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金ロー『借りぐらしのアリエッティ』 ミニチュア化された宮崎駿ワールド

マグミクス / 2020年8月27日 18時40分

金ロー『借りぐらしのアリエッティ』 ミニチュア化された宮崎駿ワールド

■主人公は身長10センチの美少女

 身長10センチの小さな、小さな美少女が活躍する劇場アニメ『借りぐらしのアリエッティ 』(2010年)が、3年ぶりに地上波でTV放映されます。放送枠は2020年8月28日(金)21時からの「金曜ロードSHOW!」(日本テレビ系)です。

 スタジオジブリが制作した『借りぐらしのアリエッティ』は、英国の児童文学『床下の小人たち』が原作です。若い頃に『床下の小人たち』を愛読した宮崎駿氏が、企画と脚本を担当。スタジオジブリの精鋭アニメーターたちのなかでも、ひときわ優れた才能を見せていた米林宏昌氏が監督に抜擢され、監督デビューを果たしました。

 声優には、志田未来さん、神木隆之介さんら人気キャストを起用。興収92.6億円という大ヒットを記録しました。フランス出身のセシル・コルベルさんが奏でるケルティックハープの音色も印象的です。

■生きる希望を失った少年と小人少女との出会い

 ストーリーは、スタジオジブリらしい「ボーイ・ミーツ・ガール」ものです。12歳になる人間の少年・翔(CV:神木隆之介)は、心臓の手術を1週間後に控え、大伯母が暮らす東京郊外の屋敷でひと夏を過ごすことになります。屋敷に到着した翔は、庭の草むらに潜む小さな小人を目撃します。それが、人間からこっそり食糧や資材を「借りぐらし」する一族の少女・アリエッティ(CV:志田未来)でした。「人間に姿を見られてはいけない」と親から厳命されていたアリエッティと生きる希望を失いかけていた翔との、出会いと別れの数日間が描かれます。

 14歳になるアリエッティが、父親のポッド(CV:三浦友和)に連れられて、「借り=狩り」に向かうシーンに、わくわくします。母親のホミリー(CV:大竹しのぶ)の心配をそよに、アリエッティは髪をクリップで束ね、初狩りにやる気満々。ポッドは両手両足に小さく切った粘着テープを貼り付け、高層ビルのようなテーブルの脚をペタペタと巧みに登っていきます。宮崎駿作品でおなじみの浮遊シーンとは異なるリズムの上下運動が、楽しげに描かれています。

 物語の前半、アリエッティの姿が、ティッシュペーパーの影や網戸越しにしか翔の目に映らないのも、いい感じのもどかしさがあります。翔のご先祖の特注品である「ドールハウス」のディテールぶりにも目を奪われます。小さきものへの愛情が、たっぷりと注がれた作品になっています。

■「借りぐらし」を実践してみせた米林監督

 1973年生まれの米林監督は、スタジオジブリの歴代監督としては最年少での監督デビューでした。いかにもスタジオジブリらしい作品に仕上げていますが、改めて作品を見直すと遊び心をいろいろと織り込んでいることに気付きます。

 アリエッティがダンゴ虫たちと戯れるシーンがありますが、ダンゴ虫がもぞもぞと動くシーンは『風の谷のナウシカ』(1984年)の巨大生物オームを思わせます。現在、宮崎駿氏の監督デビュー作『未来少年コナン』(NHK総合)が日曜深夜に再放送中ですが、『借りぐらしのアリエッティ』に登場する小人の男の子スピラー(CV:藤原竜也)は、『未来少年コナン』の野生児・ジムシーによく似ています。

 翔が暮らす屋敷では、猫のニーヤを飼っています。小さなアリエッティから見れば、猫のニーヤはとても大きな猛獣として映っているはずです。人間の言語を理解する『もののけ姫』(1997年)の犬神か、『となりのトトロ』(1988年)のネコバスのようです。物語序盤、ポッドとアリエッティがこっそり角砂糖をいただくシーンは、『ルパン三世』(日本テレビ系)を彷彿させます。

 一歩引いた目線で『借りぐらしのアリエッティ』を眺めてみると、新人監督である米林監督はスタジオジブリを支えてきたアニメ界の大巨人・宮崎駿氏のこれまでの代表作の数々をミニチュア化して描いていることが分かります。企画・脚本を担当した宮崎駿氏の手のひらの上で、米林監督は思いきって遊んでいるかのようです。まさに米林監督は、スタジオジブリと宮崎駿というブランド力を巧みに「借りぐらし」して、デビュー作を完成させたのです。

■スタジオジブリにはなかった「萌え」要素

 もうひとつ注目すべき点は、『借りぐらしのアリエッティ』には他のスタジオジブリ作品では消されている「萌え」要素が感じられることです。翔の手のひらにアリエッティが乗り、腕を伝って肩に乗るシーン、翔の差し出した指にアリエッティが触れるシーンは、ほんのりとした萌えを感じさせます。

 体の大きな女性に抱くフェティッシュな感情のことを「ジャイアンテス」と呼びますが、『借りぐらしのアリエッティ』の場合はその逆のパターンです。体が小さくなった女の子(シュリンカー)をヒロインにした、内田春菊さん原作コミック『南くんの恋人』は、これまでに何度も実写ドラマ化されています。

 あからさまにフェティッシさを押し出すのではなく、あくまでも上品に描いているところが、『借りぐらしのアリエッティ』が大ヒットした要因ではないでしょうか。もちろん、借りぐらし一族は、圧政や環境破壊によって居場所を失いつつある少数民族や希少動物たちと重ね合わせることもできます。社会学的にも、フェティッシュ的にも鑑賞することができる、多重構造の作品だと言えるでしょう。

 大ヒットでデビュー作を飾った米林監督は、スタジオジブリらしくない自己中なヒロインを描いた『思い出のマーニー』(2014年)を続いて監督し、その後スタジオジブリから独立します。米林監督には、ジブリの亜流ではなく、宮崎駿作品とは異なるフェティッシュさを感じさせる独自路線をぜひ突き進んでほしいと思います。

(長野辰次)

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