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「ホラ話」だからこそ胸アツだった!?『プロレススーパースター列伝』カブキ編

マグミクス / 2020年9月3日 18時40分

「ホラ話」だからこそ胸アツだった!?『プロレススーパースター列伝』カブキ編

■「現実」よりダイナミックに描かれた凱旋試合

 1980年から1983年まで小学館「週刊少年サンデー」で連載され、全13編のエピソードでプロレスラーの生きざまを描いた傑作、『プロレススーパースター列伝』(作:梶原一騎 画:原田久仁信)ですが、虚実織り交ぜたエピソードの、そのほとんどが梶原一騎氏の創作であることは既にマニアの間では周知のことだと思います。

 もちろん、当時は多くの小学生や中学生が『列伝』のエピソードを信じ切っていたのですが、だからこそ、プロレスの魅力にとりつかれ、マニアの道を歩みだした方もいるでしょう。またこの『プロレススーパースター列伝』には名言・名シーンも多く、大げさな物言いをすれば「人生」の訓示を教えてくれる作品となっています。

 その数ある『列伝』の中で、最後のエピソードとなったのが「ザ・グレート・カブキ」の活躍を描いた『東洋の神秘! カブキ』編です。おそらくはこのストーリーが最も“創作指数高め”で、他の『列伝』が6~7割がた「ウソ」だとすれば、ともすれば「カブキ編」は内容の8割がウソかもしれません。

 しかし、この「カブキ編」。梶原一騎氏の創作のパーセンテージが多かったからこそ、現実よりドラマチックに「ザ・グレート・カブキ」の活躍が描かれていたともいえます。

 特に、「昭和58年2月11日──全日本プロレス『エキサイトシリーズ』後楽園大会」で行われたカブキの凱旋試合は、現実より『列伝』の方が好勝負。ジム・デュランを相手にまずは「毒霧」を顔面に噴射し、空手殺法やキャメルクラッチを繰り出し、エンズイギリで仕留めるという、かなりスピーディーな展開です。

 ところが現実のカブキの試合は(当時の個人的な感想ですが)、結構期待ハズレ。実際、実況を担当した日テレの倉持アナウンサーも「まだまだグレート・カブキのですねぇ、恐怖の技というのがぁ、この後、出てくると思いますが……」と言った途端に、あっけなくフィスト・ドロップでフィニッシュし、当時の会場をザワつかせた記憶があります。この空気を察知して、梶センセーも試合の結末を変えたのかもしれません。

■「ほとんど創作」だからこその功績

「アンドレ・ザ・ジャイアント ザ・グレート・カブキ編―プロレススーパースター列伝」(松文館)

 また変えたといえば、『列伝』の中での「カブキ」は東南アジアでのドサ回りの遠征に出され、シンガポールで対戦した「ガマ・オテナ先生」の一番弟子であるウォン・チュン・キムに敗れたことをキッカケに弟子入りし、少林寺拳法を学んでいくというストーリーなのですが、日本プロレスの東南アジア遠征に帯同したことはあるものの、実際の高千穂明久の初遠征先は後にスーパースターとなるアメリカが最初。

 当然、架空の人物である「ガマ・オテナ先生」の一番弟子である「ウォン・チュン・キム」もこの世に存在しません。

 ということからも、その後の「ジャパニーズ・デビル」としての空手スタイルでの活躍や香港での映画スターとの対戦、「ジャイアント馬場さんと猪木先輩のアイノコみたいな」巨人レスラーとの対戦などは、すべて創作と見るのが自然でしょう。もちろん「13種の毒草、毒キノコの粉末薬品を調合した」という毒霧の成分も然りです。

 しかし、こうした梶原一騎氏のイマジネーションがさく裂した架空のストーリーこそが「カブキ編」をドラマチックかつ『列伝』屈指の名作に昇華させているのも、また事実。特にキム道場での特訓シーンはスピーディーに展開され、当時、イチ読者だった筆者の胸を熱くした覚えがあります。「必死の力」とは何かを学んだのは、この「カブキ編」です。

 その他、現実と乖離した点を挙げると、じつはトラースキックをカブキに伝授したのは上田馬之助であるとか、極悪な「ダラ幹」として描かれている日本プロレスの芳の里社長にこそ、現実世界のカブキ本人は恩義を感じている……といったエピソードがあるのですが、ともかく「毒霧殺法を駆使した元祖ペイント・レスラー」というザ・グレート・カブキの功績は本物です。この先駆者なくしてその後のグレート・ムタも、TAJIRIも、現在の新日で活躍するBUSHIも存在しなかったと思います。

 ほとんどが創作だからこそ、血湧き肉躍る物語が展開される「東洋の神秘! カブキ編」。このストーリーを思い描いた梶原一騎氏の脳内こそが、最大のオリエンタル・ミステリーといえるのかもしれません。

(渡辺まこと)

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