い、「連邦軍は出ていけ～」と、兵士に抗議していますから、この時点で子どもでも「サイド6内に地球連邦軍がいるのが当然」という認識です。

　アルとバーニィとの会話では「どうして連邦は基地のこと隠しているの」「サイド6と連邦の安全保障条約がまだ正式には締結されていないからさ。今はまだ、連邦の活動に色々制約がある」と話しており、ジオン軍のバーニィも「サイド6は連邦側」という認識です。

　WBを追い出そうとする中立国が「一週間で連邦軍基地を設営し、安全保障条約も締結する合意も発表した。国民も急に来た連邦軍を普通に認識している」とは考えにくいですから、つまり「連邦軍は前からいた」のでしょう。

　第4話で連邦軍のスチュワートが「連邦はリーア（サイド6）軍の支援の形をとる。これ以上コロニー住民の不評を買う気はない」と言い、刑事がクリスを「連邦軍はこのコロニーに駐留する名目で、密かにMSの開発をしていた」と推測・尋問しています。

　つまり対外的には「サイド6にいるのはリーア軍。連邦軍は軍事指導のために来ただけで、中立破りではない。安全保障条約はまだ未締結なので中立」という建前でしょう。

　恐らくサイド6政府は、オデッサでジオンが負けたので「リーア軍強化」として、「民間軍事会社の施設」などの名目で、連邦軍受け入れ態勢を整えたということです。サイド6に「ジム・スナイパーII」など、連邦軍主力艦隊でも見られない新型MSが配備されているのは、偽装のためと、ジオンが中立破りの報復として攻撃してきたさいに、最大の抑止力を持つよう、サイド6政府が新型機配備を要求したと見ることもできます。

　WBの件は「連邦との安全保障条約締結」が大詰めの時期に、有名軍艦がサイド6に来たため、政治的ポーズとして厳正中立を求め「追い出そう」という態度で臨んだのでしょう。

　流れは「WBがジオン艦隊を撃破（5日）」→「６～９日の間に安全保障条約の合意発表」→「ジオンは抗議の意志として、サイド6に軍事介入（10日に戦闘と年表に記載）」→「アレックスを極秘裏にサイド6に搬入（12日）」です。

　サイド6市民は、この動きに「ジオン軍に攻撃される」と危惧を抱き、「連邦軍は出ていけ」と反戦運動を起こし、アルはそれを真似たのでしょう。

　ジオン側は「コロニー内にMS部隊で毒ガスでも撒ける」ことを攻撃で証明し（13日の戦闘）、サイド6が翻意しないので、キリングが核を持ち出した……。ザビ家の意志は「サイド6は敵国として核攻撃」で、新型ガンダム1機の話ではないと想像します。

　「ポケットの中の戦争」の裏で、大きな政治劇があったと想像する次第です。

（安藤昌季）