SFアニメに描かれた「特攻」と戦争の記憶。アトム、ガンダム、庵野監督作品にも…
マグミクス / 2020年8月15日 12時10分
■衝撃的だった『鉄腕アトム』の最期
2020年8月15日(土)は、太平洋戦争の終結から75回目となる「終戦記念日」となります。高畑勲監督の『火垂るの墓』(1988年)、片渕須直監督の『この世界の片隅に』(2016年)など、太平洋戦争中の市民の生活を克明に描いたアニメーション映画がこれまでに作られてきました。また、直接的に太平洋戦争を題材にしていないSFアニメや特撮ドラマにも、戦争の影を感じさせる作品は少なくありません。
最初に紹介するのは、日本初のTVアニメシリーズとなった『鉄腕アトム』です。1963年~1966年にフジテレビ系で放映されたモノクロ版『鉄腕アトム』は、初回視聴率27.4%、最高視聴率40.3%(いずれもビデオリサーチ社調べ)という高視聴率を記録しました。
多くの人に愛され続けている高性能ロボットのアトムですが、最終回「地球最大の冒険」は衝撃的でした。太陽の異常活動のため、地球は灼熱化し、人類はロケットに乗って脱出します。人類がいなくなった後、アトムは地球大統領に選ばれ、残されたロボットと地球を守るために奮闘します。
最終回のラスト、ロケットに乗ったアトムは、「核爆発抑制装置」を太陽に向かって打ち込みます。ところが隕石に阻まれて、打ち込みは失敗。アトムは装置とともに、太陽のなかへと消えていくのでした。地球には平和が戻り、人類も帰ってきます。でも、アトムの姿はそこにはありませんでした。
■架空のキャラクターでも、死なせるのはつらい
地球を守るために自己犠牲を払うアトムの最期は、太平洋戦争末期の「特攻隊」を思わせ、日本人の心を揺さぶるものがありました。その後も、主人公が壮絶な最期を遂げる作品が生まれます。
1967年~1968年にNET(現在のテレビ朝日)系列で放映された特撮ドラマ『ジャイアントロボ』の最終回、大作少年の音声指示に従って動いていたジャイアントロボは、最後だけ大作少年に従わず、原子炉を体内に持つギロチン大王を抱えて空へと飛び、上空で爆破を遂げることになります。
愛するものを守るために命を投げ出すのは、ロボットだけではありません。劇場アニメ『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』(1978年)では、主人公の古代進はヤマトに乗って、敵対する「白色彗星」の巨大戦艦への体当たり攻撃を敢行します。
富野由悠季監督の大ヒットアニメ『機動戦士ガンダム』(テレビ朝日系)では、ホワイトベースの搭乗員であるリュウ・ホセイ、スレッガー中尉らが味方を守るために、身を挺するシーンがとても印象に残っています。やはり富野監督の人気アニメ『無敵超人ザンボット3』(テレビ朝日系)も、クライマックスでメインキャラたちが次々と特攻していくことが知られています。
虫プロ出身、『鉄腕アトム』で演出家としてのキャリアを磨いた富野監督は、著書『戦争と平和』(徳間書店)のなかで、こう語っています。
「自分でもかなり情の移ったキャラクターに対して、そういうことをさせていくのを自分で見ていて、かなりつらいという経験を何度もしました。絵空事のキャラクターなのに、殺そうとするとかなりつらくなるものです。そういうことを繰り返すうちに、やがて、つらいと思えるから物語になるんじゃないか、ということもわかってきました。」(第1章『アニメと戦闘』より抜粋)
■庵野秀明監督のアンチテーゼ作『トップをねらえ!』
『トップをねらえ!』Blu-ray Box(バンダイビジュアル)
SFロボットものは、テクノロジーの進化をモチーフにしたものがほとんどです。また、人類はテクノロジーの進化に伴い、大量破壊兵器を使った近代戦を行なうようになりました。SFロボットものには、テクノロジーの進化による戦争の恐ろしさを伝える一面もあるように思います。
そんなSFロボットものの系譜のなかで、アンチテーゼ的な存在となっているのが、庵野秀明監督の監督デビュー作『トップをねらえ!』(1988年~1989年)です。さまざまなSF作品やスポ根ドラマなどのパロディとして楽しめる『トップをねらえ!』ですが、それでもクライマックスは熾烈な局面を迎えます。
落ちこぼれの女子高生だったノリコは人類最強兵器「ガンバスター」に乗って、強大な侵略者との最終決戦に挑みます。直情タイプのノリコは単機での特攻を仕掛けようとしますが、冷静沈着なカズミお姉さまに諌められます。単機では帰還できないが、2機でなら帰還の可能性があると、2号機でカズミお姉さまは並走します。
「必ず帰ってくる」というふたりの強い気持ちが、奇跡を生むことになります。それまでの日本のSFアニメにはなかった感動的なエンディングが、『トップをねらえ!』のラストには待っています。
■生きて帰ることを模索した「特攻兵」も実在
当然ですが、戦時中に実際行われた「特攻」は凄惨さを極めました。鴻上尚史氏が執筆した『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』(講談社現代新書)を読むと、戦争のシビアな実相に触れることができます。
特攻兵の多くは断れない状況下で志願させられていたこと、特攻機は戦争末期になるにつれて整備不十分だったこと、重たい爆弾を積んでいたため敵艦隊に体当たりする前にほとんどの特攻機が撃墜されてしまったこと……などが明かされています。
劇作家、演出家として活躍する鴻上氏の文章はとても読みやすいので、関心のある方はぜひ手に取ってみてください。特攻隊に選ばれながら、9回出撃して、9回帰還した元特攻兵・佐々木友次さんの、「どんな状況下でも必ず生きて帰る」という希望を失わずにいた心の持ち方には、胸を打つものがあります。また、鴻上氏は特攻で亡くなった方たちを否定することは決してせず、特攻を生み出す戦争とそれを容認する社会の恐ろしさについて掘り下げています。
■『アトム』には再登場の構想があった
最後にもう一度、『鉄腕アトム』の逸話を。
モノクロ版の最終回で悲劇的な最期を遂げたアトムですが、原作者の手塚治虫氏はもうひとつの代表作『火の鳥』の最終章で、アトムを再登場させることを構想していたそうです。未来と過去とを行き来する火の鳥が、アトムのいる時代に現われるというものだったようです。
もしかすると、自己犠牲を払う覚悟を決めたアトムは、その直後に火の鳥と出会ったのかもしれません。不思議な力を持つ火の鳥に触れたアトムは生まれ変わり、人間の姿になって地球に戻ってくる。そんなアイデアを、手塚氏は考えていたのかもしれません。
終戦記念日の今日、SFアニメや特撮ドラマにも、現実の戦争をモチーフにした作品が多いこと、そして現実の戦争は悲惨さを極めていたことを頭の片隅に留めておいてください。
(長野辰次)
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