4DXにぴったりな映画『パトレイバー』レビュー 先進性に時代が追いついた?
マグミクス / 2020年8月4日 19時10分
■王道的な面白さを追求した劇場版第1作
作業用ロボットが普及した近未来を舞台にしたSFアニメ『機動警察パトレイバー the Movie』(1989年)が、4DX にバージョンアップしてスクリーンに帰ってきました。サウンドリニューアル版としての上映です。2020年7月17日(金)より全国公開が始まり、初日3日間で入場者一万人を超えるなど、好評ぶりで話題となっています。
根強い人気を誇る『機動警察パトレイバー』は、年代によって実にさまざまな作品が存在します。『究極超人あ~る』でマニアックな人気を博した漫画家・ゆうきまさみ氏がアニメ化に先駆ける形で、1988年から「週刊少年サンデー」にてマンガ版を連載。押井守監督によって、同年にオリジナルビデオアニメ化。さらに劇場アニメ、TVアニメへと展開されました。実写版『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』(2015年)が、劇場公開されたこともまだ記憶に新しいところです。
媒体ごとに異なる『パトレイバー』が存在するわけですが、今回の4DX化された劇場版第1作は、警視庁特車二課第2小隊に所属する泉野明(CV:富永みーな)、篠原遊馬(CV:古川登志夫)が活躍する、非常に王道的なSFロボットものとなっています。
■「イングラム」に同乗している気分
東京湾を埋め立てる「バビロン計画」が進み、作業用に開発された「レイバー」と呼ばれる大型ロボットが工事現場には大量導入されています。ところが、レイバーたちが暴走する事故が多発。レイバー犯罪に対処する警視庁特車二課の篠原は、レイバーに搭載されているソフトに問題があると睨みます。しかし、そのソフトを開発した天才エンジニアの帆場暎一は、すでに自殺を遂げていました。帆場から真相を聞き出すことができず、捜査は難航します。
クライマックスの舞台となるのは、東京湾上に浮かぶ「方舟」と呼ばれる人工島です。帆場が自殺を遂げた、一連の事件の鍵が隠された場所です。折しも、大型台風が東京湾に接近。暴風雨が吹き荒れるなか、篠原や野明たち特車二課の面々はレイバーたちの反乱に立ち向かうことになります。
4DXのシートにかなりの量のミストが降り注ぎ、風も吹くので、臨場感たっぷりです。しかも、シートが上下左右に揺れ動くので、野明が操縦する警察用レイバー「イングラム」に同乗している気分が味わえます。「4DX用に企画された作品だったのか?」と思ってしまうほど、マッチしています。通常の映画料金より割高ですが、満足度はかなり高めです。
■デジタルツールに依存する危険性
上演記念グッズ「A2ポスターイングラム」(画像:ジェンコ) (C)HEADGEAR
劇場版『機動警察パトレイバー』の面白さは、それだけではありません。すでに公開から30年以上が経過していますが、時代の先取り感に改めて驚きを覚えます。ロボットの普及は、まさにこれからの現実世界で始まろうとしているところです。
また、テレワーク中にパソコンがフリーズしてしまうと、それだけで頭を抱え込む状態に陥ってしまいます。デジタルツールはとても便利ですが、その便利さに慣れ過ぎてしまうと、とても危険です。あまりに複雑に進化したデジタル機器は、専門家でないとメンテナンスできない厄介な代物となっています。ずいぶん前から、デジタル社会への警告を発していたわけです。
米国やイスラエルでは無人攻撃機(ドローン)がすでに実戦投入されており、中国やロシアでも開発・導入が進められている状況です。「もしも、軍事用ドローンが誤作動を起こしたら」「もしも、コンピューターがハッキングされたら」と考えると、背筋に冷たいものを感じずにはいられません。
■多くの作品に影響を与えた『パトレイバー』
リアルな世界観に加え、個性豊かな特車二課の顔ぶれも『パトレイバー』の大きな魅力です。「イングラム」を誰よりも愛する泉野明、レイバー製造を請け負う「篠原重工」社長の息子としての葛藤を抱える篠原遊馬。以前は暑苦しいだけのキャラとしか思えなかった太田功(CV:池水通洋)ですが、久々に見ると危険な任務に身を挺して挑む勇敢さは評価したくなります。
特車二課第2小隊を束ねるのは、一見すると昼行灯に見えるけど、実は切れ者の班長・後藤喜一(CV:大林隆介)。そして、忘れてならないのが、「おやっさん」こと整備班の榊清太郎(CV:阪脩)です。劇場版第1作では、榊班長の名言「人間の側が間違いを起こさなけりゃ、機械も決して悪さはしねえもんだ」が用意されています。多彩かつ、ユーモラスな群像劇スタイルは、湾岸署を舞台にした刑事ドラマ『踊る大捜査線』(フジテレビ系)にも影響を与えています。
4DX化第1弾に選ばれた『機動警察パトレイバー the Movie』が好評だったので、都市型テロをリアルにシミュレートした『機動警察パトレイバー2 the Movie』(1993年)、ポン・ジュノ監督の『グエムル 漢江の怪物』(2006年)の元ネタとなった『WXIII 機動警察パトレイバー 』(2002年)も、4DXバージョンを体感してみたいものです。
異なるメディアによって、またテクノロジーの進化によって、『機動警察パトレイバー』はこれからも新しい魅力を発信していくのではないでしょうか。
(長野辰次)
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