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特撮『三大怪獣グルメ』を監修の久住昌之さん、「B級グルメ道」の原点にあるものは?

マグミクス / 2020年6月6日 9時10分

特撮『三大怪獣グルメ』を監修の久住昌之さん、「B級グルメ道」の原点にあるものは?

■史上初となる「怪獣グルメ映画」

“飯テロ”ドラマ『孤独のグルメ』(テレビ東京系)の原作者として、おなじみの久住昌之さん。マンガ原作者&エッセイストとして活躍する久住さんが監修&出演した映画『三大怪獣グルメ』が、2020年6月6日(土)より劇場公開されます。

 巨大怪獣イカラ、タッコラ、カニーラが東京に上陸。シーフード怪獣攻撃隊SMATが出撃するものの、大怪獣たちの前になす術もありません。三大怪獣は海へと引き揚げますが、物語ががぜん盛り上がるのはここから。戦闘によって怪獣たちから切り落とされた部位は、食べてみると抜群の美味しさだったのです。怪獣グルメブームが巻き起こります。

 史上かつてない珍グルメ映画を撮ったのは、『日本以外全部沈没』(2006年)や『地球防衛未亡人』(2014年)などの爆笑SF映画をヒットさせてきた、河崎実監督です。キャストは2.5次元俳優として舞台で人気の植田圭輔さん、乃木坂46の吉田綾乃クリスティーさん、『ウルトラマンダイナ』(TBS系)にヒビキ隊長役で出演していた木之元亮さんほか。さらにグルメレポーターの彦摩呂さん、独特なボキャブラリーの持ち主である村西とおる監督らもカメオ出演しています。

■食事をマイペースで楽しむ大人の優雅さ

マンガ『野武士のグルメ』(幻冬舎)

『三大怪獣グルメ』に「監修」としてクレジットされている久住昌之さんの、話題を呼んだ人気マンガを振り返ってみましょう。誰もが知っている代表作は、なんと言っても『孤独のグルメ』です。2012年からテレビ東京系でドラマ化され、井之頭五郎役の松重豊さんの気持ちのいい食べっぷりで人気に火が点きました。

 谷口ジローさんが作画を担当した原作コミックは、1994年~1996年に雑誌連載され、知る人ぞ知る的なカルト人気を誇りました。行列のできる名店ではなく、井之頭五郎はたまたま町で見かけた雰囲気のよさげなお店に入り、遅めのランチをマイペースで楽しむという大人の優雅さが『孤独なグルメ』にはあります。2017年に亡くなられた谷口ジローさんの格調ある筆遣いが素晴らしい、原作コミックもぜひ一度読んでみてください。

 Netflixで配信中のグルメドラマ『野武士のグルメ』は、『孤独のグルメ』のアナザーバージョンと称したい作品です。長年勤めた会社を定年退職した武(竹中直人)は定食屋で昼ビールを頼むかどうかで悩む……という、ささやかな葛藤の物語です。

 井之頭五郎と違って、武はお酒を飲みますし、味もサービスも最悪なお店に遭遇してしまうこともあります。TV版『孤独なグルメ』はロケ協力店をディスることはないので、同じ久住さん原作ドラマでも『野武士のグルメ』はひと味違ったテイストが楽しめます。

■笑撃的だったデビュー作『かっこいいスキヤキ』

マンガ『かっこいいスキヤキ』Kindle版(扶桑社)

 久住昌之さんのB級グルメ漫画の原点と呼べるのは、泉昌之(作画担当の泉晴紀さんとのコンビ名)名義でのデビュー作『かっこいいスキヤキ』です。青林堂から1983年に出版されたこのギャグ短編集は、まさに笑撃的でした。

 オープニングを飾ったのは『夜汽車』です。トレンチコートを着た、渋い大人の男性が夜行列車の一席で、ただ駅弁を食べるだけの物語です。男性が買ったのは、サバの塩焼きやカツフライの入った「幕の内弁当」。おかずとご飯をどう配分すれば、ダイナミックかつドラマチックな食べ方ができるか。男性は自問自答しながら、お箸を進めるというハードボイルドタッチの駅弁ストーリーです。オチも絶妙でした。

 さらなるインパクトを与えたのは、すき焼きの思い出を描いた『最後の晩餐』です。主人公は大学の体育会系サークルの打ち上げで、すき焼きを囲むことになります。楽しいはずのすき焼きパーティーが、同じテーブルに就くライバルたちと壮絶な心理戦が繰り広げられるサバイバルの場となります。まるですき焼き鍋が野戦場のように思えてくる、壮大なスケール感がありました。「食事はひとりで、ゆっくりと楽しみたい」という、井之頭五郎の若き日の姿ではないのかと、深読みしたくなる面白さがあります。

■ネット情報に左右されない「自分だけの世界」

人類は三大怪獣を「海鮮丼」にする計画を立てる。映画『三大怪獣グルメ』より

 カツ丼の大盛りがメニューになければ、カツ丼を2丁頼めばいいという『豪快さんだっ!』や、卵かけご飯やお茶漬けをこよなく愛する人妻を主人公にした『花のズボラ飯』でも、久住さんならではのB級グルメ道が開示されています。グルメ本やネット情報に左右されることなく、自分の好きなものを自己流で徹底的に楽しむという、こだわりが感じられます。

 そんな久住さんが出演もしている『三大怪獣グルメ』ですが、映画は後半に意外な展開を迎えます。イカラ、タッコラ、カニーラを撃退するために、SMATはオリンピックの開催が予定されている国立競技場へ三大怪獣を誘き出そうとします。国立競技場をどんぶり代わりにして、怪獣たちを海鮮丼にしてしまおうという計画です。なんとも「豪快さんだっ!」な作戦です。

 この予想外の展開は、河崎監督の自主映画時代の8ミリ作品『フウト』(1977年)をベースにしたもの。『フウト』は豆腐が巨大化した怪獣を後楽園球場で鍋料理にしてしまおうというギャグ映画でした。『三大怪獣グルメ』は、河崎監督自身のリブート作と言えそうです。

 河崎監督も久住さんも、どちらも1958年生まれ。河崎監督は「バカ映画の巨匠」として、久住さんはマンガ原作者として、笑いを振りまきながら同時代を生きてきた仲です。ちなみに、おふたりのタッグ作は、1991年に深夜放映された安岡力也さん主演ドラマ『豪快さん 嵐のカツ丼』(関西テレビ)以来。怪獣映画とB級グルメのブレンドという、かつてない珍味をぜひ堪能してみてください。

●『三大怪獣グルメ』 6月6日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開

監督・特技監督/河崎実 監修/久住昌之 脚本/右田昌万、河崎実
主題歌/キュウソネコカミ「おいしい怪獣」
出演/植田圭介、吉田綾乃クリスティー(乃木坂46)、安里勇哉(TOKYO流星群)、横井翔二郎、木之元亮ほか
配給/パル企画 
(C)2020「三大怪獣グルメ」製作委員会

(長野辰次)

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