【金ロー】『となりのトトロ』で描かれた生と死の季節。公式が否定した「都市伝説」も
マグミクス / 2020年8月13日 19時10分
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■『ラピュタ』と並ぶ17回目の放送
「となりのトットロ、トットロ~♪」
軽快な主題歌でおなじみの、宮崎駿監督の長編アニメ『となりのトトロ』(1988年)が2年ぶりに地上波テレビで放映されます。放送日は2020年8月14日(金)、21時からの「金曜ロードSHOW!」(日本テレビ系)でのオンエアです。
劇場公開時は興行的に苦戦した『となりのトトロ』ですが、1989年のテレビ放送をきっかけに人気に火がつき、スタジオジブリの代表作となりました。日本テレビ「金曜ロードSHOW!」枠での放送は、同じく宮崎監督作『天空の城ラピュタ』(1986年)と並ぶ17回目となります。
物語の舞台となるのは、1950年代の埼玉県所沢市周辺。家の近くには雑木林があり、水田が広がっていた時代です。TVもゲームもありませんが、子供たちは家の手伝いに加え、庭先や近所で遊ぶのに熱中していて、忙しそうです。自然と文化がほどよく調和していた、懐かしさを覚える時代のファンタジー映画となっています。
■「夢だけど夢じゃない」特別な日々
考古学者のお父さん(CV:糸井重里)と一緒に、姉のサツキ(CV:日高のり子)と妹のメイ(CV:坂本千夏)が郊外にある古い空き家に引っ越すところからお話は始まります。空き家に入った姉妹は、お父さんが「まっくろくろすけ」と子供のころに呼んでいた、ススの塊のような奇妙な生き物たちを見つけます。
さらに好奇心旺盛なメイは、家の裏にある大きなクスノキの洞(うろ)のなかで、大きな大きなおばけに遭遇します。メイはこののほほんとしたおばけのことを、「トトロ」と名付けます。雨の日、サツキもバスの停留場でトトロと出会うことになります。
お母さんは病気で入院しており、サツキもメイも寂しい思いをしていました。そんな姉妹は、不思議な力を持ったトトロとどんどん仲良くなっていきます。どうやら、トトロは子供にしか見えない存在のようです。トトロのお陰で、サツキいわく「夢だけど夢じゃない」、寂しいけど寂しくない日々を送るのでした。
■トトロやネコバスを活躍させた原動力は?
作中で子供の純真さを発揮していた、妹のメイ。画像は小田急百貨店新宿店で2020年7月より開催された「なつかしの昭和・平成アニメセル画展」で展示販売されたセル画(画像:小田急百貨店)
宮崎監督のオリジナルストーリーである『となりのトトロ』は、とてもシンプルなお話です。メイは入院中のお母さんのことが心配になり、病院に向かおうとしますが、途中で迷子になってしまいます。メイが行方不明になったことに責任を感じたサツキは、懸命に探します。サツキはトトロたちの力を借りて、メイを見つける。それだけの内容です。
お話がシンプルな分、宮崎監督の天才アニメーターとしての力量が存分に発揮されます。サツキとメイがトトロの体にしがみ付いて夜空を舞うシーン、庭に植えたドングリがニョキニョキと芽を出すシーン、ネコバスが村を駆け抜けるシーンは、何度観ても飽きることがありません。
トトロが空を舞い、ネコバスが走る原動力となっているのは、サツキとメイの想像力と、「お母さんに会いたい」と願う気持ちです。少女たちのイノセントな想いが、トトロやネコバスといった不思議な生き物たちを呼び寄せていたのです。
宮崎監督の実体験が、この作品のベースになっているようです。宮崎監督が子供のころ、お母さんは結核治療のために入院していたそうです。かつて結核は「死の病」として恐れられていました。お母さんを失ってしまうかもしれないという子供時代に味わった恐怖心、宮崎監督の自宅に近い狭山丘稜地帯の豊かな自然、北欧で言い伝えられる森の妖精「トロール」の伝説など、いくつもの要素が組み合わさり、『となりのトトロ』は誕生したのです。
■スタジオジブリが否定した「都市伝説」
観た人にさまざまなイメージを喚起させる力が、『となりのトトロ』にはあるようです。映画の終盤、サツキとメイに影がないことから、「サツキとメイは死んでいる」「トトロは死神」などの都市伝説が広まったことがあります。2007年5月にスタジオジブリが公式サイトで都市伝説の内容を否定したことがニュースになったほどです。
確かに『となりのトトロ』は、死の影を感じさせるところがあります。姉妹が引っ越した家は、結核患者が療養するのための物件だったという裏設定があったそうです。その人が亡くなったため、空き家となっていたのです。また、劇場公開時に同時上映されたのは、高畑勲監督の『火垂るの墓』(1988年)でした。『火垂るの墓』に登場する節子は、メイと同じ4歳でした。戦時中と戦後という時代の違いが、節子とメイの人生を大きく変えることになるのです。
サツキとメイが元気いっぱいに明るく過ごすことで、逆に死の影も明確に浮かび上がります。『となりのトトロ』は、初夏から盛夏にかけての物語となっています。夏は生と死を強く感じさせる季節でもあります。おそらく小学6年生のサツキは、もうしばらくするとトトロの姿が見えなくなるのではないでしょうか。そして、やがてはメイもトトロとお別れすることになるでしょう。
『となりのトトロ』は、純粋だった幼年期の終わりを弔うための映画なのかもしれません。子供たちは『となりのトトロ』から、大人が忘れてしまったいろんなものを感じ取っているようです。
(長野辰次)
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