声優・内海賢二さんを偲ぶ 幼い頃から当たり前のように聞いていた声
マグミクス / 2020年6月13日 8時10分
■幼い頃から当たり前に存在していた声
6月13日は、2013年にがん性腹膜炎のため75歳で亡くなった声優、内海賢二(うつみ・けんじ)さんの命日です。1950年代からラジオドラマなどで声優としての活動を開始し、50年以上アニメや洋画の吹き替え、ナレーターなど第一線で幅広い活躍を続けた声優界の草分け的な人物で、多くの印象的な役を演じました。また経営者としても声優事務所の賢プロダクションを立ち上げ、苦労しながらも後輩たちの活躍の場を広げるために尽力した声優界の功労者でもあります。幼い頃からごく当たり前に内海さんの声に親しんできた、ライターの早川清一朗さんが追悼します。
* * *
1960年代から2010年の間にアニメを見ていた人間ならば、おそらく内海さんのひょうきんさと重厚さを合わせ持つ声が、心のどこかにしまい込まれているはずです。
筆者の心にもたくさんの内海さんの声が刻まれていますが、なかでも特に印象深いのは、『Dr.スランプ アラレちゃん』の則巻千兵衛と『北斗の拳』のラオウのふたりです。ギャグアニメのメインキャラと世紀末覇王という両極端なキャラクターをごく自然に演じておられた内海さんの演技力を、どのように形容すればいいのか分かりませんが、多分子供の頃に気づいていたら「すげえ!」と言っていたと思うので、この一声をもって代えさせていただければと思います。
そして内海さんの記憶はアニメだけにはとどまりません。洋画ではスティーブ・マックイーンやジャック・ニコルソン、ダニー・グローヴァ―など数多くの名優の吹き替えを長く担当されており、少し昔の映画を見れば、簡単に内海さんの声と息吹を聞くことができます。在宅中に洋画をなんとなく見ていると不意にTVから内海さんの声が流れてくることもしばしばで、もう亡くなって7年が経過したという事実をいまひとつ現実のものとして受け入れきれない自分がいます。小さいころから当たり前のように存在していて、今も存在し続けている。それが筆者にとっての内海さんなのです。
■50年にわたる役者生活
『北斗の拳』ラオウ役 画像はムック本『北斗の拳 ラオウ×ぴあ』(ぴあ)
そんな内海さんは、1937年8月26日に福岡県で5人兄弟の末っ子として生まれました。早くに両親を亡くしたため学生時代から住み込みで働くなど苦労を重ねましたが、高校3年生のときにNHK小倉放送局の専属劇団に応募して合格し、役者としての生活をスタートさせます。しかし九州での仕事に行き詰まりを感じた内海さんは1958年に上京し、当時新婚だった先輩の八奈見乗児さんの元に転がり込みます。そして柴田秀勝さんが主演を務めたTVドラマ『熱血カクタス』で役をもらい、東京での役者デビューを果たすのです。そして1963年にTVアニメ『狼少年ケン』の片目のジャック役でアニメ声優としてデビューし、その後50年にわたって第一線で活躍を続けることになります。
私生活では同じく声優で、『ドラえもん』のしずかちゃん(二代目、テレビ朝日版初代)や『サザエさん』の磯野ワカメ(二代目)を代表役に持つ、野村道子さんと結婚しています。内海さんと野村さんは『ドラえもん』などさまざまな作品で共演を果たしており、2009年のTVアニメ『けんぷファー』の次回予告では、夫婦での掛け合いも実現しました。
1984年6月には声優事務所、賢プロダクションを設立。声優としての仕事だけでなく自身と仲間のマネジメントを取り仕切ることになりましたが、それまで役者一本で生きてきた内海さんにとっては負担が大きく、はた目にも憔悴しきった状態になってしまったため、当時他の事務所にいた野村さんが賢プロダクションに移籍し、内海さんの片腕としてプロダクション運営に携わることになります。現在の賢プロダクションは息子である賢太郎さんが代表を務めており、野村さんも相談役として籍を置いています。
また、野沢雅子さんらと共にアニメがビデオ、DVDとして再利用される際の使用料を求める裁判を起こし、見事勝訴しています。声優がより安定した生活ができるよう尽力してくださった、現在の声優界の礎を築いた功労者でもありました。ここに改めてご冥福を祈りたいと思います。
※記事内容の一部を修正しました。
(早川清一朗)
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