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『パンダコパンダ』を観れば気分は爽快? 多幸感あふれる高畑&宮崎コンビの快作

マグミクス / 2020年6月28日 15時20分

『パンダコパンダ』を観れば気分は爽快? 多幸感あふれる高畑&宮崎コンビの快作

■空前のパンダブームに沸いた1972年に公開

 天気がはっきりしない梅雨の季節は、心までブルーになりがちです。そんなジメジメした気分のときに観たいのが、懐かしのアニメーション映画『パンダコパンダ』(1972年)と『パンダコパンダ 雨ふりサーカス』(1973年)です。

 1972年11月は、中国から贈られてきたジャイアントパンダのランランとカンカンが東京の上野動物園でお披露目され、空前のパンダブームに日本中が沸いていました。そんな世相に合わせた形で、同年12月に「東宝チャンピオンまつり」の1本として『パンダコパンダ』は公開されたのです。

 1971年に東映動画(現・東映アニメーション)を辞め、Aプロダクション(後のシンエイ動画)に移って間もない高畑勲監督が演出。原案・脚本・画面設定・原画を、高畑監督とともにAプロに移籍した宮崎駿監督が担当。上映時間わずか34分のなかに、若き日の高畑&宮崎コンビのほとばしる才能が惜しみなく詰め込まれています。

■『となりのトトロ』の原型となった珍獣親子

 主人公となるのは、両親のいない小学生の女の子・ミミ子(CV:杉山佳寿子)。おばあちゃんと一緒に暮らしていますが、おばあちゃんが長崎へ法事で出かけることになり、ミミ子はひとりで留守番します。普通の子ならひとりで留守番なんて怖いはずなのに、ミミ子はいつもとは異なる状況を楽しんでしまうオプティミストです。

 そんなミミ子のいる竹藪に覆われた一軒家を訪ねてきたのが、人間の言葉をしゃべるパパンダ(CV:熊倉一雄)とその息子・パンちゃん(CV:太田淑子)のパンダ親子です。ひとりで留守番をして、初めてのお客さんがパンダ親子なことに、ミミ子は大感激。喜びのあまり逆立ちしながら、「素敵!」とパンダ親子を迎え入れるのでした。

 作画監督を務めたのは、東映動画時代からの盟友・大塚康生氏と小田部羊一氏。宮崎駿監督の大ヒット作『となりのトトロ』(1988年)のルーツとなったパンダ親子のもっさりした造形が、とってもラブリーです。ミミ子ならずとも、頬ずりしたくなってしまいます。おまわりさん役を『ルパン三世』(日本テレビ系)の怪盗・ルパン三世役でおなじみの山田康夫氏が演じるなど、細かい遊び心もいっぱいの作品です。

■ファンタジー要素が強まった『雨ふりサーカス』

「パンダコパンダ&パンダコパンダ雨ふりサーカス」DVD(ブエナ ビスタ ホーム エンターテイメント)

「パンダ、コパンダ、パパンダ♪」と水森亜土さんが歌う主題歌も耳なじみがよく、続編『パンダコパンダ 雨ふりサーカス』が翌年3月に公開されています。前作の分かりやすい面白さはそのままに、その後の宮崎駿監督作品を思わせるファンタジー要素が強まった内容となっています。こちらも、上映時間はわずか38分の作品です。

 ミミ子とパンダ親子が暮らす家に、虎の男の子のトラちゃんが迷い込んできます。トラちゃんと仲良くなったミミ子たちは、街にやってきたサーカス団の興行に招待されることに。ところが、天候が崩れ、街は大雨に見舞われてしまいます。街全体が水没したなか、ミミ子たちはベッドをイカダ代わりにして、トラちゃんたちサーカス団の動物を救出に向かうのでした。

 宮崎駿監督は、現在再放送中のTVアニメ『未来少年コナン』(NHK総合)の第19話「大津波」や、劇場アニメ『崖の上のポニョ』(2008年)でも洪水の様子を非常にリアルに描いてみせました。劇場デビュー作『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)の湖の底から古代都市が出現するシーンも、とても印象的でした。宮崎駿監督作品というと、主人公が空をふわりと浮遊するシーンが思い浮かびますが、日常の風景が雨や水によって大きく変貌するシーンの描写にも非凡さを感じさせます。

■観る人を元気にするアニメーション

 いつも明るく元気なミミ子は、実は両親がいないという設定です。お母さんのいない子パンダのパンちゃんの母親代わりとなり、パンダの親子と疑似家族を構成することになります。ミミ子はパンちゃんに愛情を注ぐことで、親のいない孤独さを穴埋めします。『パンダコパンダ』で父親代わりとなるパパンダに抱きつくシーンの、ミミ子のうれしそうな顔も忘れられません。

 ミミ子とパンダ親子が実の親子以上に仲良くなっていく様子は、『アルプスの少女ハイジ』『赤毛のアン』(共にフジテレビ系)などの「日常アニメ」で知られることになる高畑勲監督の真骨頂だと言えるでしょう。

 宮崎駿監督の長男・宮崎吾朗監督にとっても、『パンダコパンダ』は大切な作品となっています。宮崎駿監督は、まだ幼かった息子たちを喜ばせるために『パンダコパンダ』を考え、作り上げたのです。宮崎家にとって、父と子の楽しい思い出の詰まった作品でもあるようです。

 アニメーションの語源である「animate」には、「命を吹き込む」「元気づける」「励ます」などの意味があります。観る人みんなを元気にするアニメーション、それが『パンダコパンダ』と『パンダコパンダ 雨ふりサーカス』なのではないでしょうか。

(長野辰次)

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