6月4日は「ムシの日」。脳裏に焼き付く『みなしごハッチ』ほか昆虫アニメ4選
マグミクス / 2020年6月4日 9時10分
■手塚治虫原作のSFアニメ『ミクロイドS』
6月4日は「ムシの日」です。“カマキリ先生”としておなじみの俳優・香川照之さんならずとも、夏が近づくこの季節は、昆虫採集に熱中した少年時代を思い出す人もいるのではないでしょうか。「ムシの日」にちなんで、昆虫をモチーフにしたアニメーション作品を紹介したいと思います。
昆虫好きで有名な漫画家といえば、手塚治虫さんです。本名の手塚治に「虫」を付けてペンネームにするほど、虫たちの不思議な生態に魅了されていました。ひとりの女性が美しく成長していく様子を、蝶の羽化に例えた『人間昆虫記』など、昆虫好きらしいマンガを発表しています。
1973年にNET(現在のテレビ朝日)系列でTV放映された『ミクロイドS』も、昆虫世界への想いがあふれる作品でした。主人公はヤンマ(CV:井上真樹夫)、アゲハ(CV:鈴木弘子)、マメゾウ(CV:曽我町子)の3人。『マジンガーZ』のような巨大ヒーローではなく、昆虫サイズの小さなヒーローたちが大活躍します。
ヤンマはトンボ、アゲハは蝶、マメゾウは甲虫類。それぞれ特徴のある、分かりやすいキャラクターでした。アリが異常進化を遂げたギドロンの放つ改造昆虫軍団と、ヤンマたちは戦います。TVアニメは分かりやすいヒーローものになっていましたが、原作コミックは昆虫の大群が襲来して東京が壊滅してしまうなど、かなりハードな内容です。無料配信中されているTV版第1話を視聴した後は、原作コミックもおすすめします。
※『ミクロイドS』は、東映アニメーションミュージアム公式YouTubeチャンネルで第1話が無料配信されています。
■タツノコプロが放ったトラウマ作『みなしごハッチ』
アニメ『みなしごハッチ』の音楽集、「みんなで歌おう!みなしごハッチ 限定版」 (日本コロムビア)
昆虫が主人公のアニメといえば、多くの人の記憶に残っているのが『昆虫物語みなしごハッチ』でしょう。タツノコプロが制作した『みなしごハッチ』は、フジテレビ系で1970年~1971年に全91話が放映されました。スズメバチに襲撃され、女王バチであるママと生き別れたミツバチの男の子・ハッチ(CV:栗葉子)が主人公です。ママを探して、ハッチが孤独に旅を続けるというロードムービーでした。
多くの人が『みなしごハッチ』を忘れられずにいるのは、子供向けとは思えないほど超シリアスな物語だったからです。ハッチは親切なシマコハナバチのおばさんに拾われて育てられるのですが、おばさんの実の子供たちからは「自分たちと姿が違う」といじめられます。昆虫の世界は、差別や暴力のオンパレードです。
子供時代のトラウマを解消するつもりで、DVD化された『みなしごハッチ』を久しぶりに視聴してみたのですが、さらなるショックを受けました。第24話「海を見たカゲロウ」は強烈なエピソードです。ハッチは「海が見たい」というカゲロウと仲良くなり、一緒に海へ出かけます。ところが、カゲロウの寿命は4~5日のため、途中でダウンしてしまいます。ハッチに支えられ、なんとか海に到着するカゲロウですが、最後に「ハッチ、ありがとう」という言葉を残して寿命が尽きてしまうのです。なんという無常感でしょう。
最終回間近になって、ハッチはようやくママに再会できるものの、そこに至るまでに登場キャラクターたちは次々と亡くなっていきます。演出家チームに、のちに『伝説巨神イデオン』(1980年)をつくる富野由悠季監督がいたことも見逃せません。
■虫ガールが世界を救う?
『風の谷のナウシカ』DVD(ウォルト・ディズニー・ジャパン)
平安時代に書かれた古典文学『堤中納言物語』に登場する「虫めずる姫君」は、虫好きなお姫さまとして有名です。毛虫などを集めて、熱心に育てたそうです。この「虫めずる姫君」を参考にして生まれたのが、宮崎駿監督の人気SFアニメ『風の谷のナウシカ』(1984年)です。
高度な文明が崩壊した後の世界を舞台にした『風の谷のナウシカ』の主人公・ナウシカ(CV:島本須美)も、生き物をかわいがるお姫さまです。人間界の常識に縛られないナウシカは、腐海に棲む恐ろしい巨大生物・巨蟲(オーム)たちとも触れ合い、やがて自然環境回復のヒントを見つけることになるのです。
昆虫は地球の環境に順応し、驚くような生命力を持っています。昆虫たちの生態をよく知ることは、地球全体の生態系を理解することにも結びつきます。環境破壊から地球を救うのは、虫ガールたちなのかもしれません。
■養蜂家に憧れたちばてつやさん
ちばてつや原作アニメ『風のように』サウンドトラック(musica-ef)
最後に紹介するのは、ちばてつやさん原作の上映時間40分の劇場アニメ『風のように』(2016年)です。『あしたのジョー』を連載中だったちばさんが、1969年に少女漫画誌で発表した同名の短編マンガが原作。日本各地を旅して回る養蜂業者を題材にした、ハートウォーミングな物語です。ちばさんは連載の締め切りに追われる生活が嫌になり、自然とともに生きる養蜂家に憧れていたそうです。
クラウドファンディングで制作された『風のように』の完成披露試写には、ちばさんも出席。客席に集まったファンからの質問に、熱心に答える姿がありました。そのなかには「ちば先生の作品に孤児が多いのはなぜ?」というものもありました。
その質問に対し、ちばさんは、敗戦後の旧満洲(現在の中国東北地方)からの引き揚げ船に、親とはぐれてしまった子供たちがいたこと、戦後の上野駅にも戦災孤児たちが大勢いたことを話しました。自分と年齢の近い子供たちが親の保護なしで生きている姿が、ちばさんの脳裏に強く焼き付いたそうです。
ちばさんをはじめとする戦争を体験した世代にとっては、大自然のなかで生きる昆虫も、戦後の焼け野原をサバイバルする子供たちも、同じひとつの生態系に属する生き物同士に感じられたのかもしれません。昆虫の世界から、学ぶことはまだまだたくさんありそうです。
(長野辰次)
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