『プロレススーパースター列伝』なつかしのB・I砲編で描かれた猪木の生きざまと真実
マグミクス / 2020年5月30日 15時10分
![『プロレススーパースター列伝』なつかしのB・I砲編で描かれた猪木の生きざまと真実](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_28850_0-small.jpg)
■実際はアントニオ猪木の濃厚エピソードが満載
金曜夜8時のゴールデンタイムや土曜夕方にプロレス中継が放映されていた「黄金時代」に連載されていたマンガ『プロレススーパースター列伝』(原作:梶原一騎 マンガ:原田久仁信/以下、『列伝』)は、1980年から「週刊少年サンデー」で連載を開始し、コミックス第1巻の「アブドーラ・ザ・ブッチャー」編から第17巻の「リック・フレアー」編までが刊行されました。
それらのなかでも特に人気の高いエピソードが単行本7~8巻に掲載された「なつかしのB・I砲 G馬場とA猪木」編ではないでしょうか。
連載では「ファンクス編」から始まり、数多くのレスラーが登場してきた『列伝」のなかで、「B・I砲」編は日本人レスラーを初めて描いたもので、やはりというか、同作品らしい珠玉の名言のオンパレードとなっています。
ストーリーはもちろん、昭和を代表する名レスラーである「ジャイアント馬場」と「アントニオ猪木」(敬称略)の青年期から若手時代、そしてそれぞれが「日本プロレス」から独立を果たし、「全日」と「新日」を旗揚げし、後に活躍するまでのエピソードが散りばめられています。
しかし、「B・I砲」と銘打っているものの、その内容はほとんどが「猪木寄り」のハナシとなっています。当時、「佐山タイガー」が「新日」のリングに登場していた関係(初代タイガーマスクのデビューは81年・列伝B・I 砲編も同年)や、映画『四角いジャングル』などから続くつながりゆえ、梶原一騎氏とアントニオ猪木がズブズブの関係だったことは想像に難くないのですが、それにしてもジャイアント馬場のエピソードはかなり薄めです。
「全日派」の方からしたら不満の残る内容かもしれませんが、ガチガチの猪木信者だった筆者にとってはかなり心に響く内容……というより、小学校高学年にリアルタイムで体感したこの『列伝』によって、洗脳に近いカタチで、まんまと「猪木原理主義者」なってしまったといっても過言ではありません。
日本からの移民としてブラジルに渡った猪木一家、その当時の苦労話や「プロレスの父、力道山」からのスカウトを受けての「日本プロレス」への入門、ジャイアント馬場との出会いと「新弟子は虫ケラ」といわれる道場での日々、師匠「力道山」の急死、米国武者修行からの「東京プロレス」旗揚げと失敗、「日本プロレス」への復帰から「ダラ幹」(だらけた幹部の略)との軋轢や、「日本プロレスの乗っ取り」を企てたクーデターの首謀者として日本プロレスからの追放と新日本プロレスの旗揚げなど、この『列伝』では数々のエピソードが「梶原節」によってドラマチックかつコク深く描かれています。
■創作・脚色を交えつつ、しっかり描かれた「真実」とは?
『プロレススーパースター列伝』、「なつかしのB・I砲」編を収録した、Kindle版第7巻(グループ・ゼロ)。表紙はジャイアント馬場
そして重ね重ね言いますが、内容はあくまでも「猪木偏重の目線」。修行時代はヒンズースクワット中に力道山から木刀で殴られるのも猪木だけですし、チャンコ番の給仕もひとりでやらされる有様です。劇中の猪木の言葉を借りれば「なんで馬場さんだけが……」と感じる差別待遇を常に受けるのですが、さまざまな面で優遇されたジャイアント馬場と、あくまでもハングリーなアントニオ猪木……という図式が物語の一貫した構図となっています。
それゆえに「くやしかったら強くなること!」や「日本プロレスの温室ぐらしより新団体での冒険のほうがおれの性にあっている!」などの「猪木語録」が心に染みるのですが、そこは「梶原ファンタジー」。すべてが本当かというと、どうやらマユツバな部分も多いようです。
特に、猪木のアメリカ修行時代、プロボクサーのアーチ・ムーアと異種格闘技戦を行ったのは本当は馬場だった、という説を後日、聞いた時のショックは、まさに筆舌に尽くしがたいものでした。また一連の「アントニオ猪木談」も、ほとんどが創作だったということを知った時は、劇中の猪木のごとく「せ…先生ッ なんたる無茶を!」と梶原一騎氏に対して個人的に感じてしまった次第です。
しかし、この「梶原一騎の脚色」があったからこそ、「列伝」は我々に夢を与え、心を熱くしたのも事実です。今にして思えばジャイアント馬場の「王道」とアントニオ猪木の「闘魂」、それぞれにはそれぞれの良さがあり、生き様と哲学、男の美学の違いであることも理解できます。物語の最後にあった「馬場がいたから猪木がある! 猪木がいたから馬場がある!」という言葉こそが、まぎれもない真実なのではないでしょうか。
また、彼らのような真のスーパースターがいたからこそ、現在のプロレスの世界があります。その点に敬意を抱きつつ『プロレススーパースター列伝』、「なつかしのB・I砲! G馬場とA猪木」編を今の時代に読むのも一興ではないでしょうか?
(渡辺まこと)
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