アニメ『日本沈没2020』は家族のサバイバル物語。日常の大切さ・生き方問いかける

■さいとうたかを原作『サバイバル』を思わせる内容

　コロナ禍をはじめとする、さまざまな社会不安が渦巻くなか、注目のアニメーション作品が公開されます。Netflixオリジナルアニメシリーズ『日本沈没2020』です。1973年にSF作家・小松左京氏が発表した小説『日本沈没』をもとに、2020年の日本を舞台にした新感覚の配信アニメ（全10話）となっています。2020年7月9日（木）より配信スタートです。

　同じくNetflixで配信された『DEVILMAN crybaby』（2018年）や、今年1～3月に放映された『映像研には手を出すな！』（NHK総合）が話題を呼んだ鬼才・湯浅政明監督の新作。次のエピソードが気になって、ついつい全10話をいっき見したくなるサスペンスフルな内容となっています。

　かつてない大地震に見舞われ、日本全土が海に沈んでいくという衝撃的なシチュエーションのなか、主人公たちは未来を切り開くために、数々の決断を迫られることになります。

　物語の主人公となるのは、東京で暮らす女子中学生の武藤歩（CV：上田麗奈）、そして歩を長女とする武藤家の人々です。陸上選手の歩は将来のオリンピック日本代表選手を目指し、仲間たちとトラックで汗を流していました。ところが大地震が東京を襲い、街は壊滅状態となってしまいます。

　歩は徒歩で自宅まで辿り着きますが、家族との思い出がいっぱい詰まったマイホームは全壊。スマホもなかなか繋がりません。武藤家はなんとか無事に再会を果たすものの、苦難を極めるのはここ先からだったのです。

　頼りがいのある父・航一郎（CV：てらそままさき）、困難な状況でも明るさを忘れない母・マリ（CV：佐々木優子）、ゲーム好きな小学生の弟・剛（CV：村中知）。武藤家の人々は、「日本は沈みつつある」という未確認情報が飛び交うなか、安全な場所を求めて避難することになります。原作＆実写映画『日本沈没』の持つ衝撃的なパニック展開に加え、さいとうたかを原作のマンガ『サバイバル』的な要素も含んだ内容となっていきます。

■注目の新設定、容赦ない試練に立ち向かう家族の物語

オリンピックを夢見て陸上競技に打ち込む武藤歩。突然の災害で家を失い、家族とともにサバイバルに直面する。『日本沈没2020』より

　小松左京氏による原作や、1973年に実写化された映画『日本沈没』は、「地殻変動の影響で、日本は沈没する」と予言する田所博士と、日本人を海外に避難させる日本政府の「D計画」に協力する青年・小野寺を中心にしたポリティカルな物語でした。

　日本列島が沈んでいく様子が俯瞰して描かれていましたが、アニメ版はごく普通の市民である武藤家の物語となっており、歩たちは自分たちがどのような状況に置かれているのかを知ることができないままです。お風呂に入れないことに不満を覚え、食べる物や飲み水にも困り、不安だらけの夜を過ごさなくてはいけません。

　確かな情報がないなか、歩たちは毎回のように重大な判断を強いられます。その選択が必ずしも正しいとは限りません。悪魔よりも人間のほうが恐ろしことを描いた『DEVILMAN crybaby』の後半戦のように、早くも第2話から容赦ない試練が武藤家に降りかかります。誰が最後まで生き残るのか、まったく予測できないストーリーです。

　注目したいキャラクターは、第3話から登場するカリスマYouTuberのカイト（CV：小野賢章）です。その名のとおり、空から舞い降りてきたカイトは、非常に冷静に状況を分析し、世間的常識に囚われずに、武藤家と行動を共にすることになります。

　クールでイケメンなカイトのほかにも、原作＆実写映画を知っているファンが驚くような意外なキャラクターが、意外なシーンで登場します。こちらも物語上の重大なキーパーソンとなるので、お見逃しなく。湯浅監督作品のちょっとクセのあるキャラクターたちが苦手だった人も、『日本沈没2020』の骨太なドラマ展開に引き込まれ、気にならなくなるのではないでしょうか。

　小説『日本沈没』が大ベストセラーとなった1973年は、東宝が速攻で企画し、森谷司郎監督が撮った実写映画『日本沈没』が12月に封切られ、大ヒットを記録しました。「ゴジラ」シリーズで知られる中野昭慶特撮監督による、富士山の大噴火や首都壊滅シーンも大きな話題を呼びました。

　この1973年の映画『日本沈没』では、主人公の小野寺（藤岡弘、）と恋人の玲子（いしだあゆみ）は離ればなれとなり、別々のルートで日本を脱出することになります。当時は主人公たちが再会を果たさないまま映画が終わったことに不満を覚えたのですが、大人になって再度『日本沈没』を見直すと、「日本人とは何か？」「日本という国土を失っても、日本人でいられるのか？」という深遠なテーマが描かれていたことを理解できるようになりました。日本人が日本という島国にいる限り、あまり気にしていないアイデンティティーを問いかける作品だったのです。

　実写映画も大ヒットし、さらに1974年～1975年には村野武範さん、由美かおるさん主演ドラマ『日本沈没』（TBS系）がTV放映されました。小説、映画、TVドラマと続く大々的なメディアミックスは日本人の記憶に強く残り、その後もたびたび新しい『日本沈没』の企画が浮上し、草彅剛さんと柴咲コウさん主演映画が2006年に劇場公開されています。原作小説、ふたつの映画版、TVドラマ版、それぞれ思い入れのあるファンがいることでしょう。

　失うことで、初めて知る大切なものの存在、日常生活を送ることができる幸せを、新旧『日本沈没』は教えてくれます。新型コロナウイルスは第一波のピークを過ぎたかもしれませんが、これから大不況の波が襲ってくることが予測されます。不透明な現実社会のなかで、『日本沈没2020』の武藤一家はたくましく生きる勇気をきっと与えてくれるはずです。

※『日本沈没2020』は、Netflixにて2020年7月9日（木）より全世界独占配信（全10話）。

(C)“JAPAN SINKS : 2020”Project Partners

（長野辰次）