『プロレススーパースター列伝』でリック・フレアーを描いた、梶原一騎の「先見の明」
マグミクス / 2020年7月15日 16時10分
■当時の日本では不人気も、NWAの頂点に
1980年から1983年まで小学館「週刊少年サンデー」で連載され、リアルとファンタジーを織り交ぜた「梶原節」によって数多のプロレスラーの活躍が描かれた名作、『プロレススーパースター列伝』(作:梶原一騎、画:原田久仁信)。そのなかで「ワールドワイドな認知度を持つ真のスーパースター」を、あえて挙げるとしたら……? 筆者の頭に思い浮かぶのが、コミックス6巻の「アンドレ・ザ・ジャイアント」と12~13巻の「ハルク・ホーガン」、そしてコミックス最終の17巻に収録された「リック・フレアー」に他なりません。
もちろん、マニア目線で見れば登場するレスラーすべてが魅力的であることは間違いないですし、この『列伝』をプロレスの教科書とした昭和のファンも多いと思いますが、世界規模というスケールで考えると、先に挙げた3人のレスラーが、ある意味「真のスーパースター」と呼べると思います。
とはいえ、連載当時を思い起こしてみると「何で、リック・フレアー編?」と思ってしまったのも小学校高学年だった筆者の偽らざる感想です。
1981年当時に「世界最大の団体、NWA」のチャンピオンだったフレアーが『列伝』の登場人物になることは、今考えれば何ら不思議ではないのですが、正直言って当時の日本での人気はイマイチ。『列伝』のなかでも、やたらと「ハンサムなだけが取り柄のチビで短足なレスラー」として描かれているのですが、リック・フレアーの魅力は、あえていえばプロレス観戦上級者でなければ分かりづらいものかもしれません。
■どんな試合でも成立させる「名人芸」
『WWE リック・フレアー ネイチャーボーイ』 DVD(東宝)。リック・フレアー氏36年のキャリアを網羅したドキュメンタリー映像を収録
今となっては、この『列伝』がプロレスマニアの間で「ほとんどのストーリーが梶原一騎氏の創作」であることも知られているのですが、NWAからWCW、そしてWWEとすべての団体で世界王者となり「16タイム・チャンピオン」と称された後のリック・フレアーの活躍を見れば、梶センセー(ここはあえてブッチャー風に)の眼力、先見の明は『本物』であると言わざるを得ないものです。
もちろん、「プロレスを真剣勝負」と信じていた幼少期の筆者レベルでは、スタン・ハンセンやブルーザー・ブロディ、アブドーラ・ザ・ブッチャーのような「分かりやすい」外人レスラーに魅力を感じていましたし、「ストロングスタイル」を全面に押し出したアントニオ猪木に心酔していたのですが、「どんな相手でも試合を成立させる」というリック・フレアーの「名人芸」といえる部分は、やはり『王者』に相応しい素養です。
1995年4月29日に北朝鮮の綾羅島メーデー・スタジアムで開催された「平和のための平壌国際体育・文化祝典」でアントニオ猪木と対戦し、19万人もの観客を沸かせ、「手のひらの上で転がした」試合は、リック・フレアーという相手だったからこそ、といえると思います。
『列伝』の劇中では、やたらと「チビで短足」であることが誇張され、「弱そうだけど負けない王者」として描かれたリック・フレアーというレスラーですが、そうした「不利な状況を根性で何とかする」という展開も梶原一騎作品の真骨頂。ブッチャーからのアドバイス(もちろん列伝ならではのホラ話)によって「短足を少しでも長く見せるために」スネにニーパットをつけ、「短足だからこそ脚が密着して決まる」四の字固めを必殺技にしたフレアーの活躍は、創作とはいえ物語として読めば秀逸な内容です。
そして、ともすれば大人にならなければ分からないリック・フレアーという玄人好みのレスラーの魅力を、梶原一騎氏は当時の少年であった我々に教えてくれようとしていたのかもしれません。それは、劇中でブッチャーが語った「はずかしがる女の子のパンティーをぬがすみたいで、おもちろ~い」というセリフにも集約されていたような気がします。
攻撃を受け、「やられたフリ」をしつつ最後には勝つリック・フレアーの魅力とブッチャーのセリフ……大人になった今なら、どちらもしみじみと分かります。
(渡辺まこと)
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