金田伊功氏を偲ぶ 個性的なアニメ作画「金田パース」「金田ジャンプ」「金田ビーム」
マグミクス / 2020年7月21日 8時10分
■金田伊功氏がアニメに与えた影響
7月21日は、個性的な演出でアニメの歴史に大きな影響を与えたアニメーター、金田伊功(かなだ・よしのりorいこう)氏の命日です。1970年代から80年代半ばにかけて、緩急をつけたアクロバティックなアニメーション表現や、ビシッと両手を広げた独特なポージング、パースを強調したレイアウトなど、個性的な作画スタイルで一世を風靡しました。子供の頃から知らず知らずのうちに金田氏の作画に影響を受けていたライターの早川清一朗さんが、当時を回想します。
* * *
2009年に金田氏が急性心筋梗塞により57歳の若さで旅立たれてから、もう11年が経過しています。アニメの絵は年々美しく、動きは鋭く華やかに進化していますが、ふとした折りに「あ、この動き金田さんっぽいな」と感じることがあります。それだけ、金田氏が生み出した演出は個性的で、現在のアニメにも影響を与え続けているのでしょう。
さて、筆者が金田伊功という名前を意識したのは、1990年代半ばでした。金田氏が雑誌類で盛んに取り上げられていた1980年代半ばの時期はまだ小学生で、アニメを誰が作っているのか意識してはいなかったのです。
当時大学生だった筆者は、ある日、大学の先輩から大量のロボットアニメのオープニングが収められたビデオテープを入手しました。島本和彦先生のマンガ『アオイホノオ』でも店頭で流れているアニメのオープニング集を若かりし頃の庵野秀明氏たちがずっと見ているという場面がありますが、おそらくアレと同じ物のはずです。どこかで誰かが丹精込めて作り上げたビデオが、ダビングにダビングを重ね、10数年の世代を経てなお、密かに流通していたのです。もちろん違法な品物ですが、当時はまだ著作権に関してはまだおおらかな時代でした。またロボットアニメのオープニングを見たければこのビデオ以外に手段はほとんど存在しないという現実的な問題もあったのです。現代からではなかなか考えられない話だと思います。
■金田伊功氏のアニメーションはカッコよくて気持ちよかった
『放送35周年記念企画 銀河旋風ブライガー Blu-ray Vol.1』(TCエンタテインメント)
いったい何度そのビデオを見返したのかはまったく覚えていませんが、なかでも一番気に入っていた曲が『機甲創世記モスピーダ』(以下、モスピーダ)の「失われた伝説(ゆめ)を求めて」でした。作詞は売野雅勇氏、作曲にタケカワユキヒデ氏、編曲は久石譲氏、ボーカルはアンディことシャープ・ホークスのアンディ小山氏を迎えた、1980代ロボットアニメ屈指の名曲です。アニメーションもダイナミックにして繊細で、まるで流麗なカットが独特なタイミングで次々と繰り出される、極めて印象的なものに仕上がっていました。とてもカッコよくて気持ち良いアニメーションで、何度見ても飽きなかったことをよく覚えています。
当然、オープニングアニメーションとしてクレジットされていた「金田伊功」という人物のことが気になったので色々調べていくうちに、大学の先輩から、同じテープのなかに入っていた『銀河旋風ブライガー』(以下、ブライガー)も金田氏がオープニングを担当していたことを教えてもらえたのです。
『ブライガー』と『モスピーダ』を何度も見返すうちに金田氏の癖が徐々に分かるようになっていった筆者は、『魔境伝説アクロバンチ』など他のアニメーションにも金田氏の色があることが徐々に理解できるようになっていきました。その作品数は膨大な数に及び、子供の頃からなんとなく見ていたロボットアニメの演出に、金田氏が大きな影響を与えていたことが分かったのです。
パースをあえて大胆に崩してダイナミックな絵を強調する「金田パース」。ガニ股から伸びやかにスタイリッシュに飛びあがる「金田ジャンプ」。円形の光を散らばらせ、収束させてビームにする「金田ビーム」など、金田氏が生み出した技術は多く、現代でもしばしば目にすることができます。
金田氏は1998年に映画『ファイナルファンタジー』に参加するためスクウェア・エニックスに所属し、いったんアニメ業界から離れてしまいますが、2006年には別名義で『ガイキング LEGEND OF DAIKU-MARYU』のオープニングの製作に参加し「いや、これ金田さんだよね?」と、知っている人なら明らかに金田氏だと分かる作風を存分に見せつけてくれました。
ゲーム業界においても『半熟英雄対3D』『武蔵伝II』『半熟英雄4 ~7人の半熟英雄~』のアニメーション監督を務めるなど大いに活躍を見せてくれました。
金田氏の演出にほれ込んだクリエイターは数多く、「金田フォロアー」と呼ばれた凄腕のアニメーターたちが、アニメ業界にもたらした影響と貢献は計り知れないものがあります。ひとりのロボットアニメ好きとして、あらためて金田氏のご冥福をお祈りいたします。
(早川清一朗)
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