日本アニメ人気、理由は「普遍性」なのか?海外展開でぶつかる「政治的正しさ」の問題
マグミクス / 2020年6月25日 19時40分
![日本アニメ人気、理由は「普遍性」なのか?海外展開でぶつかる「政治的正しさ」の問題](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_30376_0-small.jpg)
■まっとうであればあるほど陥りやすい「ポリコレ」の問題
アニメ業界の片隅で生きる著者・おふとん犬が、業界の片隅で拾ったさまざまな話題を取り上げて解説します。今回は、作品の政治的な正しさ、いわゆる「ポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)」の問題について。その厄介さや複雑さを語りつつ、日本アニメの海外人気の要因を探ります。
* * *
「日本のアニメは世界で人気!」というキャッチフレーズには、正しい面と、必ずしもそうとは言えない面があります。
まずは正しい面として、日本アニメの海外売上が年々伸びているという事実があります。製作委員会を組むためにも、海外における自動公衆送信(動画配信)で、ある程度の数字が見込めないことには厳しいという見方が、今は普通でしょう。
必ずしもそうとは言えないというのは、国境を越える普遍的な面白さがあるから世界で人気を得たわけではない、という意味です。そもそも、面白さに普遍性があるという考え方自体、作り手や売り手の希望的観測(?)をかなり含んだものです。
芸術は国境を越えません。
こんな意地の悪いことをわざわざ言うのは、「はじめから世界で勝負できる作品をつくれば、もっと世界中でヒットするはずだ」という、よくある主張に反論したいからです。
この主張、冷静に考えてみれば、「世界でうける作品なら世界でうけるはずだ」という、もっともらしいだけの同語反復にすぎません。ディズニーアニメのように、世界中の誰からも受け入れられる作品というのは事実あるじゃないかと、おっしゃる方がいるかもしれません。そういう方は、ディズニーが作品内容を検討するより先に、大規模な市場の調査や開発、最先端の心理学を踏まえた分析などを、莫大なコストをかけて行っているという事実を無視しています。
ディズニーアニメは面白さどうこうの前に、あらゆる意味で圧倒的な資本力がなければ生み出せないものですし、資本に従う内容にもなっているのです。もちろん、結果として、相対的に多くの人々にうけやすい面を持っていることは事実でしょう。作品を批判したり、作品を見て心動かされる人を冷笑したりしているわけでも、決してありません。『ベイマックス』など、個人的に好きなタイトルはいくつもあります。
私が言いたいのは、残念ながら「国境を越えるのは芸術ではなくお金」だということです。ますますげんなりしてしまった? まっとうな感性です。けれど、まっとうであればあるほど、政治的正しさ、いわゆるポリコレにからめ取られて抜け出せなくなる危険性もあります。私など及びもつかないほど頭が良く、能力も高くて経験豊かな方が、普遍的な面白さの背景となる普遍的な正しさを真面目に追求するあまりバランスを失って、極端かつ攻撃的な考えにとらわれていくのを見たのは、一度だけではありません。
■「正しさ」への忖度とアニメの「自由」
あくまで極端な例ですが、女の子が性的なイタズラをされても笑って受け流しつつ、結婚こそ本当の幸せだと夢見たり、同性愛者が同性愛者というだけでやたらと発情したり、アフリカの黒人が槍を片手にアフリカ象を追いかけ回したりしないのが、政治的に正しい作品です。「さすがに今時これはまずいでしょ」と、誰だって思うはずです。
けれど、もう少し微妙な例になるとどうでしょうか? お母さんが何げなく家族の食卓にご飯を出す場面は? 実際、とあるコンテンツのアメリカ展開を試みた際、「母親が食事を出すシーンは、家庭の仕事は女性がするものという固定観念を助長させる懸念があるので、すべてカットしてもらえないか」という注文をつけられ、頭を抱えたことがあります。
そもそも、政治的に正しい作品があれば、正しくない作品だってあってもいいはずです。それが本来の自由というもので、気に入らない作品があっても、教育や政治的な煽動に利用されるなどよほど目立ったことがない限り、放っておけばいいのです。けれど、なかなかそうもいかないのが世の中の難しいところ。「正しくない」作品を心情的に放っておけない方もたくさんいます。そして、一部にはより極端かつ攻撃的になっていく傾向があるのも事実です。
正しさの普遍性自体、疑った方が良いものです。例えば、中国でアニメを展開する場合、中国共産党による事前検閲が入りますので、開始予定の3か月前に納品するやり方が一般的です。「正しくない」作品は、そこで弾かれてしまうのです。
ところがそこには、権力による圧迫を感じさせないためにあえて正しさを「忖度させる」ような、極めて巧妙な仕組みがあります。他の国での展開にあたってポリコレに「忖度する」時と、ほとんど変わらない印象です。どちらにも同じように忖度しているのであれば、彼らの正しさより自分たちの正しさが優位にあると、どうして簡単に言えるのでしょうか。
思想上の立場を表明するつもりは毛頭ありません。普遍性ではなく金もうけを追求した方がむしろ健全なのかもしれないし、日本のアニメが世界で人気を得たのは、国境を越える面白さなるものとは全く異なる理由があるように思う、ただそれだけです。
むしろ世界に背を向けたガラパゴスな環境、政治的に正しかろうが間違っていようが何でもありの自由さ。そこに日本のアニメ人気の要因があるように思うのですが、いかがでしょうか?
(おふとん犬)
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