百合ホラーゲーム『夜、灯す』 少女たちの情念が絡み合う世界を覗き見たい方に。
マグミクス / 2020年8月21日 18時40分
![百合ホラーゲーム『夜、灯す』 少女たちの情念が絡み合う世界を覗き見たい方に。](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_33819_0-small.jpg)
■「百合×青春」+ホラーの新機軸
2020年7月30日に日本一ソフトウェアからプレイステーション4、ニンテンドーSwitch向けに発売された『夜、灯す』は、5人の少女によるひと夏の青春を怪異とともに描くアドベンチャーゲームです。ホラーは苦手なのに、なぜか本作をプレイすることになったゲームライターの早川清一朗さんがレビューを行います。
* * *
最初に書いておくと、筆者はホラーが超苦手です。たとえそれが、美少女の幽霊であっても。
いきなりのネタバレになりますが、本作は若い女の子の青春物語に、空気を読まずちょっかいをかける幽霊さんの物語です。人によっては違うとおっしゃるかもしれませんが、筆者はそう読み取りました。
もう本当にね、登場する女の子たちが可愛いんですよ。しかし考え方の違いによる衝突、秘めた想いを暴かれ激高、そして互いに赦(ゆる)しあい仲良くなろうかというタイミングで……いきなり美少女幽霊こと小夜子さんが現れて、百合百合しいゲームが一気にホラーサスペンスになるのです。作品ジャンルそのものが一瞬で切り替わるこの面白さ、実にいいですね。
特にこのゲーム、ストーリーが進行するとたびたび選択肢が登場するのですが、かなり失敗率が高く、「え、このゲームでこんな展開予想しないって!」という勢いで一気にゲームオーバーになったりします。とはいえオートセーブが優秀ですぐにやり直せるため、明らかに「いや、この選択肢はヤバいだろう……」という空気がプンプンしていても、ノリで突き進めるのでけっこう楽です。
とはいえ主人公の十六夜 鈴(以下、鈴)が死にかけて(?)いるグラフィックも回収しなければいけませんし、全テキストを読むためには分かっていても進まなければいけない道もあるのです。
章を進めるごとに深まっていく少女たちの関係。とある理由から鈴にまとわりつき、周囲の人間を排除しようとする小夜子。
ああ、これが百合なのか。愛と、深まった愛ゆえの凶暴性が、百合を構成する強力な一要素たりうるのだと、思い知らされるような展開が続いていくのです。百合とは、実にいいものですね。
■キーアイテムとしての「箏」
箏曲部のエース、十六夜鈴の夢にたびたび現れる小夜子。「お姉さん」と呼ばれる彼女の登場により、さまざまな怪異が箏曲部の少女たちを巻き込んでいく
さて、本作で筆者が注目したのは、キーアイテムとして箏(こと)が使われている点です。ゲームの世界ではメジャーとは言えない、というより扱っている作品がまず思い当たらないレアアイテムです。
決して現代音楽のなかでは主流とは言えない楽器ではありますが、作中では架空の流派である皇道流が登場し、ストーリー上きわめて重要な役割を果たすこととなります。作中には箏に関する知識も豊富に入れ込まれており、知らない世界をひとつ、垣間見せてもらうことができました。
この百合、ホラー、箏など、ゲームの世界ではほとんど見られない要素を取り入れ、ストーリー化したのが、シナリオライターの永田たま氏です。コンシューマーでは本作がデビュー作のようですが、ソーシャルゲームアプリの執筆を行うシナリオ会社「ストーリィベリー」の代表を務め、多数の作品を執筆しておられます。今後、どのような活躍を見せて下さるのか期待できる方だと感じられました。
また、魅力的なキャラクターの数々を生み出し、作中の多くのビジュアルを書き上げたイラストレーターであるカオミン氏の力も、本作を語るには決して欠かすことはできないでしょう。鈴や小夜子をはじめとした多くのキャラクターたちの可愛らしさと百合百合しさ、そしてホラーシーンの鮮烈さ、いずれの描写も表現しきれる柔らかさと鋭さを併せ持った筆致が、本作に命を吹き込んでくれています。
ただ惜しむらくは、少々ボリュームが不足しているようにも感じられました。ジャンルがアドベンチャーなので当然ではありますが、ゲームというよりも「読む小説」としての傾向が強い作品です。たっぷりと時間を使って遊びごたえがあるタイトルとぶつかり合いたいという方ではなく、女の子たちの情念が絡み合う女の園を見つめていたいという方にこそ、お勧めしたいタイトルです。
特に、『マリア様がみてる』を好きな方なら、フィーリングが合う可能性は高いでしょう。女の子同士のひと夏の青春物語、一度体験してみてはいかがでしょう?
(早川清一朗)
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