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74年の特撮『ノストラダムスの大予言』 ヒットするも子供たちは人類滅亡に恐怖して…

マグミクス / 2020年7月10日 19時10分

74年の特撮『ノストラダムスの大予言』 ヒットするも子供たちは人類滅亡に恐怖して…

■大ヒット映画『日本沈没』に続く特撮大作

 Netflixオリジナルアニメシリーズ『日本沈没2020』が、2020年7月9日から全世界配信されています。作家・小松左京氏が1973年に発表したSF小説を原作に、TVアニメ『映像研には手を出すな!』(NHK総合)が好評を博した湯浅政明監督が2020年の日本を舞台へとアレンジしたサバイバルパニックものです。

 SF小説『日本沈没』は出版時に大変な反響を呼び、特撮を得意とする東宝が実写映画化し、1973年12月に公開された映画『日本沈没』は邦画史に残る大ヒットを記録します。この興行的成功を受けて、東宝がさらにベストセラー本を原作に実写映画化したのが『ノストラダムスの大予言』(1974年)でした。

 映画『日本沈没』にはサイエンスフィクションとしての面白さがありましたが、人類滅亡の日が近づいていることを告げる『ノストラダムスの大予言』には暗い絶望感しか感じられませんでした。

 ルポライター・五島勉氏の原作本『ノストラダムスの大予言 迫りくる1999年7の月、人類滅亡の日』(祥伝社)とその実写化映画が起こしたセンセーショナルなブームに、複雑な想いを抱いていた人は少なくないのではないでしょうか。

■「恐怖の大王」の到来、すっかり信じた子供たち

 ノストラダムスは16世紀に実在したフランスの医師、占星術師、詩人です。当時のフランスを治めていたアンリ二世が10年以内に亡くなることを予言し、的中させたことで知られています。五島氏の書いた『ノストラダムスの大予言』では、ヒトラーの出現や日本列島に原爆が投下されることもノストラダムスは予言していたと紹介していました。

 小学校に通う子供たちの間でも『ノストラダムスの大予言』は回し読みされ、教室はその話題で持ちきりでした。そんな子供たちを震撼させたのが、「一九九九の年、七の月 空から恐怖の大王が降ってくる」というノストラダムスが残した詩です。

 五島氏は「恐怖の大王」のことを第三次世界大戦による核ミサイルや、超光化学スモッグである可能性について触れています。1970年代は米国とソ連が冷戦状態にあり、核戦争がいつ始まるか分からない恐怖がありました。公害による大気や海の汚染が報じられ、さらには石油ショックが日本を襲い、社会不安が高まっていました。そんななか映画『ノストラダムスの大予言』が公開され、TVでは映画のハイライトシーンが大々的に流れたのです。

 当時の子供たちは「1999年7月に人類は滅亡する」とすっかり信じ込んでしまいました。オーソン・ウェルズが演出したラジオドラマ『宇宙戦争』を聴いて、「本当に火星人が侵略してきた」と勘違いし、第二次世界大戦前の米国ではパニック騒ぎが起きたそうです。1974年の日本の子供たちも、パニックに陥る寸前でした。

■文部省推薦映画が「封印映画」に

原作『ノストラダムスの大予言―迫りくる1999年7の月、人類滅亡の日』(祥伝社)

 映画『ノストラダムスの大予言』は、『日本沈没』で総理大臣を演じた丹波哲郎さんが主演し、劇場アニメ『宇宙戦艦ヤマト』(1977年)を大ヒットさせる舛田利雄監督が撮り上げた夏休み大作でした。文部省推薦映画として公開されています。1974年の邦画の興収トップは前年末に公開された『日本沈没』で、『ノストラダムスの大予言』はそれに次ぐ好成績を収めています。東宝制作のパニック映画がその年の興収上位を独占したのです。

 ある種のリリシズムさを感じさせる『日本沈没』とは違い、映画『ノストラダムスの大予言』には物語性はありません。代々にわたってノストラダムスの予言書を研究してきた環境学者(丹波哲郎)が、人類滅亡の危機が迫っていることに警鐘を鳴らす、という内容です。公害が原因で奇形児が生まれ、放射能を浴びたニューギニアの原住民たちは食人鬼化、オゾン層の破壊によって東京上空が巨大な鏡になるなどの、ショッキングなシーンの数々で構成されていました。

 冨田勲さんの不気味なテーマ曲、予言書を読み上げる岸田今日子さんのおどろおどろしいナレーションも忘れられません。

 映画『ノストラダムスの大予言』は1980年にテレビ朝日系でTV放送されていますが、被曝者の描写シーンなどが問題視され、日本ではソフト化されずにいます。輸入版ビデオ、もしくは海賊版ビデオが出回る「封印映画」として知られています。

■今も消えない、ノストラダムスの暗示

映画『22才の別れ Lycoris 葉見ず花見ず物語』

 映画の公開から25年後、ついに1999年7月を迎えました。幸いなことに人類は滅びずに済み、現在に至っています。1999年7月1日の朝日新聞(夕刊)には五島氏が、「(予言は)まさに回避するための警告だった。人間の意思で、精密な予言も押し返せる。もし、本を読んでいまでも心を痛めている人がいたら、謝りたい」とコメントを寄せていました。子供の頃に予言に振り回された世代は、脱力感を覚えたのではないでしょうか。

 大林宣彦監督の映画『22才の別れ』(2007年)に興味深いシーンがあります。商社マンの川野(筧利夫)、同じ会社に勤める有美(清水美沙)は、それぞれ43歳と37歳で、共に独身。ふたりは焼き鳥屋で大将(長門裕之)に向かって、子供の頃に『ノストラダムスの大予言』が流行したことを語ります。

 1960年代に生まれた世代は、『ノストラダムスの大予言』の影響で未来を悲観するようになり、そのため非婚率や少子化率が高い。予言の暗示にかかってしまった、というのです。非婚率の高さや少子化の原因が、すべて『ノストラダムスの大予言』にあるとは言えませんが、多感な時期に影響を与えたことは確かでしょう。

 1999年7月に人類は滅亡せずに済みましたが、経済格差はますます激しくなり、大きな災害や疫病が相次いでいます。希望が感じられる未来を、若い世代に受け渡すこと。それが、唯一『ノストラダムスの大予言』の暗示を解く方法なのかもしれません。

(長野辰次)

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