賛否分かれたアニメ版『打ち上げ花火』 “岩井俊二”と『まどマギ』の融和?

マグミクス / 2020年8月7日 9時10分

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■広瀬すず、菅田将暉が声優に挑戦

 岩井俊二監督の人気ドラマを原作にした2017年公開の長編アニメ『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』(以下、打ち上げ花火)が、「金曜ロードSHOW!」(日本テレビ系)で地上波初放映されます。放送日は、2020年8月7日(金)の21時から。広瀬すずさん、菅田将暉さんら、若手人気俳優が声優を務めているのも話題です。

 アニメ版『打ち上げ花火』の原作となった実写ドラマ版は、1993年にフジテレビ系で放映されたオムニバスドラマ「if もしも」の一編でした。奥菜恵さん、山崎裕太さんらが出演した実写版『打ち上げ花火』は、少年少女たちの「幼年期」の終わりを描いた感動作として高く評価されました。実写版『打ち上げ花火』はテレビ放映後に劇場公開もされ、岩井監督は売れっ子監督となり、その後も『リリイ・シュシュのすべて』(2001年)や『花とアリス』(2004年)などの素晴らしい作品を撮っています。

 今回のアニメ版を企画したのは、8月7日(金)から公開が始まる『映画ドラえもん のび太の新恐竜』の脚本も手掛けた東宝の川村元気プロデューサーです。アニメ版の脚本を執筆したのは、TVドラマ『モテキ』(テレビ東京系)で岩井監督へのオマージュを捧げた大根仁監督。『魔法少女まどか☆マギカ』で知られるアニメーションスタジオ「シャフト」が制作、新房昭之監督が総監督を務めています。

■賛否が分かれた後半のオリジナル展開

 名作ドラマをアニメ化したことで大きく賛否が分かれたアニメ版『打ち上げ花火』は、こんなストーリーです。夏休みの登校日、中学生の典道(CV:菅田将暉)たち男子生徒は、打ち上げ花火を横から見ると平べったいか、丸いかで盛り上がっていました。そんななか、典道は親友の祐介(CV:宮野真守)とプールで50メートル競争します。祐介は、競争に勝ったらクラスのアイドル的存在・なずな(CV:広瀬すず)に告白すると宣言します。

 プールでの50メートル競争を起点に、「もしもの世界」が発動します。最初の競争には負けた典道ですが、「もしもの世界」でもう一度競争をやり直し、典道は念願叶ってなずなと一緒に花火大会へと出かけます。実はなずなは、母親(CV:松たか子)の再婚を嫌い、花火見物を口実に家出することを決めていました。思いがけず、典道もなずなの家出に同行し、ふたりは駆け落ちするはめになります。

 前半は、実写版をアニメーション表現へとほぼ忠実にトレースした形となっています。ですが、後半からは実写版を大きく離れ、アニメーションならではのオリジナルな世界が広がります。実写版のファンは、意外な展開に驚くことでしょう。

■『まどマギ』を連想させるファンタジックな世界

 実写版とアニメ版との相違点を整理しておくと、実写版の典道たちは小学生でしたが、アニメ版は中学生となっています。また、実写版は45分という尺の中に揺れ動く少年少女たちの心理が凝縮して描かれていましたが、アニメ版の上映時間は90分と倍になっています。「茂下(もしも)」駅を出発した電車のなかで、なずなが松田聖子さんの人気曲「瑠璃色の地球」を歌うなどのオリジナルシーンが目白押しです。

 もうひとつ大きな違いは、実写版にはなかった「もしも玉」というアイテムがアニメ版には登場するということです。なずなが持っていた不思議な玉を典道は拾い、願いながら投げることで「もしもの世界」が開くのです。実写版では一度しか開かなかった「もしもの世界」ですが、典道たちは「もしも玉」を使うことで、複数回「もしもの世界」が開くことになります。

「もしもの世界」は、一種のパラレルワールド。打ち上げ花火の形も、見る人の心情によって変わって映るというファンタジックな異空間です。後半の展開を見て、劇場版『魔法少女まどか☆マギカ』三部作(2012年~2013年)を連想する人もいるかもしれません。

■「もしも玉」に込められた想い

 原作となる実写版を撮った岩井監督は、川村プロデューサーが提案した今回のアニメ化の企画を面白がり、打ち合わせの場で新しいアイデアをいろいろと提供したそうです。

 アニメ版に登場する「もしも玉」ですが、ノベライズ本を読むと補足説明がされています。なずなの実の父親は海で亡くなり、打ち上げられた浜辺でなずなは「もしも玉」を見つけた、とあります。岩井監督は宮城県仙台市出身。東日本大震災の復興支援ソング「花は咲く」を作詞したことでも知られています。アニメ版『打ち上げ花火』の「もしも玉」には、震災で亡くなった人たちへの想いも密かに込められているようです。

 例年なら、夏には日本各地で花火大会が催されます。花火大会には、故人を供養するために始まったものも少なくありません。大林宣彦監督の『この空の花 長岡花火物語』(2012年)で描かれた長岡花火大会は、長岡空襲からの復興を願って始まった夏祭りがその起源となっています。

 打ち上げ花火は、この世とあの世とを結ぶように夜空を美しく彩ります。天国から眺める花火大会は、どんな光景なのでしょうか。そんなことを考えながら、打ち上げ花火を見上げると、いつもとは違った花火に感じられるかもしれません。

(長野辰次)

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