移植版で『星をみるひと』を初プレイ カルト的人気の「理不尽さ」を垣間見た
マグミクス / 2020年8月16日 9時10分
■愛される「理不尽ゲーム」を初体験
ビデオゲームに限った話ではありませんが、話題を集めた作品というものは好評か不評かに関わらず、何かしらの形式で後世に語り継がれていくものだと筆者は感じています。
今回取り上げるファミリーコンピュータ(以下、ファミコン)用ソフト『星をみるひと』も、そんな作品群のひとつ。誕生から33年目にあたる2020年7月30日にNintendo Switch向けの移植版が発売され、インターネット上のコミュニティを中心に再び話題を集めました。
1987年10月27日にリリースされた『星をみるひと』は、コンピュータによる全体統治が進行した「アークシティ」を舞台に、不思議な念能力を持つ少年「みなみ」が奔走するRPGです。中世風のファンタジー設定を採用したRPGが多かった当時において、「サイキック(超能力者)が主役の物語」、「行き過ぎた管理社会に対する反抗」、「魔法の代わりにESP(超能力)を使用」などなど、全編に漂うSFテイストが大きな特徴と言えます。
しかしそれら以上に本作を印象づけるのは、多くのプレイヤーを戸惑わせたであろうゲームバランス。最初からどこで何をすればいいのか分からない、戦闘システムが不親切といった具合に、”単なる難しさ以上の理不尽さ”をはらんでいたようです。
筆者は本作のリアルタイム世代ではないのですが、移植版で初プレイ。そこで『星をみるひと』が30年を越えてなお語り継がれるゆえんを垣間見ることになりました。
■最初の拠点へ辿り着くのも一苦労
移植版の初見プレイを経て実感したのは、最序盤から進行そのものがつまずきかねない不親切さ。なかでも多くのユーザーが最初に戸惑ったポイントは、やはり最初の拠点への到達方法ではないでしょうか。
主人公のみなみは記憶喪失に陥っており、使命はおろか自分は何者でどこから来たのか判然としません(説明書に舞台背景についての解説あり)。その状況下で物語は幕を開けるのですが、具体的な目的等もゲーム内では明かされないため、開始からしばらくの間は緑と青の鮮やかなフィールドをたださまようことになります。どこかで休憩しようにも、「まむすのむら」(最初の拠点)はアイコンがフィールド上に表示されない透明仕様。運良く突入できれば良いものの、開始地点から遠くへ行ってしまうと、数分~数十分のタイムロスが生じてしまいます。
加えて言及すべきは戦闘システム。本作は序盤からこちらを一撃で葬り去る強さのザコ敵とエンカウントするので、装備やステータスを整える前に出会った場合はもれなくゲームオーバーです。そうでなくとも戦闘中は一度決定したコマンドのキャンセルが効かず、また敵からの逃走コマンドも存在しません。このため、プレイ中は「通常攻撃のつもりがESPを選んでしまい、キャンセルもできないから行動を見守るのみ」、「HPは残り少ないけど、気軽に逃走できないから戦うしかない」といったシチュエーションが繰り返し起こります。
ESPを使えば強引に逃走することも可能ですが、ESP自体も無制限に使えるわけではないため、やはり総じて辛いのは変わりません。上記の一部は移植版の新機能(巻き戻し・どこでもセーブなど)によっていくらか緩和されているものの、それでも万事解決とは言えないでしょう。
また抑えておきたいのは、移植版とオリジナル版の間にあるファーストインプレッションのギャップです。というのも、本作のオリジナル版が市場に送り出された33年前は、現在ほど情報メディア(Webサイト・SNS)があふれていなかったはず。2020年の今なら攻略情報を労せず入手できますが、情報収集ツールに限りがあった当時の場合、本作を前にして味わった焦燥感と無常感は今と比べ物にならなかったのではないでしょうか。
とはいえ、本作には一定以上のコアなファンがいるのも事実。”負の側面”ばかりがクローズアップされがちですが、移植版の公式サイトにて行われたイラストコンテストやSNS上の投稿を見ていると、今なお冷めやらぬ『星をみるひと』の人気に驚かされます。SFテイストを下地に描かれたストーリーの心惹かれたのか、それともクセのあるゲームシステムが脳裏に焼き付いて離れなくなったのか。このあたりの感想は、いつかリアルタイム世代のユーザーから生の声を伺いたい所存です。
(龍田優貴)
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