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無名の“宮崎駿”がブレイクした瞬間 『未来少年コナン』で見せた「天才」ぶり

マグミクス / 2020年6月12日 12時10分

無名の“宮崎駿”がブレイクした瞬間 『未来少年コナン』で見せた「天才」ぶり

■「宮崎駿」の名前は、まだ無印状態だった

「西暦2008年7月、人類は絶滅の危機に直面した。核兵器をはるかにこえる超磁力兵器が、世界の半分を一瞬にして消滅させてしまった」。

 そんなシリアスなナレーションで始まった、SFアニメ『未来少年コナン』。最終戦争から20年後の荒廃した世界を舞台にした、野生児コナンの冒険物語です。放送時37歳だった宮崎駿氏が、シリーズ全26話の演出を手掛けており、実質的な監督デビュー作として知られています。2020年5月3日より、毎週日曜の深夜にNHK総合で再放送中です。

 NHK総合で『未来少年コナン』が初放映されたのは、1978年4月~10月。当時はまだ「宮崎駿」の名前は、一般の視聴者には知られていませんでした。『ルパン三世』第1シリーズや『侍ジャイアンツ』(ともに日本テレビ系)のキャラクターデザインを担当した作画監督・大塚康生氏の描く、洗練されていながらも親しみを感じさせるルックスのキャラクターたちが出ていたことから、気になってチャンネルを合わせていた子供たちが多かったように思います。

 NHK初のTVアニメということで注目を集めた『未来少年コナン』ですが、1978年はスティーブン・スピルバーグ監督の『未知との遭遇』(1977年)やジョージ・ルーカス監督の『スター・ウォーズ』(1977年)といった本格的なSF映画が日本で劇場公開された年でした。巨大UFOやライトセーバーでの戦いが描かれたハリウッド超大作に比べると、『未来少年コナン』はかなり地味な作品に感じられました。

■第7~8話は前半戦の山場

 今でこそ、暗い未来社会を題材にした「ディストピアもの」はSF映画の人気ジャンルとなっていますが、1970年代の日本の子供たちにはなじみの薄い世界でした。原作としてクレジットされていた米国の作家アレグザンダー・ケイの小説『残された人びと』も、まるで聞いたことのない題名でした。

『未来少年コナン』は面白いのか、つまらないのか。判断を下すのに迷っていた当時の子供たちの目を釘付けにしたのが、第6話「ダイスの反乱」です。太陽エネルギーの秘密の鍵を握る少女・ラナ(CV:信澤三恵子)は、科学都市インダストリアの中枢・三角塔に拉致監禁されていました。人間離れした身体能力の持ち主であるコナン(CV:小原乃梨子)は、三角塔を素手でよじ登り、ラナを救出しようとします。太陽エネルギーを独り占めしようとするレプカ(CV:家弓家正)、レプカを嫌うダイス船長(CV:永井一郎)、ラナを命がけで助け出そうとするコナン。三つどもえの争いとなるのです。

 ダイス船長がラナを連れ去り、バラクーダ号でラナが育った島・ハイハーバーを目指す第7話「追跡」、続く第8話「逃亡」は、『未来少年コナン』前半戦の山場といえる人気エピソードです。『未来少年コナン』を未見の人に、「第7話、8話だけでも見てほしい」と思うほどです。

■海の男が、思わず口にした「すごい女の子ッ」

アニメ『未来少年コナン』ビジュアル (C)NIPPON ANIMATION CO.,LTD.

 清楚で、大人しそうに見えるラナですが、海を泳いで助けにきてくれたコナンがピンチに陥り、第8話では驚くような行動力を発揮します。ダイス船長によって縛られていたラナは自分の歯でロープを食いちぎり、上陸艇を操縦し、溺れかかっていたコナンを逆に救出するのです。このとき、ダイス船長の部下である水夫のドンゴロス(CV:神山卓三)は、思わず「すごい女の子ッ」とうなります。

 ラナの活躍はそれだけではありません。レプカの命令を受けたガンボートの砲撃を浴び、上陸艇は沈没。拘束具をはめられていたコナンも、海底に沈んでしまいます。この絶体絶命の危機に、ラナは口移しでコナンに空気を与えるのです。コナンとラナとのファーストキスは、とてもスリリングなシチュエーションでした。

 自己犠牲をいとわないラナの献身さに応え、コナンは火事場のクソ力を発揮。ラナを抱き抱えたコナンは、海底から海面へと勢いよく飛び出し、月が輝く夜空にまで飛翔するのです。ふたりの愛の力が、科学や一般常識を凌駕した瞬間でした。

■天才アニメーターがブレイクした瞬間

 それまでのアニメーションは横の動きが主流だったのに対し、宮崎監督は高低差を生かしたダイナミックな演出で有名になります。第6話でのラナを抱えたコナンが三角塔から飛び降りたシーンに続く、第8話での月に向かってのコナンの飛翔シーンは、宮崎監督の天才ぶりの発露だといえるでしょう。第8話を観た子供たちは、『未来少年コナン』はこれまでにはなかった特別なアニメーションだと気づくことになったのです。

 コナンの飛翔シーンの後も、素晴らしい場面が第8話には待っています。生死のギリギリの境目をくぐり抜けてきたコナンとラナは、浜辺で目を覚まします。コナンと出会え、生きていることを実感できたラナは、愉快そうに笑います。いつもは、ちょっと影のある雰囲気のラナが屈託なく笑う姿は、とても印象的でした。『新世紀エヴァンゲリオン』(テレビ東京系)の第6話「決戦、第3新東京市」のラストシーンと同じくらい、視聴者の胸に残る名シーンではないでしょうか。

『未来少年コナン』の「行き過ぎた科学への警鐘」というメッセージ性は、劇場アニメ『風の谷のナウシカ』(1984年)へと受け継がれ、冒険活劇としての面白さは『天空の城ラピュタ』(1986年)に凝縮されることになります。天才クリエイターには、それまで蓄えていた才能をいっきに開花してみせる、ブレイクする瞬間があります。その瞬間を視聴者がリアルタイムで目撃したのが、『未来少年コナン』の第7~8話だったのではないでしょうか。

※NHK総合では『未来少年コナン』の第1話~6話を一挙再放映します。
2020年6月13日(土)15時5分~16時33分 第1~3話
2020年6月14日(日)15時5分~16時33分 第4~6話

(長野辰次)

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