裁かれぬ悪を葬る漫画『ブラックエンジェルズ』が予見した、シャレにならない未来とは
マグミクス / 2020年6月11日 17時40分
■反体制側の「勧善懲悪」を体現?
世の中にはびこる「法で裁けないド外道たち」を闇から闇に葬るハードボイルドなストーリー……今の時代でも時折、理不尽さを感じる事件のニュースを目にすることは少なくありませんが、1981年から1985年まで「週刊少年ジャンプ」で連載された『ブラックエンジェルズ』(作:平松伸二)は、今だからこそ共感する人が多い作品のような気がします。
1975年から1979年まで同じ「週刊少年ジャンプ」で連載された大ヒットマンガ『ドーベルマン刑事』(作:武論尊 画:平松伸二)が警察を舞台にしたストレートな「勧善懲悪」の物語だとしたら、平松伸二氏のオリジナル代表作といえる『ブラックエンジェルズ』は、「悪を倒す」という目的こそ同じものの、いわば「裏家業」の現代版・仕置人的ストーリーです。
主人公の「雪藤洋二」が愛車の自転車のホイールから抜き取った「スポーク」やサドルポストから取り出す「吹き矢」、また刃物のように研がれた「ホイールそのもの」を投げつけるなどして「ド外道ども」を暗殺していくという、(誤解をおそれずに言えば)痛快な内容となっています。
同作の第1話に、まさしく「ド外道中のド外道」といえる悪徳警官が登場するのですが、2016年から「グランドジャンプPREMIUM」で連載開始した平松伸二氏の自伝的作品『そしてボクは外道マンになる』によると、「ドーベルマン刑事が体制側の勧善懲悪ならブラックエンジェルズは反体制側の勧善懲悪を狙った」と述べられています。
その後も、街の名士の息子という立場の通り魔や、卑劣な誘拐犯、凶悪な逃走犯やヤクザと裏でつながる警官など、数多の「ド外道」が登場するのですが、物語の初期はコンセプトのとおり「仕置人」のようなショートエピソードの連続。雪藤の決め台詞である「地獄へおちろ~!」の言葉どおり、悪党どもが闇から闇に葬られていきます。
筆者としてはこの連載初期から、最初の相棒である元刑事の松田鏡二が登場し、雪藤が「黒い天使」になるまでの過去を振り返ったストーリーあたりまでが好きなのですが、「竜牙会」との抗争に突入すると、敵の殺し屋も人間ばなれした怪物的なものにエスカレート。「敵がパワーアップし、主人公もそれに比例するように能力開花」という、「ジャンプ」お得意のパターンにハマっていきます。
■物語は超能力ファンタジーに変化も、見逃せない「先見の明」
1970年代に「週刊少年ジャンプ」でデビューした若き平松伸二氏の自伝的作品『そしてボクは外道マンになる』(集英社)。『ブラックエンジェルズ』執筆時のエピソードも描かれる
また、物語のなかで核兵器による人工地震である「M計画」が遂行された後、舞台は『北斗の拳』や『マッドマックス』のような世紀末世界である「関東破滅地帯」に変化。その後、関西に遷都された新首都で展開される「白い天使」編や「新政府」編では、もはや仕置人的な暗殺者ではなく、空中浮遊能力やサイコキネシスを駆使した超能力者同士の戦いになってしまいます。
とはいえ、『ブラックエンジェルズ』の最後の方のストーリーがまったく荒唐無稽というワケではありません。「すべての国民に認識番号がつけられた国民総背番号制」など、ともすれば今(もしくはこれから)の世の中の仕組みを予見していたのではないだろうか……と思える内容も。作者、平松伸二氏の先見の明を感じさせるものです。
さらに言えば、新政府設立の黎明期に壊滅した関東から逃げ込んだ「妖姫」が語る、「権力ってのは便利なものさ! 世の中のしくみを自分たちの思いどおりにうごかせるからねえ!」というセリフは、あくまで筆者の私見ですが、今ではちょっとシャレにならない響きになっているような気がします。
もちろん、劇中で雪藤自身が「おれたちは今まで法で裁けない悪を殺してきた……だがそれもしょせんは人殺し……正義などとは思っていない!」と語るとおり、いくら「ド外道」であろうとも殺してはならないのが真っ当な人の道。現実とリンクするような事件やショッキングな内容が多い『ブラックエンジェルズ』ですが、あくまでもすべてはマンガの世界の中だからこそ、と思いたいものです。
(渡辺まこと)
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